おひつじ
2022-03-07 22:39:47
8586文字
Public 【創作】うちよそ
 

アイザック・ニュートンの功罪

「夏の子どもたち(仮)」八雲那月(やくもなつき)視点のプロローグエピソードです。◻︎◻︎は少年たち2人にとって大切な友達で、謎のおじさん。正体不明。
彼…夏屋敷呉くんのこと(6番地さんの創作キャラクター)。
とある海沿いの街で、静かに戦争が始まり、終わった後の傷跡を見つめ続ける2人の少年の話。
序章っぽい感じで書いた記憶。
対になるお話(6番地さん作)があり、そちらにインスピレーションを受けて制作したものです。

「人の心が科学で証明できるなら、それが一番良かったかもしれないね」

そしたら………戦争だって、止められたかも知れないのに。
続く言葉は力なく、消え入りそうなものだった。どういう感情で放たれた言葉なのか、はたまた俺の聞き間違いだったのか、今となっては確かめようもない。
誰にともなく投げられた言葉はあてどなく粉雪と一緒に宙を舞う。さくさくと6本の足が代わるがわる、雪を踏む音とセットで静かな悲しみを携えながら。聴こえたのは果たして俺だけだろうか?いつもは真っ先に質問しなきゃ気が済まない俺も、普段の言動ではあまり感じ取れない■■の意味ありげな口調に、”彼”と思わず顔を見合わせたことだけはよく覚えている。

これは、まだ冬があったあの頃の雪の日、3人で遊んだ帰り道、手を繋いだ俺と“彼”に挟まれる形でぽつんと■■が呟いた言葉だ。

俺はどうしてもその意味が分からなくて、知りたくて。あくる日、休日だったにも関わらず、学校の図書館にこっそり忍び込み本を何冊か持ち出した。家で読むにはなんだか落ち着かなくて、一緒に居た“彼”に相談したかったが生憎不在で仕方なく、1人『秘密基地』に行き必死で本をめくり続けた。まだ■■から教わったことのない話かも知れない。父さん、母さんに聞けば早い気もしたけど、どうしても自力で見つけなきゃダメな気がして必死でページをめくっては目ぼしいことが無いかを探す。本は気づくと秘密基地の中をどんどん、消しそびれたテトリスのようにうずたかく積み上がってゆき、みるみるうちに居場所が無くなり、怖くて泣きそうになる。凍えそうなくらい冷え切った基地内の暖炉の火を起こす間もなく、本の山はやがて天井一杯まで壁になり、手元に影を落とし始める頃、ようやくあるページで手が止まった。
しかしそれは見たこともないような訳の分からない言語と数式で綴られていて、どうしても読めなくて、ああ、どうしよう困ったな、どうしよう、これが『答え』な気がするのに、どうしても解読できない。寒いはずの部屋でびっしょりと冷や汗が止まらず、手の震えが身体全体に広がる。
目の前の本の山がタイムオーバーだよ、とでも告げるように、無慈悲にも雪崩のように落ちてきた。

✳︎✳︎✳︎
「イテテッ……
本当に額の上に本が落ちてきたのだろう、痛みにしたたか目を眩ませながら呻き声を上げ、寝床からゆっくり起き上がる。どうやら懐かしい夢を見ていたようで、夢と同じなのは暑さで背中にびっしょりと寝汗をかいていたことだけだ。

傍の本を何の気なしにめくる。幾度となく手垢がつくほど読み込み、相変わらず寝る前にも読んでいたそれのとあるページには幼い頃作った葉脈のしおりが挟んである。あちこちにある書き込みの一角にぐるぐると鉛筆で印が付けられ、そこにはこう綴られていた。


「天体の動きは計算できても、群衆の狂気は計算できない」
アイザック・ニュートン


ぼんやりと歯を磨きながら、今朝方見た夢をゆっくり思い返す。最後の、本が勝手に増えて雪崩を起こすこと以外は割と忠実に記憶そのものだった。
あの日、俺は気になって「人の心を科学で証明する方法」はないものか、と一人で探し回った。結果、見つけられるはずもなく、そしてもっと効率的な探し方があったのかも知れないが、■■に尋ねるわけにもゆかず、”彼”にも、親にも勿論尋ねられず、屈辱ながら一旦諦めることにしたのだった。
しかし、回答は無かったとしても『別解』はあるに違いない、と信じて疑わなかったので、研究者になって久しい今日まで度々試みるも、残念ながらアイザック・ニュートンが遥か昔に言っていたことを覆すことには成功していない。

随分、本当に随分と久しぶりに■■と”彼”が夢に登場したな、と思う。
自分に純粋で素直な可愛げがまだ残っていたあの頃、俺のそばには2人のひとがいた。
■■と、それから”彼”。
子供は用もなくつるむが、俺と“彼”も例外なくそうだった。学校が引けてから。休日の、特に用事のない昼下がり。なんとなく学校の掃除や、家の手伝いをサボりたくなった日。■■はそんな俺と”彼”と一緒につるんでいた、もとい、付き合ってくれていた稀有な大人だったのだろう、と振り返る。

俺たち3人を繋ぎ合わせていたのは科学だった。俺の両親は研究者だったこともあり、身近で親しみのある、人々を助けてくれる素晴らしい叡智だと信じて疑わなかった。
でも、まだ授業で習ってないような内容の本や図鑑を、(本人も当時そこまで理解出来ているわけでもない)小脇に抱えていつも考え事をしている子供なんて、外で遊ぶことや前の日のテレビや新作のゲームが話題の中心だった同級生達にとってはちょっと「浮いたやつ」だと思われても仕方のない事だった。その上片耳がほぼ聴こえないと来たものだ。子供というのは残酷で、異質なものだらけの相手を前にして歩み寄るすべは中々持たないし、異質と思われて引け目を感じている俺は集団の輪に自ら飛び込む勇気がなかった。
だから、同じく科学に憧れる”彼”から教室である日話しかけられた時、心から嬉しかったことも覚えている。

※※※

俺たちにとって宇宙は、この世界の真理は、あらゆる謎は、全て科学が証明(Q.E.D)してくれるものだと思えてならず、あらゆる謎や夢をかき集めては、大人で、知識にも長けた■■に投げかけていた。
たとえばこんな具合に。
「なぁ〜、■■。何で音って、聴こえなきゃいけないんだろうな」
「どうして、そう思うんだい?」
手元を忙しく動かしながら、穏やかに■■は応じる。秘密基地の室内は暖炉の火が明々と燃え、ぱちぱちと柔らかく薪が弾ける音が右耳に心地良い。しかし、■■お手製の補聴器具を外した左耳にはそれがほとんど届かず、両耳がきちんと聴こえる人にはこの心地良さも倍なのだろうと推察しては、ズルいと感じてしまう。自分がズルいと感じる不合理さを、他人に真っ直ぐにぶつけるわけには行かなくて、屁理屈をこねたくなるのだった。
「だってさ不便じゃないか。声の大きさや、耳の良し悪しで聴こえたり、聴こえなかったりするより、頭の中に直接話しかけられたらいいのに」
「テレパシーみたいに?!」
“彼“が嬉々としてカットインしてきて、それに応じる。
「そう。テレパシーで会話するんだ。そしたら、例え離れていても、顔が見えなくても、声が出せなくても耳が聞こえなくても、全部頭に入ってくるだろ」
「いいなぁ!それって待ち合わせる約束とかも、こっそりできちゃうんだ」
「そう」
「お互い別々の場所に居ても、いつでも話しかけられるし、授業中話しかけてもバレないから怒られないんだ」
「そう」
「テストでわかんないとこ、なっちゃんに聞いたりとかも?」
「それじゃテストの意味、無いじゃん」
「へへっ……そうだね」
俺がすかさず突っ込むと、なぜか”彼”は照れたように笑う。いつだって”彼”はそんなふうに笑うのだった。
「ははっ……そいつぁ、妙案だ」
柔らかく笑いながら、■■は補聴器具の整備の仕上げに取り掛かる。ネジを微調整し、仕上げにエアダスターで細部の埃を吹き飛ばすと、俺の耳にそっと装着してくれた。
「そら……出来たぞ」
ん、ありがと。頷きながら、左耳にぱちぱちと蘇る暖炉の音や、談笑する■■と“彼“の声。
成長に合わせて、少しずつ合わなくなっていく補聴器具の微調整をしてもらうこの時間が、俺はお気に入りだった。
「お前達2人だけに伝わるのがテレパシーなのかな?他の人だって同じように伝わっちゃうかも、知れないぞ?テレパシーが音声の代わりのつもりなら、発信側と受信側の両方の仕組みを考えなくちゃな」
ニヤッと笑いながら、■■が別の仮説を投げかける。
荒唐無稽な空想は、仮説や前提を持ち出した瞬間、考えられうる課題へと姿形を変え始める。
「あっ……2人で話す時のことしか考えてなかった」
「何人も人が居る時に聴こえて欲しい人とそうじゃない人を分けるって、どうすれば良いんだろう……
「それに、聴かれたくないことまで勝手に聴かれちゃったら、やだな」
子供たち2人は、途端に途方に暮れ始める。知への冒険の始まりだ。
「そもそも、その伝える情報って、どんな形なんだろうね、那月。『なんで聴こえなきゃならないのか?』じゃなくて、まずは『どうして音って聴こえるんだろう?』について考えてみてご覧」
こんな調子で■■の切り返しは巧妙で、常に答えをくれる訳ではなかったが、時折くれるヒントを元に俺たちは近似値を有する何らかの定理や原則を探してきては当てはめて喜んでいた。俺たちが謎に思うことは、既に先達の科学者たちが証明してくれていることも多かった。もちろん幼さゆえに考えてみても難しく、分からないままのこともあったが、それでもよかった。■■が居ない時は、こうして貰った宿題にあれこれと思いを巡らすことが楽しかったのだ。

それから、俺にとっては■■と同じくらい、”彼”の存在も大きかった。
これを聞いちゃ、まずいんじゃないか?と躊躇うことも、”彼”の純粋な好奇心から来る質問には一切の忖度がなく、むしろ枝葉を気にして先に進めない俺よりももっともっと本質を突いたもので、それは俺の好奇心をも一緒に満たしてくれた。
俺が疑問に思うこととは違うことを”彼”は疑問に思う。でも、科学は見事に両者の疑問を一つの定理で、回答してくれる。その連続が、面白くてたまらない日々だったのだ。科学は1人っきりでやる学問じゃ、無いんだよということを2人からは教えてもらったのだった。

俺が未だに正気を保って研究者をやれているのも、いじけてスレて死なずに済んでいるのも、これらの大切な「まだ冬があった頃の思い出」のおかげだと思っている。

※※※※

小学校三年生の半ばになる頃から物々しいな、と感じることが増えだした。街の中を軍服姿の男たちがギョロギョロと目を光らせながら歩き回り、大人達が絶えず不安そうに何かを話し合い、何かを声高に主張をしている様子を街角や朝食時のニュース、父が広げる新聞の一面で感じ取っていた。父と母は時々研究の内容を教えてくれていたのに、それらすらも段々とキミツジコウだから、と暗い顔をして口を閉ざすようになってしまった。初めはニュースや新聞のことがわからなくて、父と母の研究とも何の関係も無いはずなのにキミツジコウって何?と質問を繰り返していたが、怒るでも咎めるでもなくただただ悲しそうに黙りこくる大人達を見て、次第に何も言えなくなってしまった。大人たちの中でただ一人、■■だけは一緒に考えてくれたりもしたが、やがて忽然と姿を消してしまった。誰にとっても平等で、開かれていて、まもなく学校の授業でも教えてくれるはずの科学にも、どうやら大人の事情があるらしい。科学どころかそもそも授業もあったりなかったりで、子供たちは皆翻弄された。親の関係で段々学校に来れなくなる子も増えた。“彼”もおそらくそうで、そして俺も例外にもれずそうだった。大人たちが悲しんだり怒ったりしているものだから、子供たちも皆、言葉少なだったことを覚えている。そうしているうちに四年生になる直前を迎えた頃、学校どころではなくなる生活が突然やって来た。

そこからは思い出したくない日々の連続だった。

この戦争は後に語られる科学戦争とやらで、これまでの歴史上で語られる戦争で見かけるものとは異なる種類の、最新技術を駆使した兵器が多く使われた。なるべく人が人を殺さぬようにと兵器にその役割を押し付け、AIやIPS細胞とも融合を果たしたそれは、当初こそ画期的とさえ賛辞を受けることもあったが、間もなく多くの人たちがそれは大きな過ちだったと気づく。
科学と研究者たちは、戦時中から徐々に忌み嫌われ始めていたが、戦後、残骸として転がる兵器遺産が思わぬ形で人体に有害な影響を及ぼし続けると判明してからは、すっかり嫌悪の対象となっていった。
街中あちこちに科学者排斥の看板やスローガンが立ち並ぶので、未だに出歩くにはいささか危険な時もある。特に、渦中の家名を背負う身としては。戦争と一緒に科学が死んだこの町で、研究者の俺はひっそりと息を潜めて生きている。

身支度を終えてラボに向かう道すがら、今朝懐かしい夢を見たおかげで寄り道がしたくなり、岬近くの展望台へ車を走らせた。
科学戦争の後遺症の一つである、延々と続く真夏日の気温が四季を奪ってしまったせいで、海沿いの高台にある展望台にもねっとりと湿った風が常に吹きさらす。補聴器具が不用意に音を拾いすぎてしまいゴウゴウと耳奥まで風音を届けるので、慌てて集音ボリュームを微調整する。

ここからは街が一望でき、終戦時に建てられた女神像が眼下中央に見下ろせる。そして更にその沖合に禍々しく立ち遺る、巨大な兵器遺産も。

少し海岸線沿いを東の方へ目線をやると、二つの大きな白亜の建物が立ち並ぶ様子が見てとれる。
八雲科学研究所と、隣接する軍需工場だった八雲科学技術製作所はかつての戦争における科学・生物兵器を数多に生み出し良くも悪くも脚光を浴びていた。その施設が、今は大半が改修されメモリアルホールと博物館に姿を変え、反戦を謳う施設へと鞍替えを済ませている。
八雲科学研究所は終戦後、市街部中心地から少し離れた山沿いの麓に、八雲技研という小さな研究所へと姿を変えた。この展望台のすぐ近隣だ。主に科学兵器の廃物処理や毒性の低減、再生化エネルギーとして自然共生の方策を探る研究を細々と担っていて、俺の勤務先でもある。戦後数年経過した現在でも未だに街のあちこちに残る廃棄物の適切な処理については当時誰も考えていなかったのだそうだ。そのため、八雲技研は、3年ほど前に八雲科学研究所の生み出したものの後始末をする名目のもと設立された。とはいえ、そんな設立背景も、科学が戦犯とされている今、誰も興味を持つはずもない。何をやっても、失ったものは返ってこないからだ。

この女神像は、終戦の翌年に、愚かな人類が二度と同じ過ちを犯さぬよう、平和への願いを込めて建てられた。両翼を大きく広げ天を仰ぎ両掌を合わせ、優しく穏やかに祈る姿で静かに立ち続ける街のシンボルだ。湾内は遠浅のため、時間によって女神像まで続く二百メートル程の砂浜の道が露出する。潮の満ち引きの時間によって道が生まれたり、海中に沈んだりすることから、終戦直後は怖がって誰も訪れに来なかったこの街の、観光スポットとして緩衝材的な役割を果たすようになり徐々に親しまれていった。
さあ、争いは終わりましたよ。平和が訪れました。もう大丈夫なのです、平穏無事に暮らせるのですとメッセージを発する女神像を見ると、ちっともそんなことを思えず、むしろ生き延びた申し訳なさと、自分が誰かに何かをしたわけじゃないのに押し潰されそうになる罪悪感と苦しさで心の中が掻きむしられたようにヒリヒリとなる。俺の中で、街中に転がり続ける兵器遺産のある風景が当たり前になることも、軍需工場がメモリアルホールになったことも、それらに自分の苗字のロゴが入っていることも、夏しか季節がないことも、女神像が観光スポットになってゆくことも、到底知っていた日常からはほど遠く、何もかもが違和感のままでしかないからだ。しかしこの違和感すらも気を抜くと、何の断りもなく日常に溶け込んでいく気がして時折ゾッとする。

全てに「慣れ」て、それが「日常」にならないと、生きていくには重すぎるし辛すぎるとは思うものの。

戦争は俺の中で未だ終わっていないし、多分終わる日も来ないのだろう。あそこであの像を掃除し続けている”彼”に、子供である俺たちに科学を通じて真っ直ぐ向き合ってくれた■■に、科学が戦犯になってしまったこの世界は一体どんな風に見えているのだろう。

日常になりゆく違和感たちを再確認するために、帰ってこない過去に想いを馳せるために、俺は時々ここに来て女神像とその向こうの巨大兵器の遺物を直に眼に焼き付ける。

郷愁に浸りつつ、職場に着くと自分宛のメールボックスを開く。週末を挟んだためばさばさと零れ落ちる幾つかの郵便物に紛れる、見慣れぬハガキ。誰かの訃報は、戦争の後遺症事案でいささか見慣れていて、これまた苦しくなる。しかしその名前を見て、一瞬で鳥肌が立つ。

■■が永眠……えいみん?永眠って何、どういうこと?葬儀は明日?淡々と記される事実は、受け入れ難いものだった。

■■が、よりによって■■が………死んでしまった………
信じたくない、信じられない、信じられるはずもない。えっ、な、なぜ??

キィーンと耳鳴りがし始め、体温がものすごい勢いで下がり目眩に襲われる。
かろうじて両足で立っていられるよう踏ん張りながら、どくどくと脈打つ心臓を落ち着けようとするが、うまく息が吸えない。どうして?どうしてだ?

世界の中を明るく照らす定理が一つ、突然に奪われて消されたかのような喪失感に襲われる。
科学の正しさ、面白さを教えてくれた■■が、どうして?どうして死ななければならない?嘘だと……嘘だと言ってくれ。

戦争の前、あの基地で聴こえていた、暖かな暖炉の薪がぱちぱちとはぜる音が、永遠に聴こえなくなり、二度と思い出せなくなる感覚。

あの戦争を生き延びたじゃないか。あの懐かしい日々は帰ってこないけど、あの時接点だった俺たちの愛する「科学」は殺されてしまったけれど。
科学の話を嬉々としてすることは無くなってしまった今も、この左耳を支え続けている補聴器具の存在が、それでもなんとか、かろうじて俺に科学を信じる気持ちをくれていた。
心の中に居る小さな子供の姿をした俺が、何があってももう泣かないと絶対に心に決めていた俺が、大粒の涙を溢れさせわんわんと大声を出して泣いている。それを、ぼうっと眺める大人の俺は、間の抜けたようにただただ呆然とすることしかできない。いつだって子供のほうが、素直に状況を受け入れるものだ。俺は何も整理がつかないまま、震える手でそそくさと訃報の葉書を鞄に仕舞い込み、実験器具をいつものように取り出して器具の設置をしていたが、同僚に指摘されて始めて涙を流していることに気づいた。

寄る辺ない心の震えが止まらぬ中、出勤前に眺めてきた女神像の顔がよぎる。そのふもとで、せっせと汗を流しデッキブラシで清掃をしているのであろう、1人の青年を思い浮かべる。
“彼”だ。彼、そう 夏屋敷 呉。
呉なら、嘘だと言ってくれるはずだ。
秘密基地で一緒に聴いていた暖炉の音や、心地よく談笑する■■の声。呉は、呉ならば、一緒に俺と観測して、記憶という名の記録に残してくれているはずだ。科学を信じて敬い、憧れる気持ちを誰よりも強く持っていた彼ならば。

彼に、会わなければ。


〈プロローグ アイザック・ニュートンの功罪/了〉





【備忘メモ/修正確認】
・■■の口調など 穏やか優しいイメージでふんわり書いてしまった
・八雲が読んでいた本は「プリンキピア」(アイザック・ニュートン著)。どうでもええ。
・■■との出会いは書いていたけど今回一旦文字数の関係で削除しますた(笑)一応、公園でガキ大将に因縁つけられてボコボコにされかける八雲を夏屋敷くんと■■が助けるところから一緒につるむようになった感じ。イメージとして八雲と夏屋敷くんは学校で親しくなり、夏屋敷くんと■■がわずかに先に知り合っていた感じを想定していたものの、別建てで考えているエピソードがあったらそちらを採用させてもろて全然かまわないでござる‥
・戦時中から戦後にかけ、八雲と彼らは接点が一旦途絶えてしまったけれど、八雲は物理的に軍に隔離されていた期間があると想定しとるです(親が逃げ出さないため)(要は人質)。
・直接会うことは叶わなくても(軍に妨害されながら)何らかの方法で中盤か終局は細々と連絡は取っていた模様。
・最新の科学兵器/AIやIPS細胞とも融合を果たしたそれは、とあるけど、今のところの仮案で兵器の種類特性を今後語る必要があるかどうかによると思うし変えることは全然可。
・夏屋敷くんは■■に戦後目を治してもらっているけど、八雲も戦後終局では解放されていて、たまに■■に補聴器具を調整してもらっていたと思っております。ただし、3人揃うことがあったのかどうなのか
→私の今の印象では、八雲の心境的に二人には会いたかったものの、会わせる顔が無かったのではないかと思っとるます。(変わるかも知れません・笑)
・戦争の勝敗について/八雲家が殺されずに生きてるってことは敗戦ではないのかも知れんね……(両親ともに健在)。ただ、一般人にとって戦争の勝ち負けって難しいなぁと色々考えて思った也講和条約が成立するまで互いの我慢比べ・ジリ貧になりながら戦うわけで。いい条件を得たからといって相手より受けた被害は大きい、なんてことはザラにありそう。

To be continued