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望月 鏡翠
2025-03-22 23:20:40
945文字
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日課
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#1667 「サザエ」「四苦八苦」「雲の波路」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
病人なら病人らしく、おとなしく床に伏せっていればいいものを。
そう思ったが、なら代わりに用事を済ませてやろうと思うほど、彼とは親しくなかった。布団から這いだすと、四苦八苦しながら二階に上がっていく。ガタガタとしばらく家探しの音が聞こえていたが、やがて静かになった。
そして、同じくらいの時間をかけて降りてくる。その手には何かを持っていた。
元は少し高めのお酒が入っていたらしい桐箱の中には、ガラクタが詰まっている。布団の上に無造作に置いたその中から取り出したのは、螺旋を作ったサザエの貝殻だった。
「一つ頼み事があるんだ」
貝殻を差し出す。
「こいつに海を見せてやってくれ」
「何か言われがあるものなのか」
何が面白いのか口を開けて大笑いして、首を振った。病の人間に頼み事をされるなんて、よほど思い出深い何かなのかと思うのは普通だ。
「いいや、ただの昔に海の近くを旅行したときに食べたサザエだ。内側が綺麗なのと、殻の形が面白いから持って帰ってきた。洗っても落ちないくらいに磯臭いのが面白くて、しばらくは臭いも楽しんだものだけどな、今はもうすっかり海の匂いも消えてしまった」
「それだけのものをどうして海に持っていかなければならないんだ。捨てればいいだろう。きっと燃えるゴミだ」
「そんな冷たいことを言わないでくれよ。可哀想じゃないか。俺が勝手に連れて帰ってきたんだ。返してやってくれよ。他に頼み事が思い浮かばなかったんだから、それで勘弁してくれ」
「貸している方が、下手に出るなんておかしな話だが、まあいいだろう、それでお前がいいんなら」
「いいっていってるだろ。この役目を果たしてくれたら貸し借りなしだ。ほらいったいった」
呼び付けられたあとに追い出された。無礼なやつだ。だがその無礼さに触れるのも最後だと思うと、俄かに寂しくなった。
この貝一つを携えて海に行く。私は遠ざけられたのだ。そして戻ってくる頃には、奴はいなくなっている。貸し借りもなし。もうこの家を訪ねる理由もなくなっているのだ。
海に向かう道中、雲が波を立てるように模様をかいている様を見た。
空を船が行くようだった。
それを見たときに、ああきっとあいつは今日死んだのだなとなんとなく理解した。
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