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2022-07-27 00:52:36
3516文字
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帰路と弔い


RWCP Outbreak of war の自卓の二次創作
めちゃくちゃネタバレなので未通過🙅‍♀️です!!!











クライマックス戦闘後〜PC1のエンディングの間の適当な想像

 ヒーロー。そう呼ばれるようになってからそれなりに経つというのに、未だにその呼び名は身に馴染まない。きっと、俺にとって、ヒーローはただ一人を指す言葉なんだろう。
 パラディン、今はもういないその人を。

 あの事件があってから、メディアはますます騒がしくなった。残ったヒーローたちに過重な期待をかける者たち、ヴィラン化を恐れるあまり過剰にヒーローを貶める者たち、その反応はさまざまだった。
 パラディンの言う通り、民衆は勝手だ。勝手に期待し、そして勝手に失望する。今だって、あんなに自分たちを救ってくれたパラディンのことをすっかり忘れたかのように、ダークナイトのことばかり報道されている。彼が一体どれほどその身を犠牲にし、そしてどんな思いでヴィランの手を取ったのかも知らずに。
 腹が立たないと言えば嘘だった。デタラメな報道を見るたびに、勝手なことを、と叫んでやりたくなる。だが、一番腹が立つのは自分自身だった。あんなにパラディンの側にいて、気にかけてもらって、それでもお前は彼の孤独に気付けなかったのか? 心がそう問うてくるたびに、唇を噛み締めることしかできなかった。
 パラディンの死体は、内閣府レネゲイド関連対策室が回収したそうだ。あれだけの事件を起こしたジャームを放っておくわけにはいかないだろう。管理されているのか、埋葬されているのか、それすらも知らされないままだ。
 俺は、パラディンの墓参りにすら行けやしない。
 むしゃくしゃして立ち上がる。こういう時はもう何も考えない方が良い。せっかく訓練施設に来ているのだから、体を動かしてさっさと気分を変えよう。ここ最近、明らかに施設利用回数が増えていることからは目を背けながら、トレーニングルームへ向かった。
 鮮血の網を展開しながら、昔のことを思い出す。自らの血を媒体とし、それに触れたヴィランの機動力や攻撃力を奪いながらじわじわと追い詰める。そんな己の能力が、どうにもヒーローらしくなく思えて、ずっと好きになれなかった。どうせヒーローになるなら、パラディンのような人を守る力に長けたヒーローが良かった、と彼に零したことがある。その時に彼がくれた言葉はもちろんずっと覚えている。
「君の力は必ず共に戦う仲間の役に立つ、目立つだけがヒーローじゃないさ」
あの時は、自らの能力を肯定してもらえた気がして、胸が躍ったのを覚えている。だが、今思えば、パラディンはあの時から仲間の重要性を口にしながら「仲間」を遠ざけていたのだろう。共に戦う仲間、に彼自身は含まれていなかったのだ。きっと。

 どうして俺はヒーローなのに、一番大切な人を救えなかったんだろう。
 あの事件からずっと考えている、そして、きっとパラディンも考え続けていたであろう問い。分かっている。こんな問いを抱え込むのは良くない。分かっている、頭では。

 トレーニングも終わり、帰り支度を整えている時だった。休憩室のテレビが、夕方のワイドショーのヒーロー特集を流している。期待であれ失望であれ、もはや重荷になってしまいそうなそれを見たくなくて、リモコンを手に取った。電源を落とそうとテレビの画面に目を向けると、馴染みのある姿が飛び込んできて、一瞬手が止まる。
「ジェイミーさんと、春焞……?」
そこには、春焞がまた市民を助けたことを、誇張も偽りもなくありのままに報道する、ジェイミー西崎の姿があった。春焞の戦闘はあまりに素早く、報道カメラが追いきれていなかったが、トレードマークの赤いチャイナと思しきものが時折画面を横切っていた。春焞がヴィランを片付けたあとは、思ったよりも小さなその姿に、市民たちは驚きながらも感謝を告げていた。
 消そうと思っていたのに、つい見入ってしまった。ふと気付くともう特集は終わり、天気予報のコーナーに移っていた。結局テレビはそのままにして、休憩室を後にする。

 駅前で号外が配られていた。何の気なしに受け取ると、そこには「アマポーラ、またもディアボロスを救出!?」という記事が載っていた。どうやら雛罌粟さんとディアボロスが二人で任務に当たっていたところ、ディアボロスが敵に囚われてしまったものの、雛罌粟さんが市民と共に無事救い出したようだった。号外の写真には雛罌粟さんしか載っていなかったので、これはまたディアボロスが黙っていないだろう。せっかくもらった号外なので、丁寧に畳んで鞄にしまう。
 
 電車に乗ると、前に立っている女子高生の通学鞄に、見覚えのあるキーホルダーがぶら下がっていた。狼王ロボだ。何故ここに、と思ったが、その女子高生たちの会話が聞こえ、すぐに納得した。
「この間ペイルシューターに助けてもらったんだ!すっかりファンになっちゃった!」
「へー、なんか最近変な噂ばっかり聞くけど、ちゃんと活動してる人もいるんだね」
「可愛いワンちゃんのキーホルダーもくれたんだよ〜!」
「ペイルシューターってどのヒーロー? ……ああ、なんかスカした眼鏡の人か、顔は良いよね」
助けた相手にグッズを配っている、と風の噂では聞いていたが、どうやら本当のようだった。そういえば、今日は依月さんからもらったロボのネクタイピンを付けていた。

 夕飯を買いに、スーパーに寄った時だった。レジに並んでいる前の二人が始めた会話の中に、知った単語が出てきて、つい耳をそばだてる。
「デッドショットがこの間ようやくサインくれたんだよ!メルカリに売るなよって言われたんだけど、こっちのファン歴なめんなよなあ?」
ヒーローとしての実力は申し分なく、自信も兼ね備えているというのに、自分のサインなんかどうせ転売される、とそこだけ悲観的だった伊計さんの顔が浮かぶ。目の前の男は、随分熱心にデッドショットの活躍を語っているようだった。これならきっと、サインは部屋の一番良いところに飾られるだろう。
 
 どこかで誰かが、初雷のみんなが、今日も誰かを救っている。

 確かにあの日、俺は大切な人を救うことができなかった。でも、かつてのあの人がそうしたように、仲間たちは今日も誰かのために戦っている。
 全てを救うことはできない。目に見える範囲だって、すぐに取りこぼす。だけど、それでもまた、懲りずに手を伸ばす。
 多分、それがヒーローのやるべきことなのだ。

 自販機で缶コーヒーを買う。なんとなく微糖を買ったが、あの人のコーヒーの好みは知らない。そういうことを一切教えてくれなかったのも、また彼のずるいところだと、一人考える。
 初めて彼に出会い、そして言葉を交わした大通りに着いた。まだヒーローになりたての頃、人質に取られた子供を守ろうとして、そして子供ごと守ってもらったあの日。ヒーローにとって一番大切なものを持っていると、他ならぬNo.1ヒーローに声をかけてもらった日。
 近くの電柱の根元に缶コーヒーを置き、そしてそこで、ずっと抱えていた思いを吐き出す。
「なあ、パラディン。俺はきっと、あなたを救えなかったことを、ずっと悔やむよ。この先も、誰かを救おうとして失敗することもたくさんあると思う。
だけど、俺はそれでもヒーローであることをやめない。仲間と、初雷のみんなと歩いていきたいから」
きっとそれは茨の道だ。時には甘い考えだと笑われ、これからも何度も葛藤するだろう。救済という名の支配が頭を過ぎることすらあるかもしれない。だけど、きっとそのときはみんなが助けてくれる。
 自分以外にも、同じ思いを抱えて、どこかで誰かを救わんとしている人がいる。その事実だけで上を向ける日があることを、風晴天真はこの日初めて知った。
 果たしてパラディンは微糖のコーヒーが好きだろうか。嫌いだったなら、せいぜい顔を顰めて飲んでいただこう。その姿を想像して、少しだけ笑った。


 ヴィランが暴走している、との連絡が入り、急ぎ現場へ駆けつける。倒壊しそうなビルの中には、まだたくさんの人が取り残されている。正直に言うと自分の力はこういう現場には向いていないのだが、とはいえ自分はヒーローだ。困っている人がいたら、どんな状況であれ手を差し伸べる。あの日、そう決めた。
 頭の中でプランを練る。アクセルで加速して現場に近付きつつ、鮮血の網でビルの脆くなった箇所を補修。現場に着いたら、怪我人を癒しの水で治療しながら避難誘導。多分これが一番早い。
 そして何よりも大事なこと。ヒーローを求める声に、応えること。
「俺が来たからもう大丈夫、みんな安心してそこで待ってて!」
地面を蹴って加速。一直線に、迷いなく人々の方へ。