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望月 鏡翠
2025-03-25 13:07:46
858文字
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日課
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#1670 「乾漆」「丁銀」「筒一杯」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
雨が降っていた。男の持っている雨具といえば、朽ちかけた蓑と笠だけである。雨を避けるために、葉の茂った木陰に身を寄せた。まだ木の下の地面は乾いていたが、白っぽい幹を伝って、水が流れ込んできていた。
傷ついた獣のようにその下でうずくまり、雨が止むのを待つことにした。
空気まで湿り切り、息をするだけで喉の奥に水が流れ込んでくるようだった。男は苦しげに息をして、汗なのか雨なのかわからないものを首筋に流れ落ちるままにさせていた。
懐には一塊の丁銀。男の全財産である。それを一体何にするのかというのが、雨止みを待つよりも重大な男の問題だった。
この選択を仕損じれば、この先の人生は暗い。雨が降った日の泥よりも厄介な場所に入り込んでしまう。そこでついた泥は、洗っても落ちないものだ。
世の中の流れを読み、適切な場所で使えば元手がいくらであれば、金はいくらでも増やすことができる。しかしその適切な場所というのが問題だった。
男は長らく漆を売って生活していた。器や仏像に塗りつけて見た目をよくして防水性を高めるためのものである。そのほか、生薬としても使われていて、母が亡くなるまでは彼女も服用していた。
ともあれ、体質によってはひどくかぶれが出るものだから、適切な処方が必要である。あまり広くは受け入れられてはいない。
生活は毎日苦しく、目の前のことを解決したら、次の問題が降りかかってくる。それだけで、男の両手は筒一杯である。
母が亡くなり、男にはようやく他の場所に行くという選択肢ができたのだ。漆を取って、山の中に縛り付けられるようにして暮らす以外の人生を夢に見た。持っていた財産を全て引き払い、旅に出たのだ。
その最中に降り出した雨はいかにも幸先が悪かった。
お前の選択は間違いだったと、天に言われているような気がした。
生まれた家でそのまま死ぬまで堅実で仕事を続けるのが、正解だったのかもしれない。しかし、天からの視点を男は持ち合わせない。この選択の結末は、最後までわからないままだった。
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