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月見
2025-03-21 22:36:27
3069文字
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心中未満宿敵以下(フロラス)
3/20ガタケット180無配その③
転生現パロ同棲記憶持ちの2人が山に行く話
「山に行く」
「そうか。登山届と位置情報アプリを忘れないように。貴方ではなく周りのために」
「は?」
「うん?」
「
……
お前と行くに決まっているだろう?」
全く隠しもしない棘があるのはいつものことで、更には絶妙に噛み合わないやりとりで二人の休日は始まった。
昨晩、散々に互いの熱をぶつけ合った名残で澱んだ空気に満ちる寝室で迎えた朝、互いに寝ぼけまなこでのやりとりである。
フロイトとラスティ、二人がそもそも出会い、住居を共にし挙句の果てにセックスする間柄になったのはそれなりの波乱と胡乱に満ちた、しかし言葉にすれば三行で事足りる経緯があった。
前世の知り合いとの再会の場が、その知り合いの住まいが爆発炎上し家無しになった瞬間であり、これ幸いとこちらの住まいに押しかけられたから、である。
なお、これはラスティ視点であり、フロイト視点で言えば家無しになった瞬間に前世の知り合いと再会したので住処の当てが見つかった。である。
丁度帰宅する直前、ボロアパートに隣接する安全管理から何からあれこれと怪しい飲食店の不始末に巻き込まれ、無残に燃え崩れていく当座のねぐらに流石に唖然としているところに通りがかった相手の顔を見た瞬間、フロイトは流石に驚きに目をみはろうとして、しかしそれは叶わず思わず噴き出したのを憶えている。
だってそうだろう。かつてと変わらない小奇麗な顔が、かつては常に爽やかに取り繕えていたのが見る影も無く嫌そうに、「ゲェ」と顔にデカデカと書いているレベルで歪んだのだから。
記憶があると自白に等しい上に、こちらへの感情も丸出しだ。その腑抜けっぷりと、まさかかつて生きた世界の欠片との再会の予想外さ、燃え上がる自宅という構図が訳が分からなくて愉快で。
「よおラスティ。久しぶりだな」
ところで、お前のベッドは男二人寝られる広さか? 逃がさぬように即座に距離を詰めて腕を肩に回しかけて。吹き込んだ問いの意図を正確に察した相手の顔が更に苦り崩れ切ったのを見て、お綺麗な顔が台無しだな、なんて三流悪役のような台詞を口走った自分にまた笑ったものだ。
その後ひと揉めふた揉め、なんなら四、五くらい揉め倒しながらも最終的に二人は所謂同棲に至った。
生活リズムから食や服の好み諸々どれもこれも噛み合いはしないが、なんだかんだと落ち着いてしまっている。
セックスする仲にまでなっているのはそれこそ前世からの継続事項だった。
最も、とフロイトは後に振り返る。かつての始まりは非合意のようなものだったし、何回目からかラスティは割り切りこそしていたが最後まで不本意な交わりではあったのだろう。
だから、ねぐらに押し掛けるのを許容するまではともかくラスティの方からスる前提で服を脱いできたのは正直面食らったのだ。
「
以前
・・
とは具合が違うんだ、スキンは着けてもらうし入らなくても文句は言うなよ」
随分シャワーが長いなと思ったら、家主のベッドで我が物顔で寛ぐフロイトを見下ろして寝間着を脱ぎ出したラスティに、一瞬フロイトの方が呆けたのは無理も無い話だ。
しかし二度目の生を受けたこの国の諺に「棚から牡丹餅」「据え膳喰わぬは男の恥」とある。フロイトはありがたく口に飛び込んできた獲物に噛り付いた。
結局、この時のラスティがどのような心境でフロイトの居候を許し、あまつさえ自らセックスをしかけたのか確かめずに一年が過ぎた。
フロイトは時折気紛れにギャンブルで金を得る無職で、ラスティは業種は分からないがどこかしらに勤め賃金を得ている。
週末が休日で日中が仕事ということは、少なくとも顔と物腰を活かした夜の仕事では無いらしい、とだけフロイトは認識している。
そんな相手と一年、上っ面の趣味嗜好とセックスの具合だけは知ることとなった相手と、今山間にそびえるダムを見下ろしている。
「山登りじゃなくてダム湖見物か」
「普通その手の趣味の気配が無い奴の山に行く、で登山届が必要なレベルを想定はしないだろう」
「貴方ならありえるじゃないか」
半日、ラスティに車を走らさせて到着したそこはそれなりの観光客で賑わっている。
夕方前の放水時間に間に合い、今は轟々と音を立てて真白く弾けた水が何千トンと吐き出されていた。
まだ空気に冬の気配こそ残すも春を迎えた山は青々と緑に染まっていて、なるほど、紅葉の時期とは違う絶景と言える。
家族連れ、友人同士、カップルに一人旅。様々な属性の人々が歓声を上げて楽しむ中、どこか懐かし気に目を細めて落ち行く水を見つめるラスティの横顔にフロイトは薄く笑った。
「落としても良いぞ、ここから」
そうしたかったんだろう? わらって、かつて雪に閉ざされた星に在った現地の人間の拵えた拠点を思い出す景色を見下ろして言う。
この世界には娯楽も多いが、それでもあのどでかく自在に動かせる鋼鉄の玩具は無い。そんな物足らない世界で見付けた愉快な世界の欠片たる男に、それなりの感謝と興味と揶揄い、そして誠意を籠めて言ってやったというのに。
かつて抱えていただろう殺意を見抜いていたことを告げ、更に肯定してやったというのに。
「落ちたいなら止めはしないが、出来れば誰も居ないところでやってくれないか」
呆れ切った声でこちらに視線を戻したその顔は不満げに顰められていた。それでも再会直後の顔には程遠く、しっかり美丈夫のままだったが。
「まったく、読めない人だ。相変わらず」
ラスティはそう言って微かに微笑む。腹が立つよ、と悔し気に付け加えながら。
フロイトは一度だけ大きく瞬き、次いでにんまりと笑う。自身の瞳孔が危うげに開かれるのが分かった。それこそ、かつて『玩具』を乗り回していた時のように。
「お前は変わったなあラスティ。随分分かりやすく素直になった」
その癖読めないところは以前より余程読めないのだから厄介な相手であることに変わりはない。気怠さに悦を滲ませて賛美すれば、ラスティはツンと顔を逸らし、目線だけをちらりとフロイトに流す。
「不満ならばいつでも荷物を纏めて構わないぞ」
買い換えたあの広いベッドは晴れて私一人のものだ。放り投げられた言葉にフロイトは思わず顔を伏せて肩を震わせる。愉快だった。
「ハハ、まさか。飽きない、と言ったんだ」
面白いなあ、ラスティ。呟いて、ラスティの襟ぐりを掴むようにして引き寄せる。
「本当に落とされるのも悪くない、そういう気分だ」
「ふふ、そして私も貴方に落とされるのだろう? それは最悪だな」
耳元で囁けば、今度はこちらが胸倉を掴まれて真正面から皮肉気に、挑むように艶すら滲ませて微笑まれて。
ほんの僅かに、あの頃の殺気の名残が香るもすぐに掻き消えて。
フロイトはたまらずその近付いた顔に、唇に、自分のそれを押し当てた。
周囲で細やかに上がるどよめきは水が溢れ落ちていく轟音にかき消されて二人の耳には入らない。
冷えた唇の感触を味わいながら、そういえばこの生においてこの男と唇を合わせたのは初めてだ、と小さな気付きを得る。
かつてと同じ味をしている癖にかつてと明確に何かがズレて変わった心地を味わいながら、フロイトは顎の下に思い切り撃ち込まれた掌底に吹き飛ばされていた。
衝撃に仰け反り仰ぎ見た空は赤く。あの頃あの星の空よりはねぐらを焼いた火に照らされたあの日の空に似ていて。それがまた無性に、面白かった。
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