Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
来羅
2025-03-28 20:44:26
3451文字
Public
トワウォ
Clear cache
生贄(風信)
吸血鬼AU。
この人になら何をされたっていいのだ。
たとえ、その先に待つのが『死』あるのみだとしても
――
。
「
……
信一、」
ごくりと喉が鳴ったのを見ていた。
眉間に寄せられた皺と奥歯をぐっと噛んで耐える顔がたまらなくセクシーで、信一はわざと舌先で唇を舐めてうっそりと笑う。
「大佬、いいよ」
「
………………
駄目だ」
「俺がいいって言ってんのに」
ゆっくりとタイを緩め、襟を大きく広げて言えば、龍捲風が耐えかねたように目を閉じた。浅く吐き出される呼吸は忙しない。
おそらく、もう長く『食事』をしていないはずだ。飢えた瞳はギラギラとしていて、いつもの温かさはそこにはない。
握りしめられた拳が震えて痛ましいほどだった。
――
龍捲風。
龍城幫のボス。城砦の覇者。
その仮面の下に隠しているもうひとつの顔を、信一は知っている。
もうずっと前から、時折、忘れた頃にふらっといなくなる龍捲風のことは気づいていた。忙しい人だから、城砦の安全委員会主幹としてあちこち駆け回っているのだろうと最初のうちは思っていた。けれども信一だって馬鹿じゃない。そういったときに限って、すれ違う龍捲風から微かに血の匂いがして、そういうときに限って、城砦の管理外のヤクの売人や城砦に仇名す輩の死体が公衆便所に捨てられていれば、嫌でも気づくというものだ。
それでもただ、龍頭としての秩序を保つために人知れず始末しているのだと思っていた。
そうではないのだと知ったのは、だから、偶然だ。
城砦の人間ですら滅多に近寄ることのない細い路地裏。
短い悲鳴が聞こえた気がして足を向けた信一の目の前で、龍捲風が男を掻き抱いていた、ように見えた。が、駆け寄ろうとして思わず息を呑んだのは、小刻みに痙攣する男の体を押し止めてその首筋に口をつけた龍捲風の喉仏が、『何か』を飲み込むように上下していたからだった。
辺りに漂う血の匂い。
次第に痙攣が緩やかになり、だらりと落ちた男の腕。
男から顔を離した龍捲風の赤い唇と、鋭い牙が、暗闇の中でもなぜか色鮮やかに脳裏に焼き付く。
息もできずに立ち竦んだ信一に、龍捲風は何を言うでもなく男の体を地面に横たえた。そうしてゆっくりとした仕草で煙草に火をつけ、深く喫った。
「
…………
死んだの」
馬鹿みたいに呆けて、見ればわかることを問うた信一に、龍捲風は振り返らなかった。その代わりに苦く笑って、紫煙に目を細める。
「俺を殺すか、信一?」
「っ、なに、言って」
「お前の目の前にいるのは化物だ」
漸く振り返った瞳が赤く見えたのは気のせいだろう。
サングラス越しの瞳は、疲れたように信一を映して、そっと静かに閉じられる。
抵抗はしない、という意思表示なのか。唐突に湧き出たのは恐怖よりも怒りだった。
「大佬だよ」
「信一」
「俺の目の前にいるのは、大佬だ」
化物じゃない。
いや、化物かもしれないけれども、それでもよかった。
龍捲風がなんであれ、殺された輩よりも信一にとってはよほど大事な人だ。失うことなど考えられない。ましてこの手にかけるなど、ありえない。自分も大概おかしいと頭の中の冷静な部分が諭していたけれども、龍捲風は信一の全てだ。
いわゆる吸血鬼、と呼ばれるものの類なのだという。
それでも純血種よりは人間に近いらしく、太陽に焼かれることもなければ不死の体を持つわけでもない。ただ人間よりも少しだけ力があって、人間よりも多少は丈夫にできていると苦笑した龍捲風は、その代償は、と言いかけて口を閉ざした。
『食事』はたまにでいい。
けれども『それ』がなければ生きられない。
そして信一に知られた龍捲風は、その日を境に『食事』を止めたのだ。
「大佬」
少しきつめに呼んで手を伸ばした信一に、龍捲風は後退った。
人間でしかない信一には理解の範疇を超えていることだが、吸血衝動は常人ならそう耐えられるものではないらしい。
龍捲風の意思の強さは折り紙付きだ。
それでも揺れる理性が、龍捲風をこの場に足止めさせている。
「俺は、大佬になら何されたっていいんだ」
「馬鹿を言うな」
「いいんだ、大佬、食べてよ。俺を、噛んで、吸って、貴方のものにして」
「信一!」
ぎりぎりと歯が鳴った。
あと一押しなのに、龍捲風は伸ばした信一の手を取ることはない。
本当に、殺されたって、自分の一部がこの人の血肉になるのだと思えば本望なのに。
「わからずやだなぁ、大佬」
溜息をついて、信一は開いた距離をまた一歩詰めてその手を掴んだ。いつもは温かな手は冷たい。息を吹きかけるように口付けて、首筋へと当てる。たいした学のない自分でもこの場所をナイフで切り裂けば、勢いよく血潮が吹き出すことは知っている。どくどくと脈打つ滑らかな肌に触れて、少しかさついた指先がびくりと強張った。
「大佬、死なない程度に飲むこともできるって前に言ってただろ」
「
………………
無茶を言う」
眉間の皺は取れない。
逡巡する眼差しが揺れている。
たしか、死なない程度に飲むこともできるが、副作用があるのだったか。聞いていればよかったが、たとえ聞いていたとしても信一の意思は変わらないから意味がない。
「祖哥哥」
駄目押しのように囁いてゼロ距離まで近づいた信一に、龍捲風が低く呻いたのと、力強い腕に抱き竦められたのはほぼ同時だった。
「信一、」
傾けた首筋に、龍捲風の唇が這う。
その瞬間の全身を駆け巡った歓喜をなんと言葉にすればいいのか信一はわからなかった。ただ、はっと短く息を吐き出した信一の肌に冷たい牙が当たるのはわかって、震えが走る。
「信一、すまない
……
」
ゆっくりと肌を押し下げた牙が、ぷつりと皮を切り裂いた。そのまま体内に入ってきた牙が不意に抜かれて、龍捲風のざらりとした舌が傷口を抉じ開けるように舐め上げる。
「────う、ぁ」
血液を吸い上げる唇が熱い。
力の抜ける腕をなんとか持ち上げて龍捲風に縋りついた信一は、けれども次の瞬間にはぞわりとしたものに背筋を震わせた。
「は、ぁ、
……
っ、あ、哥哥ォ、あ、」
体がへんだ、と気づいたときにはもう頭の中が靄がかっていて何も考えられなかった。
熱い。触れられているところから、全体に熱が広がっていく。背中から腰骨へと流れ落ちる甘い疼きが、信一の下腹を重くさせる。
「や、んんっ、ん、あ、なに」
熱くて熱くてたまらない。
血が抜かれて冷たくなるはずなのに。
「
…………
あ、あ、」
ガクガクと体が痙攣する。
トラウザーズの前立てをきつく押し上げる熱が窮屈で、無意識のうちに目の前の龍捲風の太腿へと擦り付ける。背を抱いていた龍捲風の大きな手の平が手伝うように腰を撫でて、その刺激すら煽られるばかりで信一は腰を揺らめかせた。
痛みはない。ただ途方もない気持ちよさに頭が焼き切れそうなだけだ。
「
……
信一
……
」
ぴちゃりと耳元で水音がした。
のろのろと顔を上げた信一の色を履いた瞳に、僅か顔を曇らせた龍捲風が目元を指の腹で摩る。
「麻酔のようなものだ。血を抜く代わりに、快感物質を注入できる」
「
……
ん」
龍捲風の指先が気持ちよくて、目を細めた。けれども体の中で渦巻く熱を解放するにはまだ足りなくて、もっと決定的なものが欲しくて喘ぐ。
「しばらくは辛い」
「ぁ、
……
祖哥哥ォ、なんで、やめ
……
?」
「これ以上は駄目だ。お前を死なせるわけにはいかない」
「や、だ」
「信一、堪えてくれ」
「
……
あ、やだ、大佬、っ、祖哥哥
……
!」
ぐるぐると熱が回る。身動ぎするだけで服が擦れた肌が痺れ、甘い苦しみとなって信一を苛んだ。掴んだ龍捲風の服の端を引っ張って、縋り付くことしかできない。
「信一、駄目だ」
ずるい人だ。
苦しんでいるのは信一なのに、まるで龍捲風の方が痛みを抱えているような顔で首を振る。
「大佬」
ままならない腕になんとか力を入れて引き寄せて、首の後ろに腕を回して屈ませた。
ずるい人。
けれども全てを捧げても構わないほどに恋しい人。
触れそうなくらい近くにある唇が焦りを滲ませた声で信一を呼ぶ。
「大佬、っぁ、あ、もう、諦めなよ」
俺を食って。
囁きは唇に呑まれて消える。
龍捲風になら、何をされたっていいのだ。
初めて交わしたその口付けは、咽せ返るような血の味がした。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内