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望月 鏡翠
2025-03-23 00:47:45
903文字
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日課
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#1668 「肢芽」「海(ワダ)」「折り屈み」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
夜明け直後に浜辺にいくと、歌を聞くことができる。冬の夜みたいに冷たくて物悲しい歌だ。その声がする方を探せば、きっと彼女に会うことができるだろう。翡翠の鱗がキラキラと光る美しい女だ。
彼女は話しかけてくるかもしれない。言葉が拙くて幼いこどものようだ。歌っているときと打って変わった態度に驚くかもしれない。
それの相手をするのはいい。たまにあって歌を聞けば、心が慰められるだろう。野良犬に餌をやるように、貝や魚を気まぐれに分けてやることだってできる。
しかし絶対にしてはいけないことがある。
それを、人と同じと思うことだ。
言葉を交わすことができるから理解できるはずだとか、それに人らしい情緒があるはずだとか、陸の世界を見せてやりたいだとか、一緒に暮らすことができるんじゃないかとか、そんなことを考え出したら離れるときだ。
もっとも、その頃には年寄りの忠告なんて聞かなくなっているんだろうが。あんたもそうだろう。わかってるよ。
あんたみたいなやつを何人も見てきたんだ。
あれに、心を預けてはいけない。海に引きずりこまれて食われてしまうぞ。たとえ、殺すつもりがなかったとして、息をしている生き物が、海の中に入ったら死んでしまう。それがわからない程度の知能しかない。
そして自分が殺した命を慈しむ情緒もない。
肢芽の生じた頃から海にいるもんだ。生命としてのあり方が根本から違うんだ。なまじっか見た目が人に似ていて、人みたいな鳴き声をだすもんだから、その動きを人の折り屈みに当てはめて、考えちまうんだな。
あんたもその口だろう。
ああ、だがこんなこと言ったって、会いにいくんだろう。
わかっているさ、あの声は抗い難い。
どうして俺は、抗えたのかって。運が良かったのさ。
あれに海に引き摺り込まれたときに、水の深くにいきなり潜ったから鼓膜がパンと破れた。それで音が聞こえなくなって、頭の中がぐるぐるして上も下もわからなくなった。
その瞬間に呪縛が解けたのさ。
近くを通った漁船の網にしがみついて、命を拾った。
それだけのこと。
あんたにもそんな幸運が訪れるといいけどな。
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