月見
2025-03-21 22:32:39
2626文字
Public 6ラス
 

小翼(6ラス)

3/20ガタケット180無配その①
解放√ifでスチヘのパーツを肴にイチャつく2人

「あれはもう使わないのか」
 唐突にかけられた声にラスティの動きがひたりと止まり、くいとこちらを振り返る。
 ベッドの上、行為を終えた余韻も消えて衣服を身に着ける途中のラスティは、それこそ丁度シャツを被ろうとするまさにその時だった。
「あれ、とは?」
 首と共に半身を捻られたことで、ソレ:・・がより一層際立ち621の視界を彩る。引き締まった肉の下、傷痕に塗れた背の動きに沿うように浮き上がり、形を露わらにする肩甲骨が。
「あれだ、ブースター。スティールヘイズ前の機体に組み込んでいた方の」
 柔らかに滑らかに稼働し、そのままラスティの背から突き出るのではというありえない妄想を底に仕舞い、621は淡々と細くする。
――ALULA/21E、未踏破領域で621と戦い、中破した機体であるスティールヘイズが搭載していたブースター。
 小翼を意味する名を冠したそのブースターは、ラスティが機体を乗り換えた際には引き継がれなかった。
 かけられた問いにラスティは着替えかけのシャツを最後まで被ると621へと向き直った。
「君との戦いと離脱で酷使したからな、根幹が焼き切れて使えなくなったよ。まあシュナイダー製だから仕入れ直すことは容易いが、今のオルトゥスの設計にはあまり合わないだろうな」
 かといって今のブースターも完璧では無いが。ラスティはふむ、と顎に手を当てて斜め上の宙を見る。頭の中でスティールヘイズの、そしてオルトゥスのアセンブルと様々なパーツを照らし合わせているのだろう。
「そうか……
 落ちた声は、621の普段を思えば随分と分かりやすく沈んでいた。低く這っていた。
 聞く者が聞けば落胆、と読み取れるだろう響きの元の半分は眼前の白い背がシャツに隠されたことによるものだが、もう半分はその背の持ち主の答えに対してだ。
「どうした戦友。私のアセンブルに不満か、それともアドバイスかな?」
 ルビコンの解放者からの指南はためになりそうだ、などと挑発的に笑まれ、どうやら面白がられているようだとラスティに関してはそれなりに察しが利くようになった621は悟る。
 面白がりつつ、この男の機体について下手なことを言えばそれこそ彼が駆使するスライサーの如き切れ味で返して来るつもりなのだろう、とも。
 最も自機の構成に関しては己とて如何にラスティからだとしても半端な口出しは愉快なことではなく。しかし同時にラスティがそんな程度の口出しをするはずも無いという信用とどんなことを言うのかと胸が躍る。
 つまり、ラスティも今そのような気でこちらの答えを楽し気に、試すようにに待っているのだろう。弧を描く口元から獣の牙が覗いているような心地だった。
 621は手を伸ばす。据わった目、光の無い目の奥に灯る赤も力無く、心なしか真っ黒い髪も更に煤けてでもいるかのような様相で。
 その癖伸ばした手に籠る力は強い。ぐい、とラスティの肩を掴み、此方を向いていた半身を強引にまた背を向ける体制へと戻して。
「っと、戦友?」
 想定外だったのだろう、面食らったように見開かれた灰の目が色を薄くして瞬きながら、それでも621に合わせて望むように体勢を変えてくれたことには感謝するべきか。
 621の眼前に、その眼と同じ真っ黒いシャツの布地が映る。それをやはり力強くと引き上げて、固い、傷や火傷痕が残る、呼吸に合わせて肩甲骨が浮いて波打つ背中を晒して。
「うん? 戦友?」
 ラスティが繰り返す。どういうつもりか、アセンブルについての言及ではないのかと、戸惑いながらも好きにさせている621への信頼か信用かの大きさを滲ませながら。
 果たしてそれは残念ながら621には伝わらず、ただ大人しくされるがままなのは都合が良くありがたい、とだけ無表情のまま噛み締めて伸ばした腕をひたりとその背に、こつりと硬い肩甲骨に当てる。
「アレは、これのようだった。地下でお前が消える前の、あの排熱機構の展開は」
 鳥の羽のようでよく似合っていた。621はそう告げる。ゆるりと細められた目はかつての光景を追っていた。
 621に片腕を砕かれ膝をついて、否、片腕を砕かれ膝着く程度で済んだラスティは、ブースターの展開とENの過剰放出によって621の目を焼き、限界を超える程の超速度で離脱した。
 その際の、あの白緑の輝きとそれを成した羽根の如き影を、621はこの男に似合うと思っていた。
まだ感情の起伏というものが表層より数段奥に潜っていた頃にも関わらずだ。
 それを目の前で背を晒す姿に呼び起こされてつい口に出た、それだけのことではある。
「また見てみたい気もしたが、機体に合わないのであれば仕方が無い」
 当たり前に納得しながら一段低く落ちた声音が戻らない様子に、ラスティは首だけで振り返りながら吹き出す。
……なんだ」
「いや、すまない。なんだか随分と情熱的な殺し文句を言われた気がしてね」
 不満げに眉を寄せて唸る621に、ラスティは小さく肩を震わせ上機嫌に返して来る。白い頬が薄っすらと色づいているようだった。
 その理由も分からず目尻を顰めるのも忘れて瞬いていると、だが、とラスティは柳眉を悪戯気に持ち上げた。
「またアレを見るということはつまり、また私と君が戦って私が負けるか、君以外の誰かに私があそこまで追い詰められるということになるな?」
――――――――
 君はそれで構わないと? と薄く笑い、目端を細めて煽る顔はなんとも蠱惑的で挑戦的で。
 その顔をまじまじと眺めたせいでラスティの指摘する『事実』の咀嚼に一拍遅れたが、じんわりと内に広がるそれに621が纏う気配が次第に、明確に歪んでいく。
 ぞろりと這い出る殺気、黒々とした嫌悪がその底無しの双眸から滲み出すのを、止めるのもまたラスティだった。

「私としては大いに構うので、今のところはアレと似ているというこちらで我慢をして欲しいものだな」

 此処は翼の名残なのだと、そんな与太話もあるらしいぞ。と、背に浮いた骨のラインを指して言うものだから。
 621が不快に感じた仮定をラスティもまた望まないと言うものだから。
 露わにしたその背に、浮いた翼の名残に、たまらず噛みつき痕を残しても仕方が無い。
 そう主張する621に、ラスティも今回は目に喜色を浮かべて許し、その背をぽすりと621の胸に預けカラリと笑った。