kgsg_hirg
2025-03-28 22:39:00
1201文字
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さくら

勝手に治北ワンライ3/28

「あ、咲いとる」
「ああ、雨降って一気にあったかなったからやな」
 山菜が取れたと言われ取りに向かえば山に桃色が増えていた。桃色とは言うが実際には薄ピンクだ。
「あれって誰か管理してるんですか?」
「ひと昔前やったら管理しとる人もおったんやろうけど、もう野性やな」
「へぇ……世話もされずに立派なもんや」
 満開と呼べるほどに花弁を開き緑の山を華やかに彩っている。何の用意もせずに花見ができるなんて贅沢かもしれない。
……あれってさくらんぼとか取れるんですか」
「食いしん坊やな。残念やけどあれは観賞用や、食えん」
「あぁ……食い放題ちゃうんや……
「管理してへんから言うても私有地や。入られへんよ」
「そうっすね……
 疑問に思ったことを問えば答えが俺に刺さった。そりゃそうだが、ロマンだろう。
「まぁ外から見るんはタダや。おこぼれ素直に見せてもらお」
「はい……
 そう言われて縁側に案内されて素直に腰を下ろす。少し遠いがピンク色が綺麗に見えて目が満たされる。こと、と置かれた湯呑はいつの間にかできていた俺専用のもの。そして青々とした葉に包まった薄ピンクに染まったもち米のお餅。
「桜餅ばぁちゃんが買ってきてくれとったわ」
「え、ええんですか」
「そもそもお前にやて」
「ありがとうございます!」
「今度ばぁちゃんに言ったって」
 どこか嬉しそうな顔で俺を見る彼は彼の祖母にそっくりだ。性別も年も違うのに不思議なものである。
 餡子がたっぷり詰まった餅を指で掴み葉っぱごと一口、濃厚な餡子の甘味にそれを和らげる米の風味、葉っぱの塩味が程よくて美味い。ああ、春だ。
「桜見ながら桜食うなんて贅沢ですね」
「せやな。でもこれからもっと桜咲いてくるで」
「そうですね……いっぱい桜餅食べれるんええですわ」
「そこは他のもんでもええやろ。次はみたらし団子でも用意したるわ」
 次、という単語に心が躍る。彼の中では俺との次があるのだ。
「次は俺なんか弁当でも作りますよ」
「弁当か」
「ほら花見の定番やないですか重箱」
「そしたら、あいつらも呼ぶんか?」
 ことんと落ちる彼の声。このわずかな変化に今の俺ならわかる。
「二人で食べ切れる量しか作りませんよ……俺めっちゃ食うん知っとるでしょ」
……せやな、お前食うんやったら重箱やな」
 ホッとした、というよりも嬉々とした感じだろうか。彼の声の調子が戻る。
 本当に、可愛くて愛おしい人。
「あの桜あとどんだけですかね」
「他の桜が咲く頃には散り始めるな。次の雨来たら一気に散るわ」
「そんでその雨で他の桜が咲いてくるんですね」
「せやな」
「北さん」
「ん?」
「次、めっちゃ楽しみにしといてくださいね」
 彼の目が少しだけ開かれたあと、ゆるりと綻んでいく。
 季節はどうしたって移ろう。その一瞬にこの人と居られるなら散る瞬間だって愛おしい。