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かにやけんせつ
2025-03-25 14:45:14
2801文字
Public
魔法少女特務機関 Main Story
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魔法少女特務機関 Fragment.009
#2023/7/14
#Aoi_Cyan
次の日の放課後。
詩杏が特務機関彩坂支部の休憩室に入ると、そこに灯や翠、すずらんの姿はなかった。代わりに美雲が焼いたらしいマドレーヌを差し出しながら、状況を教えてくれる。
「灯達なら出撃中よ〜。今回数が多くて、流石に右も左も分からない子を連れて行くのは危険だからってことで詩杏ちゃんは待っててもらうことになったわ」
「ほえー。昨日言ってた外に出るっていうのも、それが片付いてからってことですかね
……
もぐ」
「らしいわねー、空くんも灯達について行ってるから。あの子も現役の魔法少女なのよ、所属はよそだけど」
美雲もおやつ──既に垣間見える普段の言動からして、実はご飯代わりなのかもしれない──にマドレーヌをつまみながら、詩杏の言葉に返事をする。暇になるなぁ、と詩杏がスマホを取り出そうとすると、美雲は何かを思い出したような顔をした。
「そういえば詩杏ちゃん、昨日まで割とドタバタしてたって聞いたわよ。せっかくだからこの支部のビルの中見て回ってきたら?私はやることあるから案内できないけど
……
」
「案内できないけどって、いいんです?勝手に見て回って」
「そりゃあ、入っちゃいけない場所にはあなたのカードキーじゃ入れないように設定されてるもの。自分のカードキーで入れる範囲なら、好きに出入りしてくれて大丈夫よ!機関側から呼び出す用事があれば、アプリに通知が来るからね」
それじゃ、私は後片付けと夕食の準備があるから、と美雲は楽しそうに休憩室を去っていく。詩杏はマドレーヌを勝手にもうひとつ食べてから、スマホとカードキー片手に休憩室を去るのであった。
詩杏が早速やってきたのは、最上階であった。この階には、詩杏が博士に拾われた日に連れて来られた部屋がある。カードキーの権限は許してくれないかもしれないが、それでも詩杏はその部屋のすぐ隣の部屋に興味があった。
「やっぱり、何か変な気配
……
角部屋だし中広そうだし、面白そうな感じがする」
詩杏も魔法少女になったばかりの身、あまり魔力の気配をよく分かっている訳ではなかったが、しかしこの部屋に何かあることだけは気づいていた。急ぐ必要もないだろうし、カードキーが許してくれなかったら一旦諦めて博士に訊いてみよう、と思いつつ部屋の引き戸のそばにある機械にカードキーをタッチしてみる。
「
……
あれ?」
その時詩杏がそう声を上げたのは、扉が開かないからではなかった。むしろその逆、カードキーは詩杏にこの部屋への進入を許したのである。流石に入れないだろうと思っていた詩杏からしてみれば拍子抜けであった。バグか設定漏れかもしれないけど、それはそれで私は悪くないし、と思いながら詩杏は引き戸を遠慮なく開けて部屋に入る。
「ごめんくださーい」
「
……
おや」
詩杏がそう声を上げて奥へ進むと、一方の壁に一面の資料棚とデスク、そして反対側には病院の入院病棟にでもありそうなベッドがあった。そのベッドの上には、淡褐色の点滴に繋がれた人間が一人。彼は詩杏の姿に気づくと、手にしていたタブレット端末から顔を上げた。
「こんにちは、はじめましてだね」
「はじめまして。私、蒼井詩杏っていいます。あなたは?」
「僕は天宮希望。君のことは博士から聞いてるよ、どうぞよろしくね」
優しく細める瞳は紫、彼のふわふわの髪と同じ色。白地に紫の星柄の病衣に、これまた紫のカーディガンを肩にかけている彼は、自己紹介をすると「せっかくだから」とベッドサイドにある椅子に座るよう、詩杏に促した。
「本当は紅茶でも淹れてあげられれば良かったんだけど、今日は少し体調が悪くて。代わりと言ってはなんだけど、よかったらどうぞ」
「ありがとうございます
……
わ、高いやつ」
そう希望が差し出してくれたクッキーは、駅前に店舗を構えている高級洋菓子店のもの。確か皇族御用達の、高級品の中でもさらに特別なものではなかったか。しかし当の希望は気にすることなく、自分のぶんとして一袋クッキーの包装を破る。
「飲み物はそこの冷蔵庫に、ペットボトルのだけど紅茶があるから、良かったら飲んでね」
「ありがとうございます。いただきますね
……
紅茶お好きなんです?」
「うん、いつもよく飲んでるんだ。最近はデカフェでも美味しいの多いからさ」
詩杏に勧めたのと同じデカフェの紅茶を飲みながら、希望は詩杏に笑いかける。紅茶を飲んで落ち着いたところで、詩杏は希望にひとつ気になることを訊いてみた。
「お身体、悪いんです?希望さんて」
「そう、ちょっと訳ありでね。詳しくは話せないんだけど、良くなってきてるところではあるから心配ないよ」
希望はそう、微笑みを崩すことなく返す。しかし、詩杏はそれだけでは納得できなかった。というのも、目の前の彼は明らかにおかしい。それは見た目や言動ではなく、魔力の気配の話であった。
「でも希望さん、魔力の気配ってやつかな、が変っていうか
……
人間の臓物に手突っ込んだらこんな感じなのかな、って感じ、っていうか」
「あはは
……
それ、よく言われるんだ。でも、普通に暮らしていく分には平気だから大丈夫だよ。戦えないだけ」
……
詩杏としては、そのあたり詳しく気になるところではあったが。どうやら、希望は全てはぐらかすつもりらしい。他の人に聞いてみるしかないか、と詩杏が紅茶を口にすると、希望はそういえば、と口を開いた。
「空くんには会った?このくらいの背丈のちっちゃい子なんだけど」
「あぁ、いましたね。研修とか担当してるんでしたっけ」
「そうそう!空くんね、僕の親友なんだ。見た目はちっちゃいけどちゃんと大人だし、いい子だから何か困ったら頼りにしてあげてね」
空くんによろしく、と希望が笑うと、ふと部屋の入り口の引き戸が開く音がする。ちょうど入ってきたのは、希望が話題に出したばかりの空であった。
「ここにいそうだなーって思ったらやっぱり。希望くん、詩杏ちゃんと何話してたの?」
「空くん!空くんはいい人だよーって話してたよ〜」
空の顔を見た途端希望はぱぁっと顔を明るくして、空もそれに応えるようににっこりと笑う。顔を合わせただけでこんなに明るい顔をする程度には、仲の良い二人だということが窺えた。
「それで、ここにいるってことはさっきの出撃は終わったの?」
「報告書まで上げてきたよ~。一段落ついて、詩杏ちゃんに色々教えるなら今がチャンスって感じ」
「そっか、頑張ってね詩杏ちゃん。僕はしばらくの間はいつでもここにいるから、良かったらまた来てくれると嬉しいな」
また詩杏に笑顔を向けてくれる希望に別れを告げて、空に連れられて詩杏はこの部屋を出る。去り際にふと希望の方を見れば、希望は詩杏に向かって手を振ってくれるのであった。
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