学年末試験まで2週間に迫った今日この頃
学年トップ層をなんとか維持したい自分は、朝早くから図書館で勉強する日々が始まった。
今日も朝7時から必死に日本史の暗記中。
〇〇:
……眠い
あくびをし過ぎて顎が痛いし涙が止まらない。
でも勉強を疎かにする気にはならない。
何故勉強を頑張るか
理由は2つ
ひとつは、家庭の事情。
母子家庭で親に負担をかける訳にはいかない。
いい大学に行って一流企業に就職して母親を安心させたい。
もうひとつは、人間関係を勉強で誤魔化せる。
友達ができない理由を勉強のせいにできる。
トップ層を死守しなければ、説得力が無くなる。
この2つが主な理由
まぁ
…2つ目が本命かも
…
お金の面は奨学金とか制度があるにはある。
ただ友情はお金ではどうにもならない。
心が痛いし涙が止まらない。
〇〇:あっ
…
ふと窓の外から見える校門に、1人で歩いてる人が目に留まる。
〇〇:
……かわい
思わず漏れてしまう。
遠い距離からでも認識できるくらいの容姿とスタイル。
彼女が登校してきたのだろう。
ということは、朝礼がもうすぐ始まる時間。
そろそろ教室に入らないと、遅刻扱いになる。
誰よりも早く来てんのに
…
〇〇:はぁ
…
机に広げた教科書を雑に鞄の中へ。
そのまま重い足取りで教室に向かった。
*****
ガラガラガラ
〇〇:
…
教室に入っても誰とも挨拶せず席に着く。
自分以外にはそれぞれグループしかり友達がいる。
タイミングを逃した自分は、今更そこに割って入ることができなかった。
〇〇:寂しい
…
「美青!おはよっ!」
その瞬間、クラス中の視線が彼女の元へ集まる。
『おはよ』
的野美青さん。
この学校で彼女の名前を知らない人はいない。
端正な顔立ちに抜群のスタイル。
艶やかな髪に綺麗な瞳。
低く落ち着いた声。
異性からはもちろん、同性からの人気も高い。
「的野さんおはよー」
美青:おはよー
的野さんには不思議な魅力がある。
クラスの中心的存在ではない。
にも関わらず気づけば周りから声をかけられている。
どのグループにも属していない。
けど全く孤立していない。
正直、彼女に憧れている。
美青:
…あっ
…
〇〇:あ
…
的野さんと視線が交差する。
そしてそのまま自分の隣の席に
美青:
…おはよ
〇〇:あっ
…おはよ
…
最近的野さんと席が隣になった。
なので気を遣って挨拶してくれる。
こっちがビビって喋りかけないから
…
この誰とでも分け隔てなく接している姿。
的野さんが外見だけで無く内面も人気の理由だと、実感する日々。
美青:あの
….
〇〇:
…
美青:●●くん
…
〇〇:
…僕ですか?
美青:このクラスに
…●●って、2人います
…?
〇〇:いません、ごめんなさい
…
美青:あっ
…ごめんなさいそんなつもりはなくて
…
〇〇:いやいやっ、全然
…大丈夫です
美青:
…ごめんなさい
…
〇〇:
…こちらこそ
…
ほぼ初めて喋ったので会話が全く噛み合わなくて
気まずい
…
〇〇:どうかしました
…?
美青:あっ
…テスト勉強、もう始めてますか
…?
〇〇:あー
…ちょうど今日から始めました。
美青:あっ、そうなんですね
…お家でですか?
〇〇:いや、図書館でやってます。
美青:へぇ
…朝早くからですか?
〇〇:そうですね
…あ、あと放課後もやってます。
美青:一人で?
〇〇:
…恥ずかしながら
…
美青:
……よかった
〇〇:いやよくないですよ
…
美青:あっ
…えーっと
…いい意味でっ、です
…
〇〇:いい意味で
…
美青:あはは
…
そっちが言っといて苦笑いの的野さん。
いい意味の解釈があまりに難しい。
これはイジられてるのか
…
美青:あっ
…そうだ
…
あ、話逸らされる。
いや、気遣われてるだけか
…
美青:あの
…
〇〇:
……はい
美青:●●くん、勉強得意ですよね
…
〇〇:
…そうですね、そこしかできないんで
…
美青:もしよかったらなんですけど
…
美青:私
…勉強が苦手で
…
〇〇:ん?
美青:だから
…勉強教えてほしくて
…
この時、頭の中がパニックになった。
何故なら、的野さんは頭がとてもいい。
正直自分よりいい点数の教科もあるくらい。
むしろこっちが教えてほしい。
しかも学校ですごい人気者。
なので、別に誰でもいいはず
…
なのに、まさかのご指名が
よって、パニック。
〇〇:いやいや、的野さんに必要ないでしょ
…
美青:必要です、絶対ですっ!
〇〇:おぉ
…
急にすごい剣幕で迫られて思わず怯んでしまう。
〇〇:別に僕じゃなくても良くないですか?
美青:
…いや、●●くんしかダメです
〇〇:僕学年トップじゃないですよ
…
美青:
…
〇〇:
…なんか喋ってよ
…
疑問が全く晴れない。
〇〇:そもそも的野さん、勉強できますよね?
美青:
……で、できません
わかりやす
…
〇〇:友達も、いっぱいいるよね?
美青:
…
正直的野さんにメリットがひとつもない。
〇〇:ほんとに、僕じゃないとダメ?
的野さんの為にも、断ろう
…
美青:
…
〇〇:的野さん
…?
美青:
…ごめんなさい
〇〇:え?
美青:嫌でしたよね
…ごめんなさい
…
〇〇:いやいやっ
…僕は全然大丈夫ですけど的野さんに迷惑か
美青:私なんかがいきなり●●くんに話しかけたらダメですよね
…
ごめんなさい、と呟いて悲しそうに俯く。
〇〇:ほんとに、そういうことじゃなくて
…
美青:気遣わなくて大丈夫です
…
徐々に的野さんの瞳に涙が溜まる。
〇〇:えっ
…あの深呼吸、深呼吸して
…
美青:
…グスッ
徐々にクラスの視線がこちらへ。
まずい
…
美青:
…ごめんなさい
…
完全に僕が泣かせてしまってる。
これはいくら弁明してもどうにもならない
…
〇〇:わ、わかりましたっ!一緒に勉強会しますっ!
美青:
…
顔を上げてこちらを見つめる的野さん。
〇〇:放課後、図書館で
…
美青:
…今日から?
〇〇:今日から
…
美青:わかりました
〇〇:うぇっ?
急に泣き止んですんとする的野さん。
〇〇:
….あっひとつだけ、条件が
…
美青:
…なんですか?
再び不穏な表情を見せる。
〇〇:いや、あの
…僕も的野さんに、わかんないとこ聞いてもいいですか
…?
美青:
…それだけですか
…?
〇〇:
…それだけです
…
美青:
…全然大丈夫です
〇〇:あっ
…ありがとうございます
相変わらずぎこちない会話。
〇〇:じゃあ、放課後
…図書館で
美青:はい、図書館で
…
まさかあの的野さんと放課後の貴重な時間を共にするとは
…
美青:あの
…
〇〇:はい?
美青:ほんとに、ありがとうございます
にっこり笑って他の子の机に向かう的野さん。
〇〇:かわい
…
あまりの可愛さに衝撃を受ける。
さすが、学校一の美人さん。
*****
結局、授業が頭に全く入ることなく気づけば夕方に。
的野さんとも話すことはなく
…
よく考えたら、あれは嘘泣きっぽいし
…
よくよく考えたら、演技めっちゃ上手いし
…
でも友達と放課後を過ごしたことない自分がいきなり、あの的野さんと2人きり
…
かなりヤバい状況。
〇〇:勘違いすんな
…勘違いすんな
…
何度も復唱する。
とにかく、的野さんに迷惑をかけるわけには行かない。
異性としてではなく勉強を教え合うただの人間。
くれぐれも自惚れないようにしなければ
…
〇〇:ふぅ
…
意を決して扉を開ける。
ガラガラガラ
美青:あっ
…どうも
〇〇:あ
…どうも
…
図書館に入ると的野さんがひとりぽつんと座っている。
その的野さんはもう既にノートを広げて待ってくれていた。
〇〇:すいませんお待たせして
…
美青:私も今さっき来たとこです
の割には、準備万端
…
〇〇:
…ありがとうございます
的野さんの向かいに座る。
美青:えっ
…
〇〇:今日は
…英語ですね、やりましょう
美青:あのっ
…
〇〇:はい?
美青:
…隣の方が、やりやすい
…かもです
…
〇〇:
…そうですか?
美青:はい
…隣、どうぞ
…
至近距離の的野さんは勉強どころじゃない
…
でもここで断ったらなんか申し訳ないし
…
〇〇:
…失礼します
…
恐る恐る隣に座る。
やばい、めっちゃいい匂い
…
美青:じゃあ、やりましょう
〇〇:あ
…はい
頭に何も入る気がしない。
〜〜〜
〇〇:すいません、ここって
…
美青:えーっと
…ここは、
率直に言う。
的野さんとの勉強会は、非常に有意義だった。
2人の得意分野が被ってないので、お互いが必要不可欠な存在に。
余計な雑談もない。
これは、相性バツグンなのでは
…
自分が的野さんに必要とされている
…
美青:
…なんで笑ってるんですか?
〇〇:はっ
…すいません
…
顔に出てた
…
恥ずかしい
…
美青:
…時計ってどこですか?
〇〇:あー
…ここ、時計ないんですよ
この学校の図書館は、狭くて椅子が少ない。
しかも時計がない。
だから全然人がいない。
美青:そうなんですね
〇〇:今6時前です
美青:もうそんな時間
…休憩します?
〇〇:
…しましょう
窓の外を見ると、空が暗くなっていた。
全然気づかなかった。
勉強が捗ったからか
…
この時間が充実していたからか
…
それとも
…
美青:●●くんは、大学どうするの?
〇〇:僕は、一応国公立受けようかな
…的野さんは?
美青:私、薬剤師になりたくて
…だから薬学部が強い大学に行こうと思ってる
ちゃんと自分の指標がはっきりしてる
…
〇〇:
…かっこいいね
美青:
…ありがとう
恥ずかしそうに笑う的野さん。
ダメだ、気持ちが抑えきれない
…
美青:そういえば、敬語
…
〇〇:あ
…すいませんっ!
美青:いや違いますっ
…自然に外れてて嬉しいなって
…
〇〇:すいません
…すごい居心地が良くて
…
美青:私もです
…
〇〇:敬語、外しても大丈夫ですか?
美青:こっちのセリフです
…大丈夫ですか?
〇〇:僕はすごく嬉しいです
美青:私もです
〇〇:じゃあ
…なしで
美青:
……うん
ダメだ
…好きが抑えられない。
これはテスト終わるまで持たない
…
ダメだ抑えろ、テスト終わるまでの我慢だ。
好意を出したら的野さんと2人でいれなくなる。
それは絶対嫌。
こうして、ある意味天国で
ある意味地獄の日々が幕を開けた。
*****
的野さんと勉強を始めて1週間。
天国で地獄だった。
ある日の放課後。
美青:ねぇ
…
〇〇:ん?
美青:"〇〇"って呼んでもいい?
〇〇:
…
下の名前で呼ばれた
…
あまりの衝撃で言葉を失う。
美青:聞いてる笑?
〇〇:
…絶対忘れない
美青:なにそれ笑
このことは絶対死ぬ時走馬灯に出てくる。
美青:だからそっちも私のこと下で呼んで
〇〇:
……いや無理でしょ
美青:なんでよ
〇〇:あなたね、自分がどれほどの存在か自覚ない?
美青:あーね
いきなり異性が下の名前呼びはまずい。
ましてやあの的野さん。
周りからどんなこと言われるか
…
美青:じゃあ2人きりのとき。
〇〇:いやそもそも的野さんじゃダメ?
美青:ムリ
〇〇:なんでよ
美青:言わない
〇〇:なんでよ
…
人に言えない理由?
怖いな
…
美青:
…呼ばないならもう勉強会しない
〇〇:
…それは、ずるい
…
そんなの絶対嫌です。
美青:ふふっ
…じゃあ決まりで
〇〇:
…
ニヤニヤ笑う的野さん。
もしかしてこっちの気持ちに気づいてる?
それとも、舐められてるだけ?
休み時間のこと。
美青:〇〇、ここ途中式あってる?
〇〇:ちょっ
…まだ放課後じゃ
…
クラスメイトがいるのに、喋りかけてきた。
美青:いいじゃん、ちょっとくらい大丈夫
〇〇:まずいって
…
男達の視線が自分に刺さってる。
最悪
…
美青:へへっ
…
悪戯に笑う美青。
こいつ
…わかってやってる。
美青:〇〇の好きなタイプってなに?
〇〇:いきなり
…
勉強会の休憩中、唐突に聞いてきた。
美青:なんでもいいから
〇〇:えー
…
美青みたいな人、なんて言える度胸はない。
〇〇:うーん
…
まだ見たことない彼女の姿
…
〇〇:メガネ
…
美青:メガネ?
〇〇:あ
…メガネかけてる人かなぁ
…
まずい
…美青のメガネ姿が見たくなってつい口に出してしまった。
しかも言葉が足りてない、これじゃいつもメガネかけてる人がタイプみたいになってる。
美青:ふーん
…メガネか
…
〇〇:ん?なに?
美青:あぁ
…なんでもない
〇〇:
…ならいいけど
*****
テスト開始まで後3日に迫った今日。
いつものように放課後、いつものところで彼女を待つ。
〇〇:
…
彼女と一緒に勉強するようになって、ひとりが寂しく思うようになってしまった。
あと少しでこの勉強会も終わり。
4月からクラスも変わるし、いよいよ受験がやってくる。
〇〇:寂しい
…
ガラガラガラ
美青:おつかれ〜
〇〇:おつかれー
……え?
美青:どう?似合ってる?
ほんとにメガネをかけてきてくれた。
いつも可愛いけど
…いつもと違っても、変わらず可愛い。
美青:ねぇ
…なんか言ってよ?
〇〇:
…似合ってる
美青:
…で?
〇〇:
…可愛いです
美青:
…ありがと
今までで一番の笑顔を覗かせる。
〇〇:てか、さっきまでしてなかったよね?
授業中は一度もしてなかった。
これって
…
美青:さぁ
…知らない
とぼけてみせる彼女。
〇〇:
…あ、あのっ
美青:あのさ
綺麗な瞳がこちらを見てる。
美青:今回のテスト、勝負しよ
かなりベタなやつ。
まさかこれを言われる日がくるとは
〇〇:
…いきなり
美青:負けた方はご褒美ね
〇〇:罰ゲームじゃなくて?
美青:勝った方は負けた方にひとつ、なんでもお願いできるってやつ
〇〇:罰ゲームでしょ
…
美青:そうかなぁ
…
なにか言いたげな様子。
美青:
…
美青:よしっ
…絶対勝つ
あぁ
…そういうことか
じゃあこの勝負、絶対負けられない。
〇〇:
…絶対勝つ
絶対勝って
僕が彼女に告白する。
窓を眺めてる場合じゃない。
FIN
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