0087aa
2025-03-28 04:19:33
3298文字
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ブーツだって賭けられる



Q. 鋼の肉体はメジャーアクションなのに、なんでその後普通に攻撃してるんですか?
A. うるさいですね、加速でもしてろ

パダ前日譚
特に何のネタバレもない天真とちゅんちゅんの話


I can bet my boots!

 物欲センサー、という言葉がある。欲しいものほど手に入らないことを意味し、ソシャゲのガチャやランダム商品などで、狙ったものが手に入らない時に使われることが多い言葉だ。
 子供の頃の夢はヒーローだった。助けを求める人のところに颯爽と駆けつけ、パンチやキックで敵を退治する。子供はみんなアンパンマンに憧れるし、自分は特にその傾向が強かったように思う。誰だって、毒でじわじわ相手を蝕むアンパンマンの姿なんて見たくはない。
 だから、ブラム=ストーカーやソラリスという、およそヒーローに向かなさそうなシンドロームに選ばれたのは、多分物欲センサーのせいなのだ。
 と、風晴天真は思っている。


 市場調査、という名目で平日の昼間からピザに興じるのは、自由業の特権かもしれない。クアトロフォルマッジの濃厚なコクを楽しみながら、天真は夕方までの束の間の休息を謳歌していた。夕方からは支部で次の任務について詳細な説明があるそうだ。どうやらしばらくピザのキッチンカーを経営することになりそうなので、今食べているピザもその経費として処理できないだろうか。とりあえず領収書だけはもらっておこう、と天真は考える。
 ここ最近は細々とした任務が多かったのだが、どうやら次の任務はなかなかの長期戦になりそうだ。こんな穏やかな時間はしばらくお預けかもしれない。そう思うと、追加で頼んだレモネードまでどうにか経費で落としたくなってくる。天真は自分のことを比較的任務に意欲的なエージェントだと自負しているが、それでも休暇があるに越したことはない。休暇がもらえなさそうなのであれば、レモネードくらいのささやかなご褒美は与えられて然るべきではないだろうか?
 と、そんな甘い考えを砕くかのように、突如として轟音が鳴り響く。そして遅れてレネゲイド反応を感知。FHかジャームか、あるいは暴走したオーヴァードか。天真の理想的な午後の休暇と、レモネードのささやかな着服計画が、泡となって弾ける。全くもってタイミングが悪いが、この無念は元凶にぶつけることとして、残りのピザを口に詰め込み店を飛び出す。
 店を出ると、元凶はすぐに天真の視界に入った。ひび割れた道路の近くに、3mほどもある人型の(おそらく)ジャームが立っている。おそらく、あのジャームが道路を破壊したのだろう。一見して近くに他のジャームは確認できないが、念のため、天真は少し広めにワーディングを展開する。あれは明らかに異物だ。自然発生したとは考え難いが、招き寄せた元凶を探している暇はない。犯人探しはここを乗り切ってから、と天真は割り切って、戦闘体制に入る。
 幸い、ジャームは道路を破壊した最初の一発以降、立ち尽くしているようだった。目的は分からないが、隙を見せている今のうちにまずは一発。体内工場で生成した液体火薬に血液を足して、標的の周囲に広めに散布する。エクスプロージョンにツインバースト、ついでに蝕む赤も上乗せした必中の攻撃。天真は耳を塞いで、先ほどの轟音と互角の爆発音から鼓膜を守りながら、標的に視線を合わせる。
 灰色の煙が晴れ、果たしてジャームは未だそこに立ち塞がっていた。見た目からして耐久力はありそうだ、さすがにこの程度で倒せるとは天真も思っていない。が、本音を言えば、もう少しダメージを負っていて欲しかったところだ。相変わらず決定力に欠ける、と心の中で舌打ちをする。とはいえ、泣き言を言っていても仕方ない。邪毒さえ効いていてくれれば、持久戦にはなるがやりようはある。そんな戦いを、天真はもう何度も切り抜けてきたのだ。
 そんな風に頭の中で計画を立てていた時だった。天真はおぞましいものを目にする。邪毒を負わせたはず皮膚が、その痕跡すら残さないほど美しく再生していたのだ。最初の素手の一撃と合わせて考えると、おそらくあれは鋼の肉体の効果だろう。鋼の肉体とは、受けた状態異常と一定の体力を回復するキュマイラのエフェクトで、端的に言えば、邪毒による持久戦の天敵だ。
 これは、まずい、かもしれない。
 考えるより先に体が動いた。右足が地面を蹴る。後方へ飛ぶ。コンクリートの破片が宙を舞う。
 先ほどまで天真がいた地面が、鋭い鉤爪に容易く抉り取られていた。恐ろしいほどの破壊力だ。一撃で確実にリザレクトを使うことになるだろう。これを回避し続けながら邪毒もなしに持久戦を仕掛けるのは、どう考えても得策じゃない。その内、自分までジャームになってジ・エンドだ。
 試しにもう一発、と天真は広範囲を爆撃する。しかし結果は先ほどと何一つ変わらない。標的は、まるでそよ風でも吹いたのかのように悠然とそこに立っている。特にダメージが蓄積している様子はなく、これだけでは仕留めきれない、という確信が強まっただけだった。
 天真一人で対峙するには、あまりに分が悪い敵だった。こういう敵には、搦手ではなく真正面からの突破力が必要だ。自分には、それが致命的に欠けている。
 そんな考え事をしていたからだろうか、回避したはずの標的の二撃目が、天真の右足を掠めていた。途端、急激に体が鉛のように重くなる。動けないほどの傷ではないはず、まで考えたところで、大蛇の尾が使用されていることに気付く。硬直だ。これでは、次の攻撃はいよいよ避けようがない。
 追い詰められたその時、風晴天真は一人のチルドレンのことを思い浮かべていた。突破力を持つ、とある女子高生のことを。
 間に合うだろうか、というか間に合ってもらわないと困るな。天真はそう考えながら、アクセルの効果を持つ液体の詰まった小瓶をなるべく後方へ放る。これはある種の賭けだ。それでも、勝算はある。
 後ろから、ぱきり、と乾いた音が聞こえた。小瓶が踏み潰されたのだ。それは、天真にとっては賭けの勝利を告げる福音だった。
 その瞬間、天真の頬を流星が掠める。神速の担い手。駆ける赤。最速を乗せた鋭い一撃。空間を切り裂くその拳は、まるでおはじきのように軽々とジャームを弾き飛ばした。
「ヴィルさん! 大丈夫ですか!」
振り返ったその顔は、風のように過ぎ去った時の研ぎ澄まされた緊張感など全く感じさせないような、あどけない高校生の顔だった。麓春焞は転んでしまったクラスメイトを心配するような気軽さで、天真に手を差し出す。
 標的を一目見た時に、これは一人では仕留めきれないのではないか、と天真の勘が告げていた。いつもより広範囲にワーディングを展開したのも、一体の敵相手に、まるで複数人を相手取るかのごとくエフェクトを多用していたのも、全ては麓春焞に居場所を知らせるためだった。これだけ派手にレネゲイドの気配を振りまいていれば、春焞なら、きっと。
 麓春焞は流星のように縦横無尽に戦場を駆け回って、神速で敵を仕留める。そんなパワフルで可憐な後輩をさらに輝かせる手助けができるのなら、物欲センサーがくれたこの悪役染みた力だって悪くはない。そう思えるようになったのも、天真の成長の証だろうか。この身に宿った力そのものに色はなく、その使い道次第で万色になり得るということを、もう天真は嫌というほど知っている。
 そもそもUGNであるのなら、お互いを帰るべき日常への標として、手を取り合うことは必然だろう。一人ではヒーローにはなれない、独りよがりでは誰も救えやしない。
 それでも、春焞のあの一撃に、確かに天真は見惚れていた。おまけにハヌマーン、主人公みたいなシンドロームだ。少しくらい子供じみた憧れが顔を出す日だってあるだろう、と天真は思いつつ、それを悟られないように春焞の手を取った。

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「春焞ってさ、子供の頃の夢ってなんだった?」
「突然ですね」
「いや、まあ、なんとなく」
「小さい頃ですよね、うーん、あんまり覚えてないですけど、保育園の先生とかだった気がします」
「あ〜……なるほどね……
「え、なんですか? なんかまずかったですか!?」
「全然まずくない、すごく良い夢だと思う! 俺が勝手に反省してるだけ!」
「反省……?」