はくう
2025-03-25 10:23:59
3485文字
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【エリソー】た◯ごクラブよりも先にゼ◯シィ置きなよ

原稿の息抜き
エリソーのエリには、ふにゃっと笑って「本当に?僕、パパになるの?」って言ってほしいよな

 ソーンズの部屋に、妊娠した人向けの情報誌が置いてある。エリジウムはこの状況をどう受け止めていいか分からず困惑していた。
 晩酌の約束をして、先に部屋に入っていていいと言われたからソーンズの部屋にお邪魔したら、机の上に無造作に置かれた書類や学術誌の中に混じって妊娠情報誌が置かれているのに気がついた。丸い字体で書かれた「はじめてママになるあなたへ」という言葉がこの部屋で浮いている。
 エリジウムとソーンズは同性カップルだ。ソーンズが受け入れる側だけど、彼も男性である。ペニスがついていて、射精する。妊娠できる体ではないはずだ。
 いや、落ち着け。ソーンズがママになると決まったわけではない。むしろ普通に考えると、ソーンズがパパになると考える方が自然だ。……相手は誰?
 エリジウムとソーンズは付き合っている。告白はエリジウムからしたし、鈍いソーンズとの間に誤解が生まれないようにかなり詳細に言葉にした。エリジウムはソーンズのことが恋愛的な意味合いを含めて好きで、性的な目で見ていて、抱きたいと思っていて……ソーンズが望むならエリジウムが抱かれる方でもいいけど、とにかくセックスしたいと思っていて、恋人関係になりたいと、恥ずかしくなるくらい詳細に伝えた。ソーンズも、何もそこまで言わなくても、みたいな呆れ顔をしていた。君のせいだよ。
 だから、エリジウムが知らないだけでソーンズに恋人がいるとは考えづらい。そうだとしたら浮気だ。どうしよう、あそこまで言葉にしたのに、ソーンズにエリジウムと付き合っている自覚がなかったら。
「おい」
「ぎゃー!」
「うるさい」
「急に背後に立たないでよ!」
「俺の部屋だからどこにいようが俺の勝手だろう」
 雑誌とにらめっこして考えを巡らせすぎて、部屋の主がやってきたことに気が付かなかった。一瞬、雑誌に気づかないふりをした方がいいかと考えたが、こんな場所にあって気づかない方が不自然だと思い直した。エリジウムは件の雑誌を手に取り、ソーンズに見せる。
「こんな雑誌があるのを見つけたんだけど…………誰の子?」
 聞き方を間違えたかもしれない。もしかしたらこれがソーンズの私物じゃないかもしれないし。だとしたら、何でここにあるんだよ。ソーンズはエリジウムの言葉に怪訝そうな顔をした。
「お前以外にいないだろう」
「あ、やっぱり? よかった、浮気してたらどうしようかと思った……。僕、パパになるの?」
 ソーンズはエリジウムの恋人である自覚があったらしい。安堵と喜びから口走った言葉が少し間違えていることに、一拍して気がついた。
「いやいや、僕はパパにはなれないね? 君は男だし。なんでこんな雑誌が部屋にあるの?」
「エーギルは体外受精する種族がある。俺はその種族だったらしい」
「ねえ、もう少し上手な嘘をついたら? 体外受精するエーギルなんて初耳なんだけど」
「あまり数がいないからな。お前が知らないのも無理はない。俺も調べて初めて知った」
「え、冗談だよね?」
「冗談の方がいいか?」
 ソーンズはいつも通りのポーカーフェイスだ。この突拍子もない言葉が嘘なのか本当なのかわからない。でももし本当にソーンズが体外受精する種族だとしたら? 想像したエリジウムの頬に血が集まる。
「どっちがいいかって言われたら、そりゃ、本当の方が嬉しいよ。本当に? 僕との子供、産んでくれるの?」
「悪いな、冗談だ」
「クソッ! 冗談だとは思ってたけどちょっと信じちゃったじゃん!」
 ネタバラシされて悪態をつくと、ソーンズが満足気に笑った。悪趣味なやつめ。
「騙される方が悪い。体外受精するエーギルがいるかはわからないが、体外受精ということは卵生だろう。少なくとも俺は胎生だ。へそがあるからな」
「学校のテストでしか使わないような知識がここで必要になるとはね……
「生きた知識になってよかったな」
 一夜漬けの勉強でテストに臨んでいた弊害がここで出るとは思わなかった。人生、何があるかわからないものだ。
「それで、何で妊娠できないブラザーの部屋にこんな雑誌があるわけ? 人から借りたとか?」
「いや、私物だ。俺の部屋に置いていたら、お前がどんな反応をするかと思って買った」
「バカだな〜! 君の期待通りの反応だった?」
「ふふ、まあな」
「それは良かった」
 今後こういう雑誌を読むこともないだろうと、好奇心から雑誌の中身をパラパラと捲る。家族が増えることを喜ぶ幸せそうな紙面に、ところどころ戦準備のような覚悟が散りばめられている。きっとエリジウムがこの先経験することはないだろうけど、幸せをお裾分けされているようで嬉しくなる。
「でもさ、順番的には妊娠した人向けの情報誌より先に、結婚情報誌を置くべきじゃない? 僕が知らないところで君がパパになったのかと思ってヒヤヒヤしたよ」
……
「あ、でもそれも含めてドッキリか」
……
「ソーンズ? 聞いてる?」
 雑誌を読みながら話していたが、ソーンズからの返事がない。いつもみたいに聞き流しているのかと思って顔を上げると、ソーンズは戸惑ったような顔をしていた。
「どうしたの?」
「お前は……俺の部屋に結婚情報誌があったとして、『冗談』で済ませるのか?」
……え?」
「実際迷ったが、それを冗談にするのはあまりに悪趣味かと思ってやめたんだが。……そっちの方が良かったか?」
…………え?」
「いや、どちらが良いとかではなく、順序の話か。忘れてくれ」
 エリジウムはソーンズの言葉を都合のいいように受け取っているのだろうか。それとも、本当に彼がそう言っているのだろうか。彼が結婚情報誌を買うときは、冗談ではないと、そう聞こえたのだけれど。
 エリジウムは時計を見る。まだ購買部の書店エリアは開いている時間だ。緊張して乾いた喉を唾液で潤して、ソーンズに提案する。
「ねえ、今から結婚情報誌を買いに行かない? その、二人で」
 なんでもないように誘いたかったが、明らかに声が緊張していた。頬が熱い。ソーンズが、ふむ、と小さく声を漏らす。
「もしお前が情報誌を実用のために買おうとしているのなら……プロポーズの言葉特集でもしているといいな」
 ソーンズはそう笑いながら、脱いだばかりのコートに再び袖を通した。エリジウムと一緒に書店に行ってくれるらしい。
「僕は、プロポーズのシチュエーション特集だと嬉しいな。ちなみに僕は特別なシチュエーション派なんだけど、君は?」
「日常派」
「へえ、そうなんだ」
 声が上ずる。答えが出きっているのに、どうして回りくどい会話ばかりしているのだろう。
「あのさ、ソーンズ」
「何だ」
 やっぱり、シンプルに「僕と結婚してください」がいいだろうか。「君が好きだよ」も改めて伝えた方がいいのかな。凝った言い方をするなら「僕と家族になってほしい」も捨てがたいけど、伝わらないかもしれないし。ソーンズにとって家族が良いものとも限らないし。
……やっぱり、『どんなに鈍い相手にも伝わるプロポーズの言葉特集』の方がいいかも」
 迷いに迷ってエリジウムが絞り出した答えがこれだった。ソーンズがくつくつ笑う。もう好きに笑ってくれ。
「もし特集されていなかったら、相談に乗ってやってもいい」
「お願いしようかな。僕の気持ちをどう言葉にしたら伝わるか、わからなくて」
「言葉だけでなく、行動で表すのはどうだ」
……百本の薔薇を贈るとか?」
……本当に、相手が喜ぶと思っているのか?」
「迷惑がりそう。でも、そのくらいの気持ちを伝えたいんだよ。だから相談に乗って、ね?」
 エリジウムはソーンズの指にそっと指を絡める。ソーンズは黙ってエリジウムの手を握り返した。
「そいつ好みの酒で十分だろう」
「ああ、それならすぐに準備できそう。でも、その子は自分好みのお酒だとペースが早くて、すぐに酔っちゃうんだよね」
「大事な話があるから控えろと伝えたらどうだ」
「なるほどね。ソーンズ、今日は大事な話があるから、お酒はほどほどにしてくれる?」
「善処する」
「ああ、どうしようブラザー! プロポーズ失敗するかも。結婚情報誌に対処法が載っていればいいんだけど」
「確認しよう」
 ふざけながら、二人で結婚情報誌を買うために部屋の扉を開ける。恋人好みのお酒は持ってきている。プロポーズの言葉も、親友が相談に乗ってくれるらしい。それならば安心だ。
 今夜エリジウムは、ソーンズにプロポーズをする。