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べに
2025-03-21 16:10:26
6142文字
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とどばく
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TDBK-01
どうやらかっちゃんに一目惚れしちゃった轟くんと、ぐいぐい来られて絆されてしまうちょろい勝己のお話。不定期連載風で、今回は全年齢ですがえっちする予定は入っています。※初出2025年2月22日(旧プライベッターより転載)
・個性とかはない世界で轟爆が普通の大学生やってます。
・モブのおねえさんがいる。
・一年女子に追いかけ回されるツートップのオマージュ(?)
廊下の奥からはしゃぐ女の声が聞こえた瞬間、うすうす感じていた嫌な予感は確信へと変わった。勝己は思わず顔を顰めてスマホを見る。開いたままにしていたLINEのトーク画面を確認してみるが、上鳴から「先輩たちと飲み会」と聞いていた会食の指定場所は、視線の先、今しがた甲高い笑い声が漏れてきた座敷で間違いなさそうだ。
何が飲み会だ、おもっきり合コンじゃねぇかあのアホ。ため息を吐き、今まさに下駄箱へ入れようとしていたスニーカーを再び地面におろす。奴の言葉を5パーセントくらい信じてのこのこやって来た自分を殴りたい。ただの飲み会ですらだるいのに、合コンなんてもっとだるい。このまま帰ろう、と決める。行くと返事したものを土壇場でキャンセルするのもどうかと思うが、話が違うのだから上鳴にも非はある。あとで連絡だけは入れてやろう。そんなことを考えながら靴を履こうと背中へ荷物を回したところで、背後から「あ、かっちゃーん! ナイスタイミング!」と声がかかってしまい、勝己は間の悪さに肩を竦めてうんざりした。ナイスタイミング! じゃねぇわボケ。
「いま料理来たとこだしさ」と廊下へ這い出てきた上鳴にいそいそと荷物を奪われ、さっさと退散してしまう機会を失った勝己は渋々あとへ続いた。
「爆豪くんていうんだ〜」
「電気くんの友達ちょーイケメンじゃん」
「色白いね〜、目も赤くてうさぎみたーい」
「ねぇやば、お肌つるつるなんだけど」
着席した瞬間から勝己の両サイドに陣取った女たちは、四人いる全員がいわゆる読モやインフルエンサーでもやっていそうな雰囲気で、なんというか場慣れ感がすごかった。こいつら距離感どうなっとんだ。うるせぇし、凶器みてぇな爪で触ってくんのをやめろ。
座敷には上鳴と女のほかに、キャンパスで何度か見かけたことのある上鳴の友人が一人いた。女の数からいくと男が足りない気がするが、勝己の隣に誰か来ると思しき席がひとつあるので、それで人数は釣り合うようになるらしい。要するにどこからどう見ても合コンだった。
大学でつるむようになってから、勝己は事あるごとに上鳴から合コンに来ないかと誘われていた。他をあたれと突っぱねても「だってかっちゃん来るって言ったら女の子のレベル上がりそうなんだもん!」とわりと最低なことを言う。勝己からすれば人を餌みたいに言ってんじゃねーぞという話だが、上鳴はこの合コンという出会いの場に並ならぬ情熱を持っていて、とりつく島もない態度の勝己相手にもなかなか諦めようとしなかった。そのうち、頷かせるためには何か勝己にとってのメリットを提示しなければと思い至ったのか、「頼むよ〜! 会費はいらないし、学食三日分奢るからさ〜!」と交渉を持ちかけてきて、顔を出すだけでメシ代が浮くならまぁ行ってやらんこともない、ということになったのだった。
「よっしゃ〜! これで俺もかわいい彼女ゲットするもんね〜」と浮かれていた上鳴だったが、結果として奴の思惑は悪い形で本人に返って来た。目当ての子までもが勝己に持っていかれてしまうのである。といっても勝己には初対面の女とどうこうなりたいという欲求がなかったので、一般的にかなりかわいいとか美人といわれるタイプの相手であろうと、その場で会話する以上の関わりは受け入れなかった。なにもお持ち帰りしたわけでもないのに、上鳴はそれにすら「いいなァ!」とネチネチ言ってきたので、てめェが来てくれっつったんだろとムカついた。それで勝己はそれ以降「だったら一人で行け」と一切の誘いを断るようになったのだが、それが今回、「先輩たちと飲み会」などと言葉を濁してまで呼び出してきたのだ。いろいろ天秤にかけた上で、キャスティング成功にさえ持ち込めればあとはどうにか狙った女を落とせる算段でもあるのだろうか。アホのくせにそんなんばっかに頭使いやがって。てめーが落とすとしたら単位だわ。
「みんな〜、あと一人ももう着くって」
反応の薄い勝己に根気強く話しかけ続けていた女たちだが、上鳴のアナウンスを聞いた途端、わかりやすく色めき立ちはじめた。「やばーい、ほんとに来るって」「どうする?」などと言い合いながら、抜け目なく空き座布団の隣を確保し、あっという間に勝己と空席を挟み込むフォーメーションを完成させる。こいつら相当手慣れてやがんな、と思いながら齧った串のつくねを引き抜く。これからここへやって来るという男は、そんな百戦錬磨の女たちからしても期待を隠せないほどの大物らしい。「ほんとに来る」とか言われているあたり、滅多にお目にかかれないレアな奴なんだろう。ああ見えてあのアホ面は謎の人脈を持っているので、芸能人まではいかなくとも、タレントの端くれみたいなのが来るのかもしれない。ふざけんな、だったら俺いらねぇだろが。
その時、後ろの襖がすらっと開いて、座敷に人の入ってくる気配がした。
「遅れてわりぃ」
「轟くん!」
主役のご登場だ。男の姿を見るなり、ハートでも付いていそうな女どもの声が一斉に揃う。『轟くん』に目をやった勝己は、その姿を見てすぐにああなるほど、と納得した。普通に生きてたらまず出会わないレベルの整ったツラだ。祝儀袋の水引かというほどきっちり左右で分かれた紅白の髪や、その下のオッドアイ、左側のわりとデケェ痣と、顔まわりになかなか強めの情報が散りばめられているが、そういうインパクトがあっさり薄れてしまうくらいにはイケメンだった。纏う雰囲気も柔和そうだし、さっきの声もいい感じに低かったし、なんなら背も高い。こりゃ女が放っとくわけねぇなと思う。勝己にはどうでもいいことだが。
幹事である上鳴とハンターの女たちに促されて、轟は空いたままになっていた座布団へ腰をおろした。勝己にも「ここいいか?」と声をかけてきて、いいも何も、そこはさっき女が仕込んだ狩場で、てめーは獲物だと思いながら「ドーゾ」と答える。
それからアホが「全員揃ったことだし乾杯しよー!」とはりきったものの、もはや女の意識は轟に集中していて、上鳴とそのツレは自己紹介以降ただの料理オーダー係みたいになっていた。それなのにあまりダメージを受けているようにも見えず、てめェはそれでいいんかと言いたくなる。まぁ知ったことではないので、勝己は女たちの関心が轟へ移ったのをいいことに、いっそう食事に専念した。
だいぶ腹も満足したところで、女が一人「ちょっとお手洗い」と席を立った。すると示し合わせたように、「わたしも」「わたしも〜」「失礼しまーす」とあとの三人もそれに続く。これはあれだ。時間帯的にも、おそらく手洗いでお互い誰狙いかの最終確認だ。確認といっても、「わたしの狙いは轟くんで、次点爆豪くんです」と全員の顔に極太マジックで書いてあるから、誰が諦めるかでしばらくもめるに違いない。付き合う相手もステータスの一部くらいに思ってそうだし、轟というクソイケ彼氏を得てsnsで自慢したいんだろう。連携を見せたかと思えばこれだから、女って怖ぇ。シメも済ませもはやこの場に用のない勝己は、隙ありとばかりに店を出ることにした。荷物と上着を手早く掴んで廊下へ出ると、本日なんの成果も得られず終わることになりそうな上鳴が「かっちゃん今日はありがとねー」と手を振ってくる。悠長にしてるけど焦りとかないんか? よくわかんねぇなと思いつつ「飲みすぎんなよ」と声をかけて下駄箱へ向かうと、どういうわけか後ろから轟がついてきてぎょっとした。いやてめェも抜けるんかい。
「俺も一緒に帰っていいか?」
並びざまそう尋ねられて、なんで俺に訊くんだと思ったが、もたもたしている時間はない。女たちが合意に達し手洗いから戻ってくる前に店から出てしまわなければならないので、「好きにしろ」とだけ言ってすばやくスニーカーに足を入れる。横で轟が「ありがとな」とか言っているけど、別に連れ立って帰る気はない。つかなんで座敷なんだよめんどくせぇな。
無事脱出に成功し、夜風にあたると、アルコールで火照った頬がすっとして気持ちよかった。量は飲んでないけれど、勝己は色白で顔に出やすいタイプなのだ。とにかく急いでいたので手に持ったままだった上着を羽織ると、油ものの料理のにおいがして、居酒屋行くとこれが嫌なんだよな、と思う。轟もコートに袖を通しながら鼻をすん、とさせている。いま某英国ブランドのタグが見えたけど、こいつもしかしておぼっちゃんなんか?
轟はマフラーまでしっかり身なりを整えて「待たせたな」みたいな顔で見てくるが、待ってないし、特段親しくなったつもりもないので、勝己は無視して駅に向かおうとした。するとすぐさま「爆豪」と呼び止められて眉を顰める。
「ンだよ」
「あ、と
…
もう帰るのか?」
「たりめーだろ」
きっぱり告げると、この世にそんな当たり前があるとは知らなかったような口調で「たりめーなのか
…
」と呟く。空ぶった帰りにツレ同士で二軒目に行ったりすることもなくはないだろうが、空ぶってもなければツレでもないので、この状況なら普通に帰る一択だ。
「も」
今度こそ歩き出そうとした勝己に轟が何か言いかけて口を開いたまさにその時、「帰ったってマジ?」という女の声が耳に届いた。目を向けると、女が二人、店の扉を押して出て来ようとしているところだった。ここで追いつかれるとか冗談ではない。
「来い!」
勝己は轟の手首を掴み、店の出入り口からは死角になる場所へ急いで移動した。タッチの差で表へ出てきた女二人は、左右をきょろきょろと見渡し、「えーまじでいないじゃん」「主役二人とも帰るとか終わってる〜」と不満がっている。特に押しの強かった二人だ。マジで危ないところだった。咄嗟のことで轟まで連れてきてしまったが、勝己と同じタイミングで抜けてきたということは、こいつだってあそこで捕まるのは都合が悪かったはずだ。だったら自分で危機感を持てという話だが。
「あの二人いないんじゃ意味ないし、もうどっかで飲みなおそ」
「そうしよ〜」
意味ないとか言われている上鳴がちょっとかわいそうではあるが、駅にまで捜索範囲を広げる気はないらしい様子にほっとする。奴らなら、逃した獲物のデカさからしてそこまでやってもおかしくはない。当の本人はスパイアニメの真似事よろしく、勝己と一緒に物陰から首を伸ばし、息を潜めながら成り行きを見守っている。
女たちが店内へ戻ったのを見届けると、鉢合わせを避けるため大通りとは反対側へ抜け、ひと気の少ない裏道に出た。そこでようやく轟の手を掴みっぱなしにしていたことに気づく。ちょっとした緊急事態だったので結構加減なく握っていたかもしれない、と思いながら離すと、轟は気にしたふうでもなく、はにかんだように「助けてくれてありがとな」と礼を言った。王子かてめーは。俺相手に顔面の無駄遣いしてんじゃねぇ。
さっき轟がなにか言いかけていた気もするが、なんか疲れてきたしもう知らね、と地下鉄の方へ足を向ける。轟はさも当然のようについてきた。
「なぁ爆豪、もし時間あるならどっか寄っていかねぇか?」
無視。
「もしかして急いでんのか?」
無視。
「ちょっとだけでも──」
「あーもううっせぇな! 俺とてめェでどこ行くっつーんだよ!」
今日はじめて同じ場に居合わせただけの他人同士で。耐えかねて言ってやると、ぽかんとした顔で「でも合コンってそういうもんじゃねぇのか
…
?」などと言ってきて、あまりにも純粋に聞き返すものだからびっくりして足が止まった。
「
…
あ?」
「気になる奴がいたら一緒に抜けて、どっか寄り道したりするって聞いたんだが
…
」
誰に何を聞いたのか知らないが、だから勝己を誘うというのは一般的にちょっと斬新な解釈ではないだろうか。これだけ顔がよければ相手には事欠かないだろうし、合コンなんかに慣れていないというのはありそうだが、大学生にもなってこの認識で生きているのはさすがにズレている。慣れてないというよりそもそも知らないという感じだ。正統派富裕層の御用達ブランドなんて着てるくらいだし、おそらく天然の箱入りぼっちゃんなんだろう。この世間知らずめ。やたらぽやぽやしていることにも納得がいき、勝己には轟という人物の朧げな形が見え始めてきた。
「
…
てめーああいうの初めてだったんか」
「ああ。今までは断ってたんだが、大学の奴にどうしてもって頼まれて来たんだ」
参加理由俺と同じじゃねぇかよ。このクラスのイケメン呼んで自分は空気扱いされるとか、あのアホ面はマジで何がしたいんだ。勝己ははぁと息をついて轟に向き直る。
「気になる奴って、女のことな」
「え」
「お互いその気がありゃ、あのあとホテル行ったりすんだよ」
それがスタンダードというわけでもないが、まぁ間違ってはないし、このくらいあけすけに言った方がこいつには伝わるだろう。衝撃の事実を告げられた轟は、盛大に豆鉄砲を喰らい、「そうか
…
言われてみりゃそうだな
…
」とじわじわ頬を赤らめた。無知ゆえの己の行動を省みて恥入っているようだ。この様子だと、今日のことも単なる交流会くらいに思ってたのかもしれない。あれだけ絡まれておいて鈍感すぎる。
ともかくこれで勝己を誘う気はなくなっただろうと思い、「じゃあな」と背を向けたところへ、三たび「爆豪」と制止がかかり、勝己は思わずつんのめった。何なんだよしつけーな! すでにかれこれ十五分くらい立ち話をしているし、冷えてきたのでいい加減本当に帰りたいとイライラしてくる。
「あンだよ。手短に言わねぇと殺す」
「急に怖いこと言うな。さっきは変なこと言って悪かった。でも俺、普通に爆豪と仲良くなりてぇんだけど、ダメか?」
「
……
」
さっき“は”じゃねぇんだよ。進行形で言ってんだよ変なことをよ。仲良くって何だ? ガキじゃあるまいし。勝己は黙って轟を睨んだが、奴は意に介さず、「もう結構仲いいと思わねぇか? 寄り道が無理なら連絡先だけでも交換してくれ」と猛追してくる。何だこれ。毛色の変わった層の人間が珍しいからちょっかい出してみたい的な上流階級仕草なんだろうか。
懐かれて心底めんどくさいが、まぁ放っておけば向こうから飽きるだろう、と思い直し、ケツポケットからスマホを取り出す。何度も言うが俺はさっさと帰りたい。「ン」と催促すると、自分から言い出したくせに、轟は「いいのか
…
!」と大袈裟に喜んだ。
LINEの交換とかあんまりやったことなさそうな轟は案の定友だち追加のやり方に手間取ったので、勝己が代わりに二台持ち扱う。アイコンのこれは蕎麦なんか? 予想外すぎてちょっとウケる。十秒もかからず登録を済ませて返却すると、「手際いいな」と感心されてしまい、こんなもんに手際もクソもねぇわと思った。
「嬉しい。爆豪、ありがとな」
「
…
おー」
変わった奴だな、と思うけど、そういうのは女に見せてやれやと言いたくなる笑顔を向けられて、なぜか悪い気はしなかった。
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