ぽふむん
2025-03-29 22:45:00
1592文字
Public ワンドロ
 

愛の鐘

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負
「螺鈿」
氷柱if
童磨の瞳が螺鈿のようだなと。
童磨の趣味に「舞」がありますが、あれこそ感情が必要な分野でして
感情がない……上手いけど、なんか印象に残らない平板なもの
ではそんな人に何故信者がつく?
そういう疑問点を形にしてみました。
タイトルは、聞いていた曲
そして、道成寺の梵鐘です

さわさわ
さわさわ

様々な声がさんざめく。
皆が皆おめかしをして、これから始まる能舞台への期待に、胸を弾ませていた。

しん

急に客席が静かになった。
それは、舞台開始直前に、剃髪の男を従えた美少女が入ってきたからだ。

気が強そうで、それでいてたおやかな美少女が正面席、関係者用の桟敷席に通されたからだ。
少女は、上質な淡い藤色の訪問着に、錦の帯。
これまた見事な螺鈿細工の帯留め締めている。
その帯留めの螺鈿が虹のよう。
さながら、これから出てくる演者の瞳のよう。

普段は使われることの無い、特別な席に少女は通された。
そこは、演者の特別招待者用の席。

明らかに一般客ではない。
それでも、誰も少女に声をかけもしなければ、見向きもしない。
もちろん、目でだけチラチラこちらの様子を伺っているものもいるのだが……

それは、この界隈の暗黙のルール。
演者とお近付きになる為に親族に近づくなど以ての外。
そのようなことをすれば信者の間から蛇蝎のように疎まれ忌み嫌われ、蔑まれる。

おかげで、平和に鑑賞できるのは良い事だ。
程なく演目が始まった。

それは、祭神に捧げる奉納の能舞台
奉納の舞だ

道成寺。

ある美僧に恋をした女がいた。
だが戒律があるため、僧はその想いに応えることはできない
なのに、その気はないのに口先三寸。出任せの口約束をした。
優しい嘘のはずだったのに、それが安珍の運の尽き。

女の想いは強いこわいもの
安珍は、どこまでも追いかけられ、梵鐘の中に隠れたが

焼き殺された
その黒焦げの安珍に清姫は絡みつく。

そんな業深い女、清姫を演じ、舞うのは童磨だ。
よくもまあ 。
あの巨体を感じさせず、女のように嫋やかに

心から感心した
道成寺の演目が終わった。
今度は打って代わり童磨は男舞を舞うという。
幕間に、しのぶはお付の男に声を掛けた。

「見事なものですね。本当にそこに蛇女が居るようでした」

背後から、話しかけた男とは違う声がする。
「それは、あの男の魂を抜き「清姫」という女の魂を憑依させているから……ですよ」
振り返ると、そこに居たのは先程安珍を演じていた男。
先程まで舞台にいた人物がそこにいるのに騒動にならない。
皆一定距離を保っているのは、良くしつけられたものだ。

そういう客層だからこそ、安珍はここに出てきたのだろう。
安珍はしのぶに解説する。
「我々演者は、ただ楽に合わせ手足を動かし歌っているだけではありません。
かと言って、人を焼き殺すほど人を愛し、蛇になったこともございません」
安珍の言葉にしのぶはただ黙って頷いた。
「それでも、演者にもよるのでしょうが、その気持ち、感情を察し、理解し、演じるのが我々です」
またしのぶは、黙って頷いた。
「あの男は、童磨と言う魂を抜き、別人格を憑依させるのが上手い。もちろんこれから舞う男舞も巧みですが、女舞はまさに女が憑依してるよう。
ただし、やり過ぎると己が何者か、それが自分の感情かどうかすら分からなくなるやも知れませんね」

ゴクリ

しのぶは思わず息を飲んだ。
まさにその通りだから

あそこに清姫がいた
あれは童磨ではない。
安珍を黒焦げにして、なおもとり縋ったのは、清姫だ。

その時しのぶの肩に、安珍の手が置かれた。
「俺、あいつと違ってこの後暇なんだ。この後お茶でも」

「お戯れを……

その手を振り払おうとしたが、その必要はなかった。

「ひぃっ」

会場から悲鳴が上がる。

空気が冷えた気がするのは他でもない。
鏡の間の隙間からチラチラ見える二つの螺鈿細工。
しのぶの帯留めとお揃いのような、螺旋の瞳がこちらを睨んでいたから。
男清姫が怒っていた。

───オレのオンナニキヤスクサワンナイデクレルカイ?───

童磨自身が怒っていた