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yossy
2025-03-29 06:48:23
5317文字
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自創作
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決戦前夜
野佐和大樹高校時代の捏造
甲子園大会準決勝と決勝の話
やきう素人のSS
『今、準決勝の組み合わせが決まりました!』
『ここで当たりましたか〜』
『熱い試合になりそうですね』
八月十九日金曜日夜。
三ッ葉高校野球部は貸切り状態の旅館の宴会場に集っていた。
「さて、明日はいよいよ準決勝な訳だけど」
慣れないカラオケ用有線のマイクを持ちながら部長として前に出て部員の顔色を見るが、やる気に満ち溢れた表情の者は居なかった。
そりゃそうだ。何せ相手はスポーツ名門校で甲子園常連校、何人ものプロ選手を輩出してきた高校である。
開催時点で既に優勝候補に名前が上がっており、その名に恥じぬ大量得点、ホームラン数、ほぼコールド勝ちという記録の数々に、出来る事なら最後に対戦したい相手だった。
そもそも俺たち三ッ葉高校は甲子園初出場、進むだけで記録更新をするような規模の学校だ。自信が無くなるのも無理はない。
「オラァ!お前ら!野佐和が話してんだろ前見ろ!」
副部長でバッテリーの大守《おおもり》が声を荒げる。マイクが反響し何人かが顔を上げる。
「全員顔上げて聞け!」
キーンとマイクの反響音に耳を押さえながら、ありがとうとマイク外でお礼を言って少し咳払いをする。
「まあ、みんなの気持ちも分からないでもないけど、勝つためのミーティングだから、しっかり対策すれば大丈夫。
それじゃ、対戦相手の情報を共有します」
マネージャーに声をかけて映像を流してもらう。カラオケ用のモニターをみんなで集中して見つめる。
いつもマネージャーにお願いして作って貰っている相手チームの映像と、簡易的なデータのまとめが表示される。
地区大会の成績、戦術の傾向、要注意選手、甲子園期間中のデータまでが次から次へと流され最後は暗転して映像が終了する。
改めて部員の顔を見ると首を振る者と青ざめる者とだった。
「いや、いやいやいや、これ勝てるの⁉︎」
「打線はまぁまぁ厳しいな」
部員の悲鳴を無視しながら大守が呟いた。
「そうなんだよね。それに投手は今のところ俺しかいないし」
俺たち三ッ葉高校は準々決勝の試合中、二年投手の子がピッチャー返しが体に当たり負傷。控えの投手は投球が安定していなかったり、一年生だったり、スランプが来てしまったりと、現状安定して投げられるのは自分しかいない。
「相手は全員が満遍なく点を稼いでくるし、一回点が入るとその回で大量に取ってくるしな
…
」
中継ぎもリリーフも使ったところでの失点も見える。
「しかも相手は今大会のホームラン王が控えてんだろ?」
「ああ、四番の?」
「お前
…
本当名前覚えないな」
「?」
「いや、何でもない」
「俺としては、その例の四番を抑えても全員打てるタイプだと思うし、何なら一年捕手の八番の彼も点取ってるし、侮れないと思うけど」
そうだな〜と、違う事を考えていたのであろう大守から空返事をもらう。
モニターのリモコンを操作して映像を巻き戻しては眺める。
「穴は無い、けど得意不得意は多少なりともありそう」
「おら、キャプテンの話だ。聞け!」
ざわざわとしていた部員たちが大守の声で会話を止め注目してくれる。
「大量得点に目が行きがちだけど、無失点で終えた試合は地区大会の最初の方だけで、直近の試合でも相手に得点を許してる」
「ホントだ〜」
間の抜けた相槌に全員笑い出す。場の雰囲気が落ち着いた辺りで説明を続ける。
「長打の処理は上手いけど、それ以外の送球のエラーが目立つ。幸いうちのチームは足が速いのも多い。だから内野安打狙いの流し打ち作戦で行こうと思うんだけど、どう思う?」
賛成〜という声が上がる一方、挙手した後輩が声を上げる。
「でもキャプテン、この作戦バレたら内野の警戒高まって、後半厳しくなりませんか?」
「うん、確かに俺もそう思うから、そしたら大守が長打を打って」
「は?」
「て言うのは冗談で」
ゲラゲラとみんな笑い転げる。
「気付かれた時点で長打だったりバンド狙ったり、みんなの得意な形で攻撃していいと思う」
「前半は体力温存の少数得点狙い。後半は得意な形での攻撃。なら防御はどうする?」
様子を見ていた監督の言葉に、皆が沈黙する。一瞬迷いながら、
「相手はパワー打ちが多いので、フライを狙って投げながら、出塁させる数を抑えます」
「出来るのか?」
「俺なら出来ます」
おお
…
と部員からの声が聞こえる。監督は特に表情を変えるでもなく、
「エラーをしたら交代するからな」そう言って部屋を出て行った。
ざわざわと各々が好き勝手言い始める。
「キャプテンのノーヒットノーランか〜」
「甲子園でノーノーやったら化け物だろ!」
そこまでは出来ないと思うけど
…
と苦笑いしていると
「おら!お前ら静まれ!」
何度目かの大守の声にみんながやっと静まる。
「今日のミーティングは以上、明日のためにしっかり休むように。夜更かし厳禁で」
解散、といえばみんな素直に部屋に戻って行った。
「の、野佐和先輩
…
」
宴会場を軽く片付けてから廊下に出ると、この前の試合に出場していた二年の投手がいた。
「どうした?」
「その、すいません
…
。大事な試合で出られなくて
…
」
ピッチャー返しが当たった右腕を抑えながら顔を俯いている。
「いやいや、まだ二年なのにプレッシャーと戦って投げてくれたし、おかげで俺も疲労もなくここまで来られたからさ。あんまり気を落とすなよ」
「でも
…
」
「むしろこれから俺が頑張らなくちゃな〜!三年の意地見せないとな!」
不安そうな顔で見上げられる。
「俺が引退した後に引っ張って行くのはお前だから、しっかりやれるだけの事をやって、経験を吸収して、次に繋げてくれよ」
彼を部屋まで押していくとついに泣き出してしまった。
八月二十日土曜日午前
けたたましいサイレンの音、沸き立つ熱気と土の匂い。審判の号令の後、相手に礼をする。
「相手チーム、近くで見ると本当体格凄いな」
「こちとら公立だぞ。私立と比較すんな」
「ほら、集合しろー!」
「はーい」
落ち着いた雰囲気のなか、全員で円陣して顔を合わせる。
「今日も作戦通り、普段通り。全員が得意な事出し切れば勝てるから、この試合も勝って、決勝行って、優勝しよう」
「お前ら行くぞ!」
むさ苦しい全員の雄叫びを聞きながら、各々自分のポジションへと移っていくのを眺める。三ッ葉高校は後攻、大守に問いを出してもらいながらデータを確認し肩を温める。
「一、ニ、三は?」
「左、右、右」
「位置は?」
「中央低め、または外角狙い」
「サインは?」
「んー、Cプランで」
「いつもはAとBだろ」
「そろそろバレる頃合いじゃない?」
「あー
…
それもそうか」
「じゃ、今日もよろしくね大守」
「任せろ。頼んだぞキャプテン」
アナウンスの声と吹奏楽の演奏、応援の声が聞こえる。流行曲、定番の応援歌。サインで捕手に合図し、歌や応援を口遊みながら投球する。投球の様子を見られているのを確認しながら、微妙に位置をずらしてキャッチャーミットに球を収める。
一回はお互い三者凡退。攻守交代でベンチから移動すると相手のアルプススタンドから絶叫のような歓声が上がる。グラブで口元を隠しながら大守に近づく。
「びっくりした、何かあった?」
「四番だろ、ほらあそこの」
大守に肘で突かれ、目線の先を見る。自信に満ち溢れた相手のエースがそこに立っていた。
「対戦楽しみだな」
「早く行くぞ」
「ガチでいくからよろしく」
「
……
下手な投球したらボコすからな」
笑顔で返事してからマウンドに立つ。
爆音のアフリカン・シンフォニー。割れそうな歓声。周りが打者に注目する中でマウンドに立つ時は、これ以上ないくらいワクワクする。ドMなのかとよく言われるけど、相手の悔しがる顔が見たいだけ。
一回の三人の打席を見たのだから、きっと学習してくれてるはず。だから異なる球種で異なるコースに投げる。チェンジアップ、スプリットで球の落ち具合を変える。かと思えばスライダーとツーシーム。得意不得意の少ない相手だからこそ、毎回異なる位置に投げる。
一度ファールボールを打たれるが、何とか三振に持っていき、二回も凡退に終わらせる。
二回裏はヒットを出し、出塁はするもゲッツーを取られ、その後フライを取られ交代。打者の感覚は良さげ。
「大樹、八番なんだが、スイッチヒッターだから気をつけてな」
「一年生だよね? 四ヶ月でスタメンだし、捕球もいいし、警戒しとくよ」
不思議な雰囲気の相手に少しペースを乱されるも、何とかフライを打たせ、出塁させずに三回表を終わらせる。
裏の攻撃、九番として打席に立つ。ツーアウトランナー無し。監督から粘るな、適当に走れと指示され、ゴロを打って打席を終える。
四回表。出塁するためにバンドの構えが増える。逆に球速を落として打たせ、捕手が一塁に送球し抑える。
逆に四回裏の攻撃。相手の投手の癖を掴んだ打者たちが内野安打を打ち、四番のエースが犠牲フライを打ったおかげで二人がホームベースに戻り先制点を取る。自分たちのアルプススタンドから歓声が上がる。
「仕事したぜぇキャプテン!」
「ナイス長打、欲を言えばホームランが良かったな」
「いやぁ俺だって、あれはツーベースヒットだろ!って思ったけどよ。あのジャンプ力で取られちゃ、どうしようもないわ」
「例の四番、守備も上手いとはなぁ」
「ライト方向だったのにね
…
センターが取るとは
…
」
後ろからどんどん他の部員が言いたい放題言い始める。押しのけながら指示をする。
「さ、次の守備準備するぞ」
「はーい」
五回の表。同じ割れるような応援の声。汗を拭って、集中する。キャッチャーがピースを作って、自分のと俺の目の方向に指差しながら、見てるからなとサイン。何投げても対応するというお墨付きを貰い頷く。
今日は投球の調子が頗《すこぶ》る良い。柔軟を活かした一つ一つ丁寧に動きを流す自分なりのフォームで、最高速を出すように指先まで念を込めて投げる。
キャッチャーミットを叩く音と審判のストライクの声が耳に入ってから応援の声が聞こえてくる。今日は本当に調子が良い。夢中で投げる。三振、三振、三振。ショートに肩を揺さぶられてはっとする。
「随分集中してたみたいだけど」
「
…
今日は調子良さげで、つい」
「ま、無理しないでね」
と肩を組まれ引き摺られるように交代する。
五回、六回。流し打ち対策を始めた相手に全員で長打を解禁。また積極的な盗塁やバントの攻撃に油断していた相手のエラーが増え一点二点と点数を重ねていく。
七回。お互いフライを打ち上げ三者凡退。熱が蓄積され汗が止まらなくなってくる。団扇で扇いだり、水分補給したりタオルで汗を拭いたりと熱中症対策をする。
八回。一回の攻撃を三人で抑えているからか、試合展開が早く感じる。三度目の大迫力のアフリカン・シンフォニーを口ずさみながら投球する。敢えてのストレート、からのカットボール、シュート。三振。三打席しっかり抑え、息を深く吐いた。
その後も九回もしっかりと抑え、試合が終わる。ヒットは打たれたからノーノーではないが、マダックスで試合を締め括る事が出来た。強い日差しを浴びながら整列し、礼をする。
クールダウンと片付けを終えて移動する。次はついに決勝。対戦相手はまだ決まってない。どんな相手、どんな試合になるか、胸を躍らせながらインタビューの事を考えた。
決戦の日
軽快な演奏と応援の声。照りつく日差し、キャッチャーとのサインのやり取り。
コントロールは正確に、狙った場所に。
キャッチャーミットに球が吸い込まれる音。三振、三振、三振。
暑さに頭がぐらつく。九回裏、ツーアウト満塁。金属バットの甲高い音。
自分の後方に大逆転のホームランを撃たれる。
終わりを告げるサイレンの音。泣く仲間たちをどこか遠くから見ているような感覚。未だに燻る感情。
「大守」
「な、なんだよ」
「もう、終わりなんだな」
「当たり前の事言うなよ、てかお前泣いてないのかよ」
「
…
だって、まだ野球をやりたいんだ。それこそ、全チーム混合のさ、ドリームチームみたいに集めて、試合やったら絶対面白いだろうなって
…
」
「もう俺たちは終わったんだ、野佐和。引退して、自分たちの将来のこと考えないと」
「そうだけど
…
、何というか。呆気なかったなぁ」
「
……
そんな感想はお前くらいだろ」
頭をぐしゃぐしゃを撫で回される。
「大樹は進学なんだろ」
「俺は
…
野球やれるなら何でもいいんだけど、甲子園優勝かドラ1が条件だから。これから親の説得かな」
「親御さん厳しいもんな。ま、ドリームチーム作れるくらい頑張ろうな」
「
…
そうだね」
「さ、砂集めて閉会式出るぞ! 袋ないやつは俺が貸してやる!」
離れていく大守を見送ってから空を見上げる。憎らしいほど澄み渡った青空だった。
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