Hizuki
2025-03-24 23:08:58
3506文字
Public あんスタ[零薫他]
 

贈り物のリボンを解いて

【あんスタ】零薫+凛月。バレンタインの時に手伝ってくれた凛月にお礼をする零と薫の話。先日のバレンタイン話(https://privatter.me/page/67af460fb30cc)の続きで、一応ホワイトデーの話。本文内にざっくりとした内容はあります。2月の感謝の気持ちを3月の贈り物に込めて。



レスティングルームの端のテーブルを陣取った俺達の元に近付いてくる黒髪が見えたのは、約束の時間を5分ほど過ぎた頃だった。合間の時間に慌てて打ち込んだのか、『すこしおくれるかもしれぬ』という変換されていないメッセージが届いていたから、特に気にしてはいない。

「すまぬ、2人とも。待たせてしまったのう」
呼び付けた張本人が一番遅いとか、どういうつもり~?」

聞こえた零くんの声に、俺の向かいに座って背を向けていた凛月くんがそちらを振り返った。ついさっきまで楽しげに話していた声は、途端に不機嫌の色を纏う。いつものこと、というように零くんに気にした様子はない。俺が大丈夫、と返すより先に飛び出した声に、思わず苦笑いが漏れた。

「まぁまぁ、凛月くん。用があるのは俺もだからさ、ここは俺に免じて許してほしいな」

例の無変換のメッセージは俺達を含んだ3人をメンバーにしたグループに送信されていた。既読も付いていたから、凛月くんも知っていたはずで。そもそも、今日凛月くんを呼び出したのは零くんだけではない。俺も同じ用事が凛月くんにあって、最初に連絡を取ったのが零くんだった、というだけのことだった。

薫さんがそう言うなら。それで、用事っていうのは?」

隣の席に荷物を置いていたこともあって、零くんは凛月くんの隣の席に腰を下ろす。俺が間に入ったことで、凛月くんの声も普段の調子に戻った。

「凛月に受け取ってほしいものがあるんじゃよ」
「受け取ってほしいもの?」
「零くんと俺からなんだけど、先月のお礼ってことで」

きょとんとした顔で凛月くんは俺を見る。荷物の中から紙袋を取り出すと、凛月くんの前に置いた。

「先月?ああ、気にしなくてもよかったのに。俺も楽しませてもらったんで」

先月、という単語で理由を察してくれたらしい凛月くんが口元を緩ませる。今日は3月14日。ちょうど1か月前の日のための相談相手として、タイミングは別々であったものの2人揃って頼ったのが凛月くんだった。『バレンタインに手作りのお菓子を贈りたい』という俺達の相談に、凛月くんは完璧に応えてくれた。『互いの味の好みに合わせた、全く同じもの』という形で。当日の仕事を終えてから一緒に食べようと話をして、いざ開けてみれば同じものが入っていたものだから、顔を見合わせて笑い合ったのを覚えている。それが凛月くんからのサプライズだと明かされたのは、彼のところに報告に行った時だった。先に俺から、翌日に零くんから話があったことで、こうすることを思いついたらしい。なら、一緒にお礼をしようと零くんと決めて今日に至っている。

「薫くんと選びに行ったんじゃよ。我輩はすんなり決まったんじゃが、薫くんがなかなか決め切れなくてのう」
「いや~、どれにしようか迷っちゃってさ~」

たまたまオフが重なった日があり、せっかくだからいつもと違うところに見に行ってみよう、と少し遠方のショッピングモールに足を伸ばした。エリア初出店の店舗があったり、そのモールの店舗限定のものがあったり、色々と見て回った結果、本当に迷う結果になって、何だかんだとほぼ丸一日をそこで過ごした。その甲斐はあって、きっと凛月くんが喜んでくれるものを選べたと思う。

「あはは、それだけ俺のこと考えてくれたってことですね。嬉しい」

そう言って凛月くんは紙袋の端を指でなぞった。そして、笑顔で頭を下げる。

「ありがとうございます、薫さん。兄者も」

ぶっきらぼうに凛月くんが付け加えたのを聞いて、零くんも口元を緩めた。

「それじゃ、この後予定があるんで行きますね」
「我輩達の方こそ時間を取ってくれてありがとう、凛月」
「本当にありがとう、凛月くん。またね」

紙袋を手に凛月くんはレスティングルームを後にした。その姿が見えなくなると、視線を零くんに戻す。元々俺の向かいに座っていたのは凛月くんで、彼が席を立ったことでしっかりと座る場所をそこに変えていた。

「凛月くん、喜んでくれたみたいでよかったね」
「うむ、そうじゃのう」
「予定があるところに荷物増やしちゃったのは悪いなぁとも思ったけど」

さっきの凛月くんの様子を思い出しているのか、零くんは目を伏せて頷いている。この時間なら大丈夫、と聞いただけで、後の予定は聞いていなかったから、少し申し訳なくも思う。そんなに袋が大きくないことは幸いだったけれど。

はい、どうぞ」

しみじみとしている零くんを横目に、椅子の上に置いている荷物から紙袋を取り出す。そして、それを零くんの前にそっと置いた。

うん?」
「俺から零くんに、先月のお返し」
「えっ!?」

目を開けて不思議そうに首を傾げたかと思うと、俺が続けた言葉に身体をのけぞらせた。少し大げさにも見えるリアクションに俺の方も驚いてしまう。

「そこまで驚かれるとは思ってなかったんだけど
「いや、驚くじゃろ

姿勢を正した零くんがテーブルの上のそれに視線を向ける。さっきのものよりは一回りほど小さな紙袋だ。持ち手の部分には白のリボンが結ばれている。

「本当はどうしようかなって思ってたんだよね。お互いに贈り合う感じになったわけだし」

ホワイトデーはバレンタインデーのお返しの日。結果的にお互いに贈り合うことになった今年は、お返しを気にしなくてもいいだろうと思っていた。

「でも、やっぱりちゃんとお礼したくてさ。ホワイトデーだけじゃなくて、いつもの分も込めてっていうか?」

けれど、凛月くんへのお返しを見に行った時に、やっぱり感謝の気持ちを改めて零くんに伝えたいと思った。ユニットのリーダーとしても、俺の恋人としても。

ありがとう、薫くん。すごく嬉しいんじゃけど、まさかこんなことになるとは思わんかったから、何も用意がないんじゃよ」
「ああ、気にしなくていいよ。気持ち分だけだし、俺がそうしたかっただけだから」

嬉しそうに、それでも少しだけ困った様子を滲ませて零くんが言う。同じことを求めるつもりは全くない。これは俺の意思で、そうしたいからしただけのこと。

「とはいえのう。そうじゃ」

腕を組んでううんと唸っていた零くんは、何かを思いついたように腕を解く。そのまま紙袋に手を伸ばすと、持ち手に付いていたリボンの端を持ってしゅるりと解いた。それで輪っかを作ったかと思うと結び目を作り、その上にもう一度リボンの形を結び直して形を整える。そして、出来上がったらしいそれを自身の左手首に通すと、俺の方に差し出した。

お返しは我輩でもいいかえ?」

今の零くんが俺に渡せるもの、ということらしい。それを示すために自分の手にリボンをかけた、と。黒のイメージが強い零くんに結ばれた白いリボンは何だか眩しく見える。

豪華すぎない?」
「ん?これでは足りぬと思っておるくらいじゃよ?」
「いやいや、十分だからね?」

あまりにもさらりと言うものだから、今度は俺の方が困り顔を浮かべることになってしまった。こちらに向けた手を引っ込めるつもりはないようだ。何も用意をしていないから、と言って差し出されるものでもないだろうに。気持ち分だけだから特別高価なものというものでもないし、むしろそうなってくると今度は俺の方が見合わなくなってしまう。とはいえ、ホワイトデーのお返しとして『朔間零』がもらえるなんてことを経験できるのは、今の俺しかいないわけでもあって。

じゃあ、ありがたくいただいちゃおっかな」

バレンタインデーには『俺のためだけに零くんが作ってくれたお菓子』を、ホワイトデーには『朔間零』をもらった。どれも零くんの恋人という位置にいるからこそ体験できたことで、これから先もそういうことが増えていくのだろう。

「うむ、そうしておくれ」

自身を贈り物にした零くんは、俺の返事を聞くと満足そうに頷いた。差し出された零くんの手を取って、手首に結ばれていたリボンの端をゆっくりと引っ張る。はらりと形は崩れ、しっかりと固定されていない結び目はすんなりと解けた。あ、と何かを思い出したように零くんが口を開く。

「返品不可でお願いするぞい」
「ふふ、心配しなくても返さないよ」

今日に関しては物のつもりらしい。返して、と言われても返すつもりはない。そもそもどこに返せばいいのかも分からないし。手のひらを合わせて零くんの指の間に自分の指を割り込ませる。指の付け根に合わせて指を曲げて添わせると、言葉を示すようにぎゅっと力を込めた。