0087aa
2022-07-27 00:48:15
2107文字
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Perfect morning except for you



はるぐり自陣(というか自PCだったPC4)の二次創作です
はるぐり2話クライマックス翌日にPC4がお散歩してる話
未通過は🙅‍♀️です!ゴミは捨てちゃいけません!
感情の鮮度と「本当」について
 
 
 
 
 
 
Let me immerse myself in that night.

 窓から差し込む朝日で目が覚めた。どうやら昨晩、カーテンを閉め忘れていたらしい。ベランダに出ると、朝特有の静かな、しかし活気を孕んだ空気が伝わってくる。空も晴れ渡り、風は心地よい。まるでお手本のような朝だった。
 白露夏生は、つい昨日親友が死んだにもかかわらず、いつもと変わらない、あるいはいつもより清々しい朝が訪れることに、静かに驚いていた。時の流れは万人に平等だし、世界は誰が欠けたって前に進んでいく。常識だと思ってこれまで受け入れていた事実が、平坦な顔でこちらを見つめている。
 どうやら神様は、未鳥とあんな別れ方をして、それでもまだいつも通り人生をやっていけと言うらしい。

 家から出て、ふらふらと散歩をする。昼前から入っていたバイトは連絡を入れる気にもならず、そのままするりと無断欠席を決め込んだ。多分このまま辞めてしまうことになるだろう。バイト先に登録していた番号の携帯を、通りがかった川に投げ捨てた。
 そこらのコーヒーショップでアメリカンをテイクアウトし、川辺のベンチに座る。今日は天気も良くて、目の前の川面も日差しを反射してきらきらと輝いていて、足元には小さな黄色い花も咲いていて、何よりコーヒーが美味しい。それなのに気分は最悪だ。起きた瞬間に、全てが夢ではなかったことに絶望したくらいには。
 昨日は事のあらましを報告して解散となった。俺たちが心身ともに疲れ切っていたせいもあるだろう。おそらく、今日の夕方ごろに改めて詳細な聞き取りをすべく本部に呼ばれる。報告をするということは、全てを思い返す必要がある、ということだ。正直もう報告するのも勘弁してほしかったが、それを求められるのであれば、いっそどこまでも詳細に報告してやりたかった。未鳥が事切れた瞬間のあの乾いた悲しみを、取り返しがつかないことが目の前で起きてしまった時の文字通り血の気が引く感覚を、鮮度が落ちてしまう前に。

 今日は天気も良くて、目の前の川面も日差しを反射してきらきらと輝いていて、足元には小さな黄色い花も咲いていて、何よりコーヒーが美味しい。だったら、もう今日を最期にするのが、多分一番ベストな選択なんじゃないか?

 つまらない感傷が目の前をさらさらと流れていった。馬鹿げている、と即断できるほどの理性はある。友達の死に殉じるなんて、どう考えても間違っている。未鳥にも笑われるだろう、そんなに寂しかったのか?とでも言われるだろうか。
 だけど、と往生際の悪い自分の一部が声を上げる。この感傷に身を委ねることこそが今のお前の「本当」なんじゃないのか?
 それも一理あるな、と夏生は考える。今感じているこの悲しさも、いつか時が経てば、砂に書いた絵が風に攫われるように擦り切れていくのだろう。悲しかった事実はきっと忘れない、だけど悲しみそのものはきっと忘れてしまう。だって、そうしないとあまりに生きていくことが難しい。人間には、悲しみ続けるという選択肢がない。だからこそ、今ここで全てを終わらせることで、この感情を真空パックで保存することができるのでは?
 今日は天気も良くて、目の前の川面も日差しを反射してきらきらと輝いていて、足元には小さな黄色い花も咲いていて、何よりコーヒーが美味しい。さらさらと流れる川が夏生を誘う。今を「真実」にしよう、未鳥もこの先で待っている、と囁きかける。三日経てば、今のこの衝動は確実におさまっているだろう。チャンスは今しかない。

 やはり、馬鹿げている、と思った。今のこの感情に身を委ねて明日を迎えないことが真実なのだとしたら、いくらでも感情を風化させよう。薄れていく偽物の穏やかな悲しみに身を浸し、やがて忘れていこう。
 明日も明後日も、きっと起きた瞬間に、全てが夢じゃないことに絶望するのだろう。それでも、人生にはゲームクリアの概念がないようで、しばらくすればまた新しい朝が来るらしい。そのうち、絶望する朝も減って、次第に未鳥のことを思い出す日も減る。そうしてまた日常に戻っていくことは、ある種の裏切りかもしれない。それでも、多分、未鳥はまだ俺と再会する気はないだろう。
 何が正しいかは正直よくわからない。彩度の高い悲しみに殉じた時にしか見えない「本当」があるのかもしれない。あるいは、こんな時に正しさなんかは意味を成さないのかもしれない。選んだ道に、ただ事実が横たわるだけなのだろう。だからこそ、今は、未鳥の望む通りにしてやりたかった。
 いつの間にか手元のカップには、溶けた氷と残ったコーヒーが混ざった薄い茶色が居座っていた。最後の液体を飲み干し、カップを川に投げ込む。それでも川面は美しい。機会を逃した夏生を笑うように水面が煌めく。
 帰り道にパン屋に寄って、焼きたてらしい食パン一斤の六枚切りを買った。これを食べ切るには、一人暮らしではしばらくかかる。その間くらいは、まだ人生を続けてやっても良い。帰ったらこれをホットサンドにでもして、夕方まで一眠りしよう。次に起きた時は、まだきっと夢でなかったと悲しむはずだ。そう思えることに、今は少しだけ安堵しながら帰路に着く。