桐谷リベル
2025-03-24 17:47:25
3084文字
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スカビオサの咲く

回生で記憶失ったのがトラウマになって、もう二度と姫様の事を忘れたくないリンクの話
※怪我表現有り
4/20再公開しました。

100年もの時を費やした回生の眠りは、リンクから何もかもを奪い去ってしまった。生きるはずだった時間も、それまで培ってきた経験も、積み重ねてきた記憶も、同じ時間を生きていた友人も、大切な家族も。
共に戦った仲間達の事はおろか、何に換えても護るべき主人であったゼルダ姫の事さえも。
回生から目覚めたばかりの自分は、自らの名前すらも覚えていなかった。見知らぬ遺跡で目を覚まし、何一つわからぬまま困惑する己に優しい声が「リンク」と呼びかけたから、己の名は「リンク」なのだろうと思ったのだ。
陽の光の眩しさに目を細めながら外の世界に出たリンクを導いてくれた老人は、リンクにシーカーストーンの使い方を教え、自らの正体を明かした後パラセールを授けてくれた。

ハイラル王に導かれ、はじまりの台地を飛び出してから、リンクは何もわからないなりにひたすら必死だった。
カカリコ村に辿り着いたリンクは、自分に呼びかける声の正体と自分の事を知っているというインパが導くままにウツシエの地を巡り、神獣を解放し、記憶の断片を見る。そのたびに失われた記憶がぽっかりと空いた穴を埋めるかのように蘇ってきた。最後のウツシエの地を訪った時、100年前の最後の記憶と共に蘇ってきたのは深い悔恨だった。護るべき主君も護れず斃れてしまったばかりに自らを囮として厄災を封じたゼルダ姫を救い出し、今度こそ護る為に。

全ての神獣を解放し、囚われていた英傑達に背中を押されながら厄災に立ち向かった。各神獣で相対したカースガノンの集合体のような邪悪な外見の厄災ガノンと戦い、城の地下を飛び出しハイラル平原に顕現した醜悪な魔獣となったガノンをゼルダ姫から授かった光の弓矢で倒し、100年前から焦がれていたゼルダ姫をついに救い出した時、万感の想いが溢れてしまうかと思った。覚えているかというゼルダ姫の問いに、申し訳ありません、と謝罪をする。ゼルダ姫が顔を曇らせかけた。

「100年に及ぶ回生の眠りにて、一時の間と言えども姫様の事を忘れてしまっておりましたこと、申開きのしようもございません。」
「ですが、姫様の残して下さったウツシエの地を巡り、各地の神獣を解放していく中で記憶の大半は取り戻しました。」
「100年もの間お待たせしてしまい申し訳ありません。」

曇りかけていた表情がポカンとしたものに変わり、じわじわと涙を滲ませ始めるのを見てぎょっとするのも束の間、泣きながら飛び込んで来たゼルダ姫を抱き留めた。彷徨いかけた右手を背中に添え、泣いていた妹をあやすように、しゃくりあげるゼルダ姫が落ち着くまでトントンと背中を軽く叩き続けた。
漸く落ち着いた頃、コモロ池の水で冷やした手ぬぐいをゼルダ姫に渡し、腫れた目元を冷やしながら、リンクは愛馬を呼び寄せた。
「カカリコ村へ行きましょう。インパ達が貴女を待っています。」


その後は、厄災討伐前とは違った意味で怒涛のような日々となった。
カカリコ村にゼルダ姫を連れて行ったが、再会の喜びも束の間、様々な疲労で倒れたゼルダ姫に村が騒然となってしまった。数日後目覚めたゼルダ姫は、100年に及ぶ身を挺した厄災の封印もあってか、衰弱こそしているが食欲などに問題はないようで、順調に快復していった。
ベッドから起き上がる事ができるようになってからは更に早く、数日後にはハイラル復興のために各地を駆け回り始めた。

リンクもゼルダ姫の護衛として追従する事もあれば、人里に近い場所に棲み着いた魔物や未だに稼働しているガーディアンを討伐する為に飛び回ったり、各地の人々からの依頼を熟したりと休み無く働いていた。動き続けるリンクを心配したゼルダ姫やプルアには少しは休むように言われていたが、旅をしていた頃も休み無く動く事は多かったので問題ありません、と、護衛の必要がない日は最低限の休息を取り夜明け前には討伐に出立する事が多かった。


ガーディアンの残骸が多く残るクロチェリー平原には、今も怨念が染み付き近付いた者にレーザーを浴びせようとする朽ちたガーディアンが残っている。比較的馬宿にも近く、街道もあるそこに、主にハイラル平原などに居るはずの歩行型ガーディアンが迷い込んでしまったらしいという報告がカカリコ村に届いた。
朽ちたガーディアンは一定の距離以上に近付かなければ避けることはできるが、歩行型ガーディアンとなるとそうは行かない。カカリコ村やハテノ村に続く主要な街道の一つでもあり、被害が出る前に一刻も早く対処しなくてはならないと結論付けて出立の準備を始めた。インパの屋敷にいるゼルダ姫に討伐に出立する旨を報告した際、ゼルダ姫が嫌な予感がするとリンクを引き留めたが、ガーディアンの脅威は高くともすればこのカカリコ村やハテノ村方面に移動して来る可能性もあるためとリンクは出立した。



あの時の嫌な予感は気のせいではなかったのだ。何としても朝出立しようとするリンクを引き留めるべきだったのだ、とゼルダは自身を責めた。
リンク負傷の報が届き、プルアやボガート達に無理を言ってリンクのもとに駆け付けたゼルダは、あまりの傷の酷さに呆然としてしまった。100年前、まさにこのクロチェリー平原で同じように傷付き倒れたリンクと、目の前の光景が重なる。ボガート達が治療のためリンクを抱き起こし意識の確認をしているのが、まるで窓を隔てた向こうのように映る。呆けたゼルダの肩を、プルアが強めに叩いた。
「ちょっと、しっかりしなさいよ姫様!リンクを死なせないためにアタシ達が助けに来たんでしょ!」
その言葉にハッとした。そうだ、まだリンクは死んでいない。
リンクが意識を失わないようボガートが声をかけ続ける隣に膝をついて、リンクを覗き込む。朦朧としているのか虚ろな青はゼルダを捉えず、今にも瞼の向こうに消えそうになっていた。
「傷はガーディアンの熱線で焼かれてるけどマズいわねとりあえずリンクを運ぶわよ。ここじゃ細かい治療はできない。場合によってはまた回生の祠に放り込む事になりかねない」
プルアが指示を出した直後、抱えられたリンクが目を開き突然暴れ出した。ボガートが傷に障らないよう宥め抑えているが、怪我人とは思えない程の力で暴れているためにボガートも他の者も必死だ。暴れるリンクにどうしたものかと狼狽えるゼルダの耳が小さな声を拾った。
「ぃゃっ
嫌だ、と。
治療を拒むかのような声にゼルダの目の前が暗くなる。御父様やウルボザ、英傑の皆や民達だけではなくリンクまで失ってしまう
「だ、ダメです、治療しなくては!治療しなくては貴方が今度こそ死んでしまいます!!」
暴れるリンクにしがみつき、とにかく必死で呼びかけ諭すがリンクは嫌だ嫌だと涙を流しながら藻掻く。焼かれて塞がりかけていた傷が開き、血が流れ出す。温かい生命が流れ出て行く光景にゼルダは己の無力を悔いた。封印の力は失われ、ミファーのような癒やしの力も持たず、目の前で死にゆこうとしているリンクに声は届かない。
血を流し過ぎたのか段々と力を失って行くがそれでも尚拒絶の声を絞り出し続けるリンクの様子に、プルアがまさかと声を漏らした。直ぐにリンクの肩を掴み、しっかり目を合わせて強く言う。
    
「リンク!回生はしない・・・・・・!回生じゃなくて治療するだけよ!アンタの記憶はこれ以上失わせない!!」
漸くプルアを認識し、暴れるのをやめたリンクは、涙をはらはらと流しながらほっとした顔をして気を失った。