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月見
2025-03-21 22:34:35
2947文字
Public
オキラス
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灰に成らぬ炭(オキラス)
3/20ガタケット180無配その②
解放√ifの2人が浜辺でバーベキューする話
よく晴れた空の下、淡い青色の波が寄せる砂浜で、熱された網の上に乗った大きな肉が焼けていく。
ジュウジュウ、ぱちぱち、一晩特性のソースに漬け込まれたひと抱えほどの塊肉が程良い大きさに切り分けられ、焼けていく。
浮かび上がった脂が染み込んだソースと共にパタパタと垂れて網の下、敷き詰められて赤々と燃える炭に落ちてぼわりと火の勢いが増した。
「良い匂いだな、もう食べられるんじゃないか?」
「まだだ、というか何度目だラスティ。食い頃になったらやるから、今はこちらを食っておけ」
大きな皿を持ってワクワクと網の周りをうろつく男を、オキーフは呆れたように叱りつける。
ほら、と先に網に置いていたために食べ頃になった野菜たちをドサドサとその皿に乗せた。
輪切りにしたトウモロコシ、サツマイモにニンジン、更に真っ二つに割ったパプリカその他色々にキノコも数種類、あっという間に男の、ラスティの持つ皿は野菜たちで一杯になった。
「
……
二人分、だよな?」
「お前の分だ。俺はお前が余らせたら少しつまむ」
こんがりと焼き目が付き、スパイスにしろソースにしろ幾つも用意されていて、量があっても味に飽きることは無いだろう。
ラスティは良く食べる。この量の野菜を平らげたとしてもその後に待つ肉も十分に腹に納めるだろう。
むしろ納めさせるために焼いている。
「なるほど、しっかり半分余らせるとしよう」
だというのに、そんな風に返してまずはトウモロコシに齧り付く相手の顔を苦い顔で見る。
「うん、美味しい。ほら、貴方も食べると良い」
ラスティ本人はこちらの渋顔に構わずあっという間にトウモロコシをひとつ齧り終え、次は玉ねぎをしゃくりと味わいながらパプリカをオキーフの口に捻じ込んで来る。
「むぐ、ん」
「あ、とりあえず塩をかけたが、別のものが良かっただろうか」
仕方なしに咀嚼するオキーフにかけられた気遣いに、諦めたように嘆息していや、と首を横に振る。
「分かった、食うから。ほらテーブルに置いてお前はそっちに座っていろ」
網の傍ら、砂浜に突き立てたパラソルの影に設置した折り畳み式の軽量テーブルに椅子。ラスティをそこに追いやるようにして座らせ、もとい休ませ直射日光から逃がす。
肩を竦めるもとりあえずは大人しく従った姿に小さく胸を撫でおろしながら、ようやく頃合いになった肉も野菜とは別の皿に盛り始めた。
合間に缶入りの発泡酒のプルトップを開けて煽る。横からは私も一本いただこうかな、と上機嫌な声が聞こえ、オキーフは知らず口元を緩めた。
山と積まれた肉と野菜。空になった網にはまた新しく肉を乗せて、オキーフも席に着く。
いつかを思えば信じられないくらい暖かく明るく、安全に満ちた世界だった。
ルビコンは夜明けを得た。そしてそのための戦いの中で狼は翼を捥がれるようにして墜ちた。
墜ちて、しかし命は落とさずに済んだ。外ならぬオキーフの手によって、だ。
救い出し、治療を施し、目覚めた男と男の古巣とのやりとりの果て、最終的に男を攫うようにしてルビコンから遠く離れたこの暖かい星に落ち着くまでを語れば、果たして何日かかるだろうか。
パラソルによる影の下だというのに眩し気に目を細め、オキーフはラスティを見る。
一時期、瀕死の重傷からの治療明け直後、ごっそりと肉も削げた青白い姿と比べれば大分以前に近付き血色も良い。
袖から伸びる腕や襟ぐりから覗く肌、それに顔にも火傷や裂傷の痕は残っているが、随分と健康な、見慣れていた姿に戻って来たと言える。
次々と肉の山を低くしていく食べっぷりも、目覚めて暫く重湯や粥しか受け付けなかった頃と比べればオキーフの胸はほんのりとだが確かに熱く成らざるを得ない。
あれも食えこれも食え、座っていろ身体に負荷をかけるなと、ラスティが時にうんざりするほど世話を焼いた甲斐がある。
二人で何回も肉の山を平らげ遂には食材入れのクーラーボックスが空になり、流石に腹も苦しくなった頃。
「少し足を漬けてこようかな」
ラスティは立ち上がり、靴を脱いで砂浜を歩き始めた。静かに打ち寄せる波に関心が移ったらしい。
「波打ち際までにしておけ。着替えは無いぞ」
「ふふ、分かっているとも」
さらさら、ふわふわと歩きづらい砂浜に足先を埋めながら歩く背中をオキーフもまた立ち上がり、追う。
降り注ぐ陽光に、かつて男が駆っていた鳥と同じ藍色の髪が照らされ金色に光っていた。
青空の下で両手を広げて波を蹴る姿を見て、オキーフは無性に煙草が吸いたくなる。舌先に広がる甘さを苦みで押し潰してしまいたくなったのだ。
密やかに牙を研ぎ爪を内に握りしめて空を見上げ、蒼く灼けるように空を駆ける姿に目を奪わられて、そんな相手が、今はただ穏やかに真っ新に、地上で笑っている。
「オキーフ! 貴方もどうだ? 冷たくて気持ち良いぞ」
「近付いたらぶっかけてくる気だろうお前は」
「ははは、バレたか」
はしゃぐ声に我に返り会話を合わせれば、ラスティはまた楽し気に笑った。
その顔に、身の内に「これで良かった。最善で、このままでいるべきだ」という甘言がオキーフの全身を満たす。
ゆったりと足を進め、靴先が濡れる程度までラスティに近付いて。
冷えすぎる前に上がって足を拭け、という小言にまたラスティは「本当に心配症だ、貴方は」と肩を揺らして。
不意に、ラスティはぴたりと動きを止めて沖を見やる。広く静かな、穏やかな海を。自らの足が浸る透明なそこを、見下ろす。
「ラスティ?」
オキーフもまた緩んだ目元、綻ぶ口端をきゅ、と戻してラスティを見つめ、声をかける。
どうした、と。そう投げかける前にラスティは振り返った。静かに、虚ろを抱えた笑みを浮かべて。
「なあオキーフ、
以前の私
・・・・
の故郷に海はあったのだろうか」
無かったのだろうか。だからこんなにも、たまらない気持ちになるのだろうか。
そう、凍え、汚染された海が広がる星で生まれ育った男がくしゃりとわらう。
生き様も目指した世界への想いも全て真っ新に、真白に吹き飛ばした男が、かつての欠片に指をかけ、笑っている。
嗚呼と、やはり煙草を吸うべきだったとオキーフは表情に出さず、呻いた。
思い出してくれるな。あの星を、お前が飛び続けた理由を、なにひとつ思い出さず此処で穏やかに朽ちてくれ、燃え尽きた灰となってただ、静かに幸福に。
身勝手な慈愛と独善に身を焼きながら、「どうだろうな」とだけ返して。
もう上がるぞとラスティの腕を引いてパラソルの下へと戻る。
握った手のひらは暖かい。固く少し荒れた、しかしもう操縦桿を握り続けて出来た肉刺も無いごく普通の手のひらだ。
この手がそのままであれと願いながら、どこかでまた、重く痛々しい背景を取り戻して飛ぶ姿も幻視して。
「次は山に行きたいな」
敏さは変わらないのか、オキーフの苦悩を嗅ぎ取ったように軽やかな声が上がる。
「
……
そうだな、渓流釣りでもするか」
ため息と共に吐き出したこの星での平穏な『次』の提案に、ラスティは楽しみだと声を上げて笑った。
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