誕生日、小洒落た店でのディナー、そわそわと落ち着かない松本。この三つが揃ったら松本の企みなんて透けて見えてしまう。それでも一之倉は、何も気づいていませんという顔をして食事を楽しんだ。料理もワインも美味い。松本がチームメイトから紹介してもらったという一軒家フレンチは大きな公園のすぐそばにあり、窓からはライトアップされた桜並木と夜桜を楽しむ人波が見えた。夜景を望む高層ホテルのレストランではなくここを紹介したチームメイト、なかなかの手練れとお見受けする。
普段の一之倉は早食いだけれど、こうしてゆっくりと食事をするのも悪くない。特に食事のあとにお楽しみが待っているとわかれば、むしろできるだけ時間をかせいでやろうと思う。我慢は最高のスパイスだ。
メインの鴨肉をじっくり味わっていると、ソムリエがさり気なく近づいて一之倉のグラスに赤ワインを注ぎ足した。松本がなにやら意味ありげな視線をソムリエに向ける。コートの中ではノールックパスもフェイントも上手いのに、舞台がレストランとなるとこんなにバレバレな動作しかできない松本がちょっと可愛く見えてきた。
ゆっくりゆっくりメインを平らげてワインも飲み干す。程よい間を置いてギャルソンが皿を下げにきて、松本はますますそわそわしだした。
「料理もワインも、すっごく美味しかった」
「ああ、そうだな」
キャンドルの仄かな明かりに照らされた松本の耳が赤くなっている。松本は色白で酒を飲むとすぐ顔が赤くなるけれど、この赤さはきっと酒のせいではないだろう。つい悪戯心がうずいて、一之倉は目を細めた。
「デザートも楽しみだね」
「あ、ああ、楽しみだ」
いよいよ目が泳いだ松本を前にして笑い出さなかった自分を褒めたい。我慢の男はコートの外でも健在なのだ。さて、何が出てくるだろう。花火付きのケーキだったら笑ってしまうけれど、このレストランの雰囲気でそれはなさそうだ。バースデープレート? 花束だろうか。
ふっと照明が絞られ、ワゴンを押したギャルソンがしずしずと入場してくる。
「失礼いたします」
ギャルソンがテーブルに皿を下ろし、キャンドルの灯が揺れた。
「えっ」
真っ白い皿の中央に、真っ赤な小箱がひとつ。
視線を上げて、松本をまじまじと見つめる。そこには小箱とおなじくらい赤くなった松本がいた。
「……開けていい?」
「もちろん」
小箱を開けようとして、自分の指が震えているのに気づく。すうっと息を吸って、吐く。音もなく開いた箱の中には、薄暗い灯りの下でもキラキラと輝くダイヤモンドが鎮座していた。
「本当はもっと気の利いたものを渡したかったんだが」
松本はいつの間にか席を立って、一之倉の隣に跪いていた。松本の大きな手が伸びてきて、小箱を持つ一之倉の手ごと包みこむ。
「これからもずっと一緒に生きていってほしい」
返事もできないまま、ぽたぽたとこぼれた涙が松本の指を濡らす。
「……返事は?」
松本の声は柔らかかったけれど、握る手にはぐっと力がこもっている。一之倉はひきつりそうになる喉から、どうにか声を絞りだした。
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