望月 鏡翠
2025-03-21 23:26:43
913文字
Public 日課
 

#1665 「大掴み」「常形」「遺産」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺


 これがお前が引き継ぐべき遺産だなどと言われても、ピンと来なかった。
 父親が何かを集めていたことは知っていた。仕事を辞めたあとに始めた蒐集壁だ。しかし家のお金を使い込んでいたわけでもなし、老人の趣味に口をだすことはしていなかった。
 父親の部屋は大雑把な息子からすれば几帳面すぎるほどに片付いている、年老いてからもそれは変わらなかった。靴下は靴下。夏服は夏服。肌着は肌着と、それぞれ分けてしまってあったし、棚には丁寧にラベルが貼ってあった。
 綺麗好きな父親の部屋は、彼が亡くなったあとも、しばらく片付けていなかった。なまじ几帳面に片付けてあるものだから、片付ける必要を感じていなかったのだ。
 汚れているわけでなし。どちらかと言えばきっと、自分が中途半端に手を出したら父親が作った城が台無しになってしまう。
 だが、家を取り壊し土地を手放すことになり、いよいよ片付けなければならなくなった。
 箪笥を開き、ようやく父親がため込んでいたものの正体を知った。
 指輪である。いや指輪だったものと、言った方がいいだろうか。缶の中に柔らかい布を敷き詰め、丁寧に分類してあった。どうしてこんなものを取っていたのかわからないが、鬼気迫る空気すら感じた。
 ほとんどは常形から外れ、割れたようなものばかりだった。他に指輪が入っているから元がそうだったとわかるだけでひしゃげているようなものまであった。
 知る限り父親はアクセサリーを好んで身につけるようではなかった。意匠は、男物よりも婦人物が多い。
 正直、気味が悪かった。大掴みに言って百点近くはあったと思う。父親の部屋は、見たところが綺麗に整えられていたから気にならなかったが、中に眠っていたものは、なんというか悍ましい。
 何を目的として集めていたのかわからないし、誰のものかもわからない。
 そこで思いついた。父親は几帳面な人だった。何か来歴やメモ、どこで入手したものなのかを記録してあるんじゃないだろうか。
 想像は当たった。指輪が入っている箱には、ナンバーが書いてある。日記だと思っていたノートに対応する番号が書いてあった。
 父親の謎を解き明かすときが来たらしい。