らく@創作企画TRPG
2016-11-14 08:29:56
1780文字
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【零月譚】みけねこ情報屋



 その店は、昼下がりになると開かれる。
 店というには手狭で、外観は荒ら屋を小綺麗にしたという程度。
 けれど、そこに住まう女店主に依頼をすれば、まるで猫が軒下で話を聞いていたかのような、只人では得られぬ情報が得られると、ある界隈では評判だ。
 しかし、全てひとりで切り盛りしていて忙しいのか、常日頃、女は勘定台の前におらず、代わりに看板猫の三毛猫がのんびり惰眠を貪っていることが多い。
「おいっ! 店主はどこだ!」
 天気のよい昼下がり、うつらうつらとしていた猫の耳に、その怒声は無遠慮に響いた。
「評判だと聞いたから来てやったのに、昼まで待たされたあげく、店主がいないとはどういう了見だ! このっ!」
 店先の三毛猫を怒りのままに蹴り飛ばすと猫はふぎゃあっ!と悲鳴をあげて店の奥へと転がるように走り消えていった。
「ふん」
 わざわざこんな薄汚い所へ客に足を運ばせておいて、肝心の店主が不在とはなんて礼儀のなってない店だ。
 かといって、手ぶらで屋敷に帰れるわけもなく、男は苛々と狭い店の中を壊さんばかりに歩き回った。
 数刻後。
 蹴り飛ばした三毛猫が消えた奥から「あー、酷いめにあったあった」とひょこひょこと店の主と思われる女が出てきた。
 鮮やかな橙色の髪で、前髪の一部は茶に染めてある。
 目は猫のように細く、纏う薄紅の衣は着物というより浴衣に近く、しかも、丈が足りていない。
 なんとも奇抜な格好の女だった。
「おや? お客さんかにゃ?」
 その上、ふざけた口調で、猫のような細い目をさらに細めて女は笑う。
「貴様、店主か! 客を数刻も待たせるとはどういうことだっ!」
「そんにゃあ言われても、あちしが来いと言ったわけでもにゃーで、旦那こそどういう了見で?」
 男は今にも腰の刀を抜き放たんばかりの剣幕だったが、女のあまりの言いようにこいつはどうやら頭の方があれらしいと結論付けた。
「貴様のような女に依頼というのもおかしなものだが、おれの雇い主たっての要望でな」
 男は一方的に話をし、女はとりあえず聞く体をとってはいるが、たまにあくびをしては男に射殺されんばかりに睨まれて「おっかにゃぁにゃあ」と縮こまる。
と、いうことだ。おい、聞いているのか!」
 たとえ聞いていたとしても理解しているか分からぬ危うさで、女はふんふんと頷いた。
「はいはい、聞いていましたとも。旦那の主は猫の手も借りたいということで」
 それでは、この情報をと渡せば、男は止める間もなく中身を改め「ほお、よくまぁここまで調べたな。まぁ、信用に値するかは別だがな」とせせら笑った。
「んにゃ? ちょっとにゃあ、旦那。お代金もらってにゃーでよ」
「は、貴様のような女が取ってきた情報に払う金などあるはずなかろう! 滅多に客などこないだろうに、久々に使われたことに感謝するのだな。おれの主もこんな女に頼ろうとは気が知れぬ」
 男は吐き捨てて、戸を乱暴にあけると帰ってしまった。
 女店主はあーあ、とあくびのようなため息を吐くと、特に気にした風もなく、損したにゃあと呟いた。
「あのおっちゃん、阿呆だにゃあ。猫に小判というにゃれど、ものに対価はつきものにゃあ」
 なれば、話の対価に暴力をと言うならば、己に返るもまた然り。




「くそっくそっ! これではおれは身の破滅だ! あの女、あの女!」
 一見しただけでは分からぬ巧妙な情報は、偽物どころか、男を窮地に陥れた。
 男は、恐怖と怒りのままに女の店があった場所へ逃げるようにひた走る。
 けれど、店があったはずの場所には無人の荒れ果てた小屋があるばかり。
 蜘蛛の巣が張り、壁は隙間だらけで、雑草が生い茂り、人はおろか、猫一匹、住み着きそうにない。
「どういう、ことだ……
 男は愕然と、荒ら屋の前で膝をついた。
 もう追ってはすぐそこまで迫っている。捕まれば、よくて拷問、悪くて手打ち。
「おれは、おれは、いったい……?」
 ぶるぶると震える足にもう力が入らない。
「いたぞ! 捕らえろ!」
「違う、違うのだ! おれは騙されたのだ!」
 喚く男の言葉を誰もが無視して引っ立てる。
 ふと数人の内の一人が顔を上げると、人の手の届かぬ小綺麗な屋根の上から、一匹の三毛猫がせせら笑うように、にゃあと鳴いた。






※こちらのテキストは妄言でもあり、フィクションでもあり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。