0087aa
2024-07-05 00:13:51
997文字
Public
 

濡れた日傘



「天泣に陽がさせば」バレあり
PC3シナリオ後の話











約束と友情の話

 滝川深哉の遺体を見た時、自業自得だ、と真っ先に思った。ジャームにもなれなかった悲しい男。馬鹿な人。
 ジャームになって冷凍保存室に入りたい、という彼の希望を聞いた時は、急に目の前に立つ人物が異形のものになったように思えた。ジャームになったら冷凍保存室に入りたい、とは思っていたが、たった二文字を取り替えるだけで意味合いは大きく変わる。世の中には本当に理解しえない人物がいるのだ、と驚嘆すら覚えた。
 伊吹みみにとって、もはや検体になるしか役に立たないもの、そしてそこだけを切り取れば人間よりも役に立つもの、それがジャームだった。いずれにせよ、ジャームになったのであれば、処分するよりも凍結して検体に回すべきだ。それこそが正しいオーヴァードの輪廻だと信じていた。
 しかし、自ら進んでジャームになりたい、というのはまた話が違う。ジャームが根絶されていない限り、そしてFHが活動を続ける限り、どう考えても生きていた方が役に立つ。伊吹みみはジャームになりたいなどと一度も考えたことがなかった。想像もしなかったもの、例えばユニコーンが動物園で飼育されているのを見てしまったような気分だった。
 だが、共感はできなくとも、末路には賛成だった。この時結んだ約束が、彼と友人関係を続けていた理由の一つだ。
 彼のささやかな、かつて空へと送ってやれなかった恋人の隣で共に眠りたいという願いは、一人の女によってあっさりと摘まれてしまった。自業自得だ、と再び胸の内で呟く。滝川深哉も、かつての恋人の願いをまるで山査子の実のように摘み取った側の人間だ。同情する余地はない。雨に洗い流されて当然の願いだった。

 それでも、あの場に私がいたら。あるいは私と彼が共に事の解決にあたっていれば、この手で約束を果たすことができたかもしれないのに。

「まだお礼ももらっていないのに、あなたに供えるものなんか、何一つないわ」
物言わぬ墓石にそう吐き捨てる。勝手に一人で死んでいった男。これ以上、かける言葉も持ち合わせていなかった。
 踵を返す。梅雨特有の粘着質な空気が煩わしい。伊吹みみはクーラーの効いた快適な部屋が大好きで、梅雨も夏も大嫌いだ。こんなところに足を運ばされていること自体が不愉快だった。
 きっと私は今、怒りを湛えているのだ。
 日傘を差しながら、足早に墓地を後にする。夏はもうすぐそこまで迫っている。