ななき
2025-03-29 18:12:26
1184文字
Public 吸死
 

雨の薔薇園、シーン1

(反転ドラロナ、ド+ロ寄り)
薔薇園にて、最後のお茶会。

 雨の薔薇園。水の匂いにもかき消されることのない、優美な香りが闇に溶けている。
「いらっしゃい、お嬢さんフロイライン
 迎えたのは白髪隻眼、レイピアで武装した痩身の吸血鬼。庭の中央、ガゼボの柱にもたれていた。
「ええ、良い夜ですわね、おじさま」
 お嬢さんと呼びかけられた訪い人は、低い男の声で応えた。銀髪碧眼、赤い衣装の退治人。降りしきる雨の中に立っている。
「月もない雨の夜だよ? いや、キミがいるならどんな夜でも良い夜だが」
「嬉しいですわ」
 ざり、と庭土を踏む音が雨音に紛れる。
「お茶を用意しよう」
「はい。あ、いいえ。ご存知でしょう、わたくしお仕事の前はお食事をいただきませんの」
……。そうだったね。それなら、せめて屋根の下への招待を受けてくれないかい?」
「それも、いいえですわ。……お気遣いはありがたく」
 吸血鬼から、退治人の顔はよく見えなかった。つばの広い帽子が、碧眼を隠してしまっている。わずかに覗く口元は耐えるように唇を噛み締めていた。
 ふ、と吸血鬼は優しげに顔を緩めた。柱から背を離し、庭に向かって手をさしのべる。
「そんな顔をおしでないよ。笑顔が一番似合うのに」
……
 答えない退治人に、雨が一層重く強く叩きつける。
 一瞬、強い光が闇を押しのけ、庭と、そこに立つものを照らし出す。雷鳴が響いた。――近い。
 ひび割れた声が、薔薇のように赤い唇からこぼれ落ちた。
「誤解だとおっしゃってください、おじさま。このふた月で消えた十人のことなど、なにも知らないと」
「お嬢さんの頼みならいくらでも。……だが、キミは仕事をしにきた」
……はい」
 ほとんど泣き声のようなその肯定に、吸血鬼は眉を下げ、一度隻眼を閉じる。もう一度目を開けたとき、その顔に浮かぶのは明るい笑みだった。
「嬉しいな。言っていただろう、私は一度、キミの仕事を見てみたかったんだ。……特等席だ」
「おじさま」
 ぱ、と顔を上げた退治人は悲痛な表情をしていた。
 シャリ、とレイピアが抜かれる。銀の切っ先が、まっすぐに退治人に向けられた。

 厳かな声が、決別を告げる。
「私は竜の一族、ドラルク。人間に負けるわけにはいかない」
 泣きそうに顔を歪めていた退治人は、吸血鬼の揺るがぬ切っ先をみて、いっそう悲痛に、そして悟ったように微笑した。
 皮の手袋が握りしめられる。ひとつ、大きく息をして――そこに居たのは最強の高等吸血鬼専門退治人だった。ザ、と半身を引いて構えを取る。
 
……お話し合いを、始めましょう」
「どうぞ一曲お相手を、お嬢さん」


 ◇◇◇◇
……というシーンをやりたいのですわ」
「うーん、悪くないけど、キミ相手に善戦できる気がしないな、私。即死だよ」
「まだそんなことを仰るのですわね」
「なんのことかなあ」