書けるときに書くのだ、それは今日だぞ作家ロナルド、と己を奮い立たせ、キリが良いとこまで作業を終えてリビングに戻ったら、ドラ公がテレビを占拠してゲームをしていた。事務所の方まで何か盛り上がっている風の声が漏れ聞こえていたから、そんなことだろうとは思っていたけれど。
楽しそうにしているドラ公とジョンの後ろを一旦素通りしてキッチンに向かい、冷蔵庫の麦茶をコップに注いで、カウンターの上のおやつボックスから『夜食、一晩2コまで食べてよし 食べ過ぎたら次はない』と脅しのメモが貼り付けられているバナナのマフィンをしっかり二つ、皿に載せる。このまま鷲掴みにして食べてしまっても多分今のドラ公は気が付かないけれど、手は自然と皿に伸びる。
そうして揃えた夜食セットを手に、少し迷ってからソファの空いているところに腰を下ろした。ドラ公を挟んで奥側から、ジョンがお疲れとでも言うように静かに手を振ってくれるのに、笑顔で応える。
隣に腰かけても、ジョンとのやり取りを挟んでも、ドラ公の顔は画面に向いたままだ。ヘッドセットを乗せる頭は、髪をセットしていないらしく前髪が下りたまま。ゆるゆるの紺のスウェットと白いパーカー。また俺の部屋着を勝手に着てやがる。別に、ちょっと嬉しいから良いんだけど。
そんなくつろぎスタイルで、コントローラーを持つ両手の指がせわしなく、沢山あるボタンやらアナログスティックやらを操作し続けている。疎い俺には手元だけ見ていても、適当にガチャガチャやるのと何が違うんだって思うけれど、これで、モンスターの動きを観察しながら、避けたり、チャージしたりしつつ攻撃を差し込んでいる、ということらしい。
現実のドラ公じゃ多分地面から持ち上げることさえ不可能だと思える大太刀を、ゲームの中のドラ公の分身は軽々と振り回して、斬撃ですって感じのエフェクトを何度も散らしている。今日はあの武器は使わねえのかな、剣から斧に変形してすげえ派手な攻撃が出る格好良いやつ。
「……あーそうそう、今作夫妻の頭破壊無くなったんだよね。タフが過ぎたが仕様だったとは」
話し声は、ジョンとのものではなく誰かと繋いだ通話のためのものだったらしい。けれどドラ公がここ、リビングで遊んでいるということは、今夜は配信ではなくプライベートだということ。だから、俺が横に来ても咎められないというわけだ。
ドラ公は妙に友達が多いが、ゲーム関係も例に漏れずだ。例のクソゲー仲間だとか、ゲームセンター荒らしをはじめとしたゲーセン仲間。ネットにもコラボ配信とかで遊ぶ人が何人も居る。
「佐々木氏ナイス足止め! え、違うの? バグ引いた!?」
画面を見ていると、ドラ公以外にもモンスターに切り掛かるキャラクターの姿がある。通話相手の声は俺には聞こえないけれど、ドラ公の受け答えから何となくいつもの面々だと察する。
ここ一週間のドラ公は、出たばかりの狩りゲーシリーズ新作に夢中だ。発売の少し前から、ソワソワとかワクワクって文字が頭上にしょっちゅう出ていたから、発売日直前にどっさり仕込まれた作り置きのおかずとおやつを見て、ジョンと一緒に『ついに来るのか発売日が』って覚悟を決めたわけだけれど。
ドラ公が楽しみにしているゲームが出る時は大方こんな調子で、生活のあれこれは最小限に、ジョンの許しが出ている時間帯はほとんどコントローラーを握っていると言って良い。俺が二度寝から起きた昼目前、まだ起きていたドラ公と予備室前で鉢合わせる、なんてこともあって、何やってんだよ200歳超えと呆れたことは一度や二度じゃない。この狩りゲーに関しては、前作でかなりのめり込んだ結果ジョンとプチ喧嘩になってやがったから、さすがのドラ公も学習したのかジョンにタイマーを握らせているらしいけれど。
そんなこんなで、俺の仕事について来て邪魔する時間もスキップしてゲームに充てて、残りがジョンとの時間、となると俺はまあ、かなり放っておかれている。今みたいに。
ただ。
「ヘイロナルドくん? 今いいかね」
「あ?」
「業くん達が一狩り行こうぜって誘ってくれてる」
「は!? 編集長もいんの!? つーかそれ四人用だろ、俺入る余地ねえじゃん」
「あるんだなあ、これが。さあドラドラちゃんと交代だ! 光栄に思っていいぞ!」
『見たまえロナルドくん! プレイヤーにコントローラーを破壊させた数世界一とも言われるクソアクションゲーの新作が!』
いや聞かされてもわかんねえよ、ゲームのことなんて。
『今日の喪部田氏の動きは素晴らしかったなあジョン! 気を引き締めてかからないと次は危ういかもしれん』
いや誰だよ喪部田さん。コラボ配信て何やったんだよ。
『エーン! 埋めても埋めてもマップが埋め終わらん! 制作陣の熱意が斜め上の方向に!』
何時までゲームしてんだよ。それいつ終わんの。ジョンとっくに寝てるし、俺もう寝るけど。
『若造! 来月ヌインクラフトで視聴者vs新ドラドラキャッスル対抗戦をやるから特訓するぞ!』
勝手に決めんな!!
――あれがクソだ、これが面白い、あの人と遊んだあれが楽しかった、そんなことをドラ公は全部喋るのだった。それは楽しそうに。話し相手は大体ジョンだけれど、俺が相手のこともかなりあって。
それを面倒に思いながらも適当に流しているうちに、気づけばどんどん巻き込まれるようになって、世の中には映画と同じでクソゲーだけじゃなくて名作も山ほどあること、他人が遊んでいるゲームを近くで眺めるのもそれなりに楽しいってこと、にっぴきでやるヴァリカーやスマヴラの対戦はかなり白熱するってこと、なんかを知った。ドラ公が毎回糸くずを引き当てて爆散してるガチャのゲームだけは、いまだに何をするゲームなのかちっとも知らないけれど。
「ほら、観念してコントローラーを持て! ほいヘッドセット」
「えっいや、オイ勝手に進めんなって、俺操作わかんねえって……!」
思えば、俺がドラ公を好きだって自覚する前からコイツはずっとこんな調子で。
「大丈夫だ、横であらゆる嘘テクを手取り足取り教えてやる!」
「嘘教えんな! 他の人困るだろうが!」
「皆普通プレイには飽き始める頃合いだろうからいい刺激だと思うぞ」
「発売一週間で!? 千歩譲ってそうだとしてもそれはオメーが決めることじゃねえんだわ」
付き合ってからは、俺お前の恋人なのにゲームに勝てねえ、とかちょっと思ってた時期もあるにはあったけど。
「ヌヌヌヌヌヌ、」
「ん? 何だいジョン……ははあ、ロナルド君操作で私が横で実況解説? いいな、絶対面白いぞ! 今度配信でやろう!」
「だから勝手に決めんなや!! あっスミマセンっデカい声出しちゃって!」
ドラ公の思い付きに巻き込まれるときはいつだって突然だ。
俺はただゲームをするドラ公を眺めて過ごすつもりだったのに、一瞬にして、難しいアクションゲームの不慣れな操作、一緒にプレイしてくれる人たちとの会話、それから力を抜いてもたれ掛って来やがったドラ公の重さにどぎまぎしてコントローラーをぶっ壊さないような力加減と、全部やってのけなくちゃならなくなった。コントローラーって結構値が張るんだ、俺はドラ公と一緒に暮らすまで全然知らなかった。
「ロナルドくんの好きな武器、そうそれだ。使いこなせるかは知らんが」
「そこを教えんのがお前の仕事だろが」
「ンマー教わる立場で横柄ですこと!」
ゲーム。俺の好きなドラ公の、好きなもの。
そんなのを一緒に遊ぼうって言われたら、まあ悪い気はしないのだった。
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読んでいただいた方に「いや、ロくんも大概思い付きで動くし唐突でしょ」って思っていただけたなら嬉しいです。お互い様の煮凝りみたいなロドも好きです。
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