haru_haru0704
2025-03-24 18:40:59
1233文字
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悪役の心得

クリストフォロの独白 全年齢

破滅とは何か。
悲劇とは何か。
絶望とは何か。
『それ』を覆すためには、何が必要だったのか。
私はずっと、その答えを探し求めているのかもしれない。


漂泊者と呼ばれる彼は、今州を破滅の危機から見事に救ってみせた。
つまりそれは、私が書いた筋書きを覆したということだ。だからこそ、私は彼に興味を持った。
彼は、私の脚本通りに悲劇を演じることしかできない有象無象とは、一線を画した存在だ。
ならば、私も本気を出そう。入念に洗練し、精巧で美しい悲劇を書き上げよう。
今州にまつわる脚本は、今にして思えば手抜きした駄作だった。ほとんど放っておいても勝手に破滅しそうだったため、あまり筆が乗らなかったのだ。
その点、ラグーナは素晴らしい。何もかもが危ういバランスを保ち、破滅へと転がり墜ちるのをすんでのところで堪えている。まさに絶好のシチュエーションだ。
だから、今回の脚本は──そうだ、彼自身の手でラグーナを破滅に導くように仕向けよう。我ながら、素晴らしい思いつきだ。
彼にラグーナの隠された秘密を暴かせ、そして観衆を絶望の底へと突き落とす。そして観衆は、成す術もなく津波に飲み込まれるのだ。
ああ、それはなんと美しい物語の終わりだろうか。今から胸が高鳴ってしまう。
早速、執筆に取り掛かるとしよう。

***
彼は、第一の破滅を見事に回避した。
それを目の当たりにした私の心に、相反した考えが浮かぶ。
──そうでなくては面白くない。
──なんて憎らしい救世主様だろうか。
私の中の作家としての心が、予測不可能で爽快な彼の活躍を喜んでいる。
それと同時に、『かつて破滅を避けられなかった哀れな被害者』としての心が、彼を羨み、そして憎しんでいる。
なぜ。なぜ彼は破滅を退けられる?
私たちが持ち得ず、彼だけが持っているものは何だ?それさえあれば、私も破滅を回避することができたのだろうか。
もしくは『あの時』、あの場に彼がいてくれたら──。
・・・いや、今更そんな事を考えたって仕方がない。過去を変えることは不可能なのだから。
それよりも、脚本の続きを書かなければ。まだ彼は、このラグーナの真実を暴ききっていないのだから。
今度は、どんな破滅を用意してやろうか。
ああ、楽しみだ。


破滅とは、避けられぬものである。
悲劇とは、極上のエンターテイメントである。
絶望とは、押しつけ合うものである。
それが私の持論だ。
だけれども、ああ。
いつか彼が、私の考えを改めさせる日が来るのだろうか。
破滅とは、避けられるもので。
悲劇とは、深く悼むべきもので。
絶望とは、皆の力で切り開けるものだ、と。
この私が、そんな綺麗事を並べ立てる日が来たとしたら。
「ハッ・・・虫唾が走りますね」
思わず呟く。
ああ、そうだ。私は、そんな綺麗事に染まるつもりはさらさら無い。
・・・だけれども。
もし、仮に、万が一、染まったとしたら。
その時きっと、私の心は幾分か軽くなるのだろう。