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青
2025-03-27 21:53:50
1820文字
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紅椿
強いシュ見て惚れ直しちゃうラのライシュロ。無自覚だけど多分これは恋。
その夜、ライオスはなかなか寝付けなかった。こんなに昂った気分になったのは、初めて迷宮に足を踏み入れたその日の夜以来だ。
妹とふたりで自ら仲間を集める所から、改めて始めた冒険者稼業だが、幸いにも人に恵まれた。入れ替わりはあったが、その都度運よく良い方向に転がっていき、難なく地下四階層へと到達するまでになった。腕の良い鍵師のお陰で罠にかかったり迷わされたりせず無駄に疲弊しなかった、というのも勿論あったが、このたび戦闘要員がひとり増えたのも大きかった。
強い人だった。初めて会って話したときから佇まいが只者ではない、と思っていたので、もしかしたらと他の面子にも早々に会わせて勧誘してみたのは正解だった。その人は誘いを断ることなく、彼についてきてくれた。宿に置いてあった大きな刀は、護身のための飾りではなかったらしい。あの太刀筋を見れば誰だって、彼でなくても溜息を漏らすに違いない。
(シュロー、かっこよかったな)
東の群島から来たという。そしてやはり、彼が見た事のない出で立ちで現れた。板を美しい紐で綴って作った甲冑は言葉では言い表せないほどその人に似合っていて、芸術品の趣さえ感じたものである。そして何よりも、期待以上の凄腕だ。
(
……
)
彼は今その人から少し離れた場所にいる。眠る前にもっと話がしたかったが、見張りを引き受けるからと断られた。そんなに心強い事はないので、少なからず残念だが大人しく寝具の中で丸くなっている。けれどそれで良かったかもしれない、と彼は思う。
焚火が燻るように、身体が火照っている。飛竜を一刀のもとに斬り伏せたあの姿、目に焼き付いてとても忘れられない。こんな気持ちでもし、隣にあの人が横たわっていたら。真っ赤になった顔を本人に見られるのは、恥ずかしい。
彼は他の仲間を起こさないように、静かに寝返りを打った。寝具を頭まで被り、眠ろうとする。明日も探索は続くのだから、適切な休息は必要不可欠だ。それは理解しているのに、まだ眠れない。
本当に美しかった。鮮やかだった。仲間うちで一番身体が大きいので、目が良い魔物に関しては的になって引き付ける役目を担う彼だが、その目の前に躍り出た後ろ姿を思い出す。今にも滑空してきて彼らに掴みかからんとする爪を前に、一瞬振り向いて彼が数歩下がったのを確認すると、飛竜の翼に一太刀浴びせたのである。その翼が腕の変化したものであると即座に判断し、骨の間を的確に狙ったとみえ、片翼を大きく傷つけられた竜はバランスを崩して地に落ちた。そこへ心臓を狙ってまた一刺し。頭の後ろで結った長い黒髪が、軽やかに揺れる。
ぴ、と太刀に付着した僅かな血を払う時ですら、彼は表情ひとつ変えなかった。首筋には汗も滲んでいない。
ただひとしずくの返り血だけが花弁の如く頬に飛び、つうと顎を伝って落ちていくのが見えた。それだけだった。
『すごかった! 本当に強いんだな!』
彼も他の仲間も驚いて声を上げたが、その人は喜ぶでも驕るでもなく、静かに目を伏せたまま物言わぬ死体の前に立っていた。
『
――
……
役に立ったのなら良かった』
返り血を指先で拭うと、ぱたりとそれが地面に落ちる。形こそ全く違う生き物だが、竜の血は人間と同じ赤い色をしている。
(
……
!)
ひとつひとつ思い出すたび、どくどくと胸が高鳴るのを感じる。こんな気持ちは初めてだ、と彼は思う。
吐く息さえも熱いような気がする。子供の頃、風邪をひいて熱を出した時だって、こんなに身体の芯まで煮え滾った事はない。あの人を見つけたのは他ならぬこの自分だ、という事実にも、今更ながらライオスは興奮していた。出会ったのは、単に運が良かっただけに過ぎないのだけれど、あの時思わず声をかけて本当に良かった。
は、とまた息を吐いて身震いする。強い人。賢く、そして美しい人。普通、友人にこんな気持ちを抱くものなのだろうか。解らない。この島で出来た初めての友は、彼にとって宝物のような存在だった。
もっと一緒にいたい。もっと話をしたい。明日になったらまた話そう。時間の許す限り。その為には、寝不足では良くないに決まっている。
彼は寝具から顔を出すと、その人がいるであろう通路の向こうを見つめた。
(
……
おやすみ)
声には出さずにそう呟くと、もう一度深く潜る。溜息は相変わらず炎のように熱かったが、今度はどうにか、眠れそうだった。
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