らく@創作企画TRPG
2017-05-13 17:56:04
4213文字
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【刀宿奇譚】 花筐ノ城 【本編】

ふわっと雰囲気で読んでね!

診断メーカー 刀宿奇譚
https://shindanmaker.com/531170 の診断結果より遊ばせて頂いたSS

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燕 つばめ
『腰に刻まれた燕の紋から、打刀を抜いて戦う刀宿。紅の瞳と朱鷺色の髪を持ち、城内で生活している。どこかに行きたい。鼠の紋を持つ者は幼馴染みである。』

鼠 ねずみ
『左胸に刻まれた鼠の紋から、槍を抜いて戦う刀宿。薄墨色の瞳と琥珀色の髪を持ち、主に使えて生活している。穏やかで優しい。雛罌粟の紋を持つ者は飲み友達である。』

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【花筐ノ城 はながたみのしろ】

 燕は一腰の打刀、鼠は一柄の槍。
 燕は腰に、鼠は胸に、己が魂たる紋を宿す彼らは、気付けば、花筐ノ城の主に飼われていた。
 いつの頃から身を寄せていたか思い出せはしなくとも、人から生れど、人に非ざる彼らの置場は物心がついたよりからそこしかなく、千騎を薙ぐ力を持て余すことなく城主に仕えた。


【花筐ノ城の主】
 元来、花筐ノ城主には敵が多い。お姫(ひい)さまの秘色と呼ばれる神秘的な儚き髪と目の色ゆえか、欲しがる輩が後を絶たない。
 ここ幾年か、戦の大半の理由が、城主がためと声高に恥も外聞もなく叫ばれる在り様だ。
 なれば、身を守るがよかろうと花筐ノ城の主は、世に生まれること稀なる刀宿をその膝元に置き、いつからか飼い慣らすようになったという。


【燕の話】
 遠く空を駆ける翼を落とされた燕は城主に縛られ、限られた城内を徘徊しては四角に切り取られた空を見上げる。
 淡く優しい朱鷺色の髪は薄闇の中に埋没し、戦場の赤だけを貪る瞳は冷えた紅に染まり抜く。
 時折、自由に出入りする鼠の話だけが暇潰しの種だった。
「形のない空などとうの昔に忘れたな」
「戦場は外だろう? 見上げぬのか」
 鼠が問えば燕は不思議そうに首を傾げた。
「戦に明け暮れいる最中、空を見上げる仕草は必要か?」
 跳ねる首のみに魅入ればよかろ。純粋さすら窺わせるその答えに鼠は笑った。淡くやさしい見目の燕がまことに囚われているのは城ではないと誰が知る。
 飢えた燕を血湧き肉躍る外へ放したが最後、戦場めぐりて生者は潰える。


【鼠の話】
 琥珀色の髪は月下に映える。
 薄墨の目は夜を吸い込み、夜陰を見定め、人には見えぬ景色を追いて鼠の紋が刻まれる胸から宿す槍を抜き放ち、敵を貫く。
 知らぬ間に敵将たる城壁に風穴を開け、その己が紋の名の通り、潜み隠れて戦要の兵糧を空にする。
 わざわざ刀宿がする領分かよ、と笑う燕に、鼠は薄墨の目を細めた。
「鳥目がよく言う」
 ぼそりと呟けば、燕の紋より抜刀されし刃を、鼠は月明かりの届かぬ暗闇にひょいと身を寄せ逃げ遂せた。


【下働きの話】
 へえへぇ、今の城主様でございますか。
 あの珍かなる色味も相まって、昔はまさに珠のような幼子であったとお聞きします。一国大名に狙われてしまうのも道理かと。
 御父上と共に町へと降り、親子仲睦まじく連れ立っているところをよく御見かけしたようにも記憶しておるんですが、ここ数年、部屋から出るところを御見かけ致しませんで。
 もう妙齢なる女性へとご成長されておると思うんですが、ああ、だからですかねぇ。
 そういえば、知っていますかい?
 お姫さまが御父上と代替わりしてからというもの、古参の者たちがごっそりいなくなりよったという話。
 酷い話だと思いやせんか。あだすどもは同情いたしておるんですわぁ。
 燕様と鼠様がいたからよかったものの、薄情な話ですよ。


【花筐ノ城主と鼠】
 鼠は城に戻ると、いついつでも主に呼ばれた。
「鼠、鼠」
 呼ぶ主の声はいつも弾んで楽しそうだ。
 それは鼠が持ち帰った様々な土産話を楽しみにしているというのもあるが、城に不在のことも多い鼠と会える喜びの方がきっと勝る。
 城主ゆえ、話せる相手は少なく、呼べる名も限られていた。
 その唯一が鼠と燕だった。
 誰かの名を呼べることの嬉しいことと主が笑む。
「燕は常に城にいるでしょう」
「あやつは近くにいすぎて呼ぶに及ばん」
 そう言う主にどういう顔をしていいか、あるいは今どういう顔をしているか、分からなくなった鼠だった。


【花筐ノ城主と燕と鼠】
「失礼致します」
 準備が整い、鼠が襖を透いて主の間に入れば、主より先にその膝にしなだれかかる燕と目が合った。
 甘く香る朱鷺色の髪を艶やかに撫でる主の手の下で微笑む眼差しは紅い三日月。
 城主に飼われる刀宿。着物で隠された腰元には千騎に勝る力を宿す紋がある。
 髪を撫で梳いていた手を止めて、主が美しい珠のごとく微笑んだ。
「待っていたぞ、鼠」
 面白い話を聞かせておくれと主が言う。

               ◆

 城に囚われた燕と違い、鼠は放し飼いにされている。城と城下を自由に出入りし、よくよくこまめに町の噂話から城の様子、戦の況を仕入れては主へと報せる。
「ご苦労だった」
 膝に燕を凭れ掛けさせたまま、話を聞き終えた主が嬉しそうに目を細めた。
「では、私はこれで」
「鼠」
 主の間から出ようとして呼び止められる。
「ついでにこれも連れて行け」
 傷ひとつない白くしなやかな主の指が、膝もとの燕の頭をやわらかに撫ぜた。
「足が痺れた」
 ふふ、と花筐ノ城主が笑うと艶やかな秘色の髪が涼しげに揺れた。


【燕と鼠】
「お前、あの御方の都合も少しは考えろ」
「俺の知るところでないな」
 主の間から連れ出せば、燕は着崩した薄紅の着物の袖と身頃の縫い目に腕を置いて、気怠るそうに欠伸をした。戦場以外の外を飛ぶことを禁じられた城の中の燕は、酷くゆるく勝手気ままだ。
 柔らかな朱鷺色の髪を掻きあげ、鼠を見やると燕は口端を歪めて笑う。
「城に留め置くのに俺を選んだお姫さまはとかく賢しい」
 女人のような風貌に似合わぬ粗野な仕草は、しかし、常に主の傍にいるためだろうか、どこか品がある。
「てめぇのような堅物が四六時中、傍に侍っていたら気が詰まって死んじまわぁ」
 せせら笑う燕の隣で、傍らに侍っているだけで主に名を呼ばれもしない戦狂いの刀宿の戯言は存外に面白いことだな、と鼠は思った。


【戦場の足軽の話】
 城主様のお話でごぜぇますか?
 御姿はほとんどお見かけ致しませんが、そりゃぁ真面目でよくよく己らの話にも耳を傾けてくださるお方です。
 大抵はお城にお籠りになっているのですが、ごく稀に戦場へと姿を見せるときもあるんですよ。 お姫さま直々に足をお運びになられるとは、先代の当主様に引けを取らぬ勇ましさでごぜぇます。
 燕様や鼠様がおわすから、士気も上がります。ありがたいこってす。


【餌食 えじき】
「先の戦で主が顔を出して下さいましたことで、敵の大将が釣れました」
 御前で膝を付き、鼠がそう報告すれば、主は美しい秘色の目を一度大きく見開いた。
「幾度となく、この私を奪おうと仕掛けてきた輩だな?」
 問えば、鼠は頷く。
「次の戦で必ずや討ち取ってみせましょう」
 傍らで寛いでいた燕が、さも物欲しそうに舌なめずりをした。


【燕と空】
 もとより翼のない燕にとって、野が空だった。
 目には見えぬ翼をたたむことなく、身に宿す己が刀で野に散らばる獲物を刈り取る。
 捉えられぬその速さで、ひとつ首を、ひとつ胴を、反す刀で、ひとつ胸を貫き、次へ飛ぶ。
 頭蓋も肋骨も脊髄も、まるで柔らかな肉と啄ばむ。
「見事」
 空を駆ける燕が取りこぼした肉を拾い終わった鼠が労えば、燕は血に濡れたような紅い目をゆるりと細めた。
「見上げぬのか」
 立てた槍の穂先でついと指し示され、燕は緩慢な動作で本物の空を見上げた。
 仕切りはなく、白菫に混じる紅色を束の間、眺め。
……つまらんなぁ」
 揺蕩う薄雲にそう捨て吐いた。


【花筐ノ城主の話】
 そうだな、幼い頃は狙われもしたが、世に稀なる生まれの刀宿ではあるまいし。
 たかだか城主の娘欲しさに攻め入る愚か者などいなかったよ。心配性のお父(とと)さまが私のためにわざわざ燕と鼠を連れてきてしまったのだ。
 少し珍しい色を持つ一人娘を守るためにだぞ?
 どこで手に入れたのか未だ分からぬ。
 けれど、今となっては燕と鼠を手元に置いていたお父さまに感謝しなくては。
 お父さまが国境の戦場で身罷られ、私を次代の城主へ据え置くようにと鼠から報せを受けたのが数年前だ。
 共に戦場に出ていた燕が、口惜しいかな、お体もお顔も持ち帰られなかったと、泣いて謝ってきたのを覚えている。
 それからだ。私の珍かなる色欲しさに、幾度となく戦が仕掛けられるようになったのは。
『御身が美しき女人となられたということでしょう』と戯言を申したのは鼠だったな。
 おかげで傍にいた燕に笑われた。
 おや?
 噂をすれば、燕と鼠が戦から戻って来たようだ。
 うん? へぇ、ようやっと敵の大将首を打ち取ったか。
 よくやった。


【城主の仇敵 あたかたき】

 合戦だ。
 飽くことなく鬨の声をあげ攻め入る武士たちを、燕と鼠、己が宿し刀で斬って捨て、貫き倒す。 刀宿にかかれば、鎧はまるで柔らかな布のようで、兜は頭巾で相違なく。
 人の束は束にも非ず。
「奪還せよ! 妖刀から、我が娘を……!」
 曰く、花筐ノ城主の敵の大将は、燕に首を刈り取られるその際、そう狂い叫んでいたという。


【秘色 ひそく】
 青というには脆く、緑というには儚く、向こう側へ透いて通るほどの明度はなくとも、一点の澱みさえもない。
 滑らかな癖のない髪はつやつやとして陶磁器のよう。その色と同じくした目はまるで磨いた珠そのもの。
 淡く脆く、儚き、涼やかなる清廉な御方。触れようとすれば、いとも容易く手から零れる。
 魅入らせ、魅せさせ、秘せ惑う秘色の色香。
「ずっと手元に置いておきたい」
 重なる二つの人非ざる声は、主の耳を塞ぎ、傍らの燕の翼は、主の目を覆い、鼠の自由は、主の行く道を閉ざしていった。
「我らが、ただ独りの姫君」
 飼われているのは、一体どちらか。知るものは宿す刀の錆と消えた。

 それは、誰も知らない囚われの、お話。


≪刀宿奇譚・終≫






※こちらのテキストは妄言でもあり、フィクションでもあり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。