おひつじ
2018-10-25 05:27:51
2409文字
Public 【創作】うちよそ
 

52Hzの詩

海パロ山マオ
ある人魚と、ある海賊の不思議なお話。

人魚は陸にいる間は喋れない。
人間は海にいる間は喋れない。


ねえ、初めて会った時のこと、覚えてる?

(覚えてる。あの日のことは、忘れない。)

僕は初めてキミを見た時、とってもワクワクしたんだよ。また会いたいなって思ったんだよね。

(海賊達に捕らえられた君を、なぜだか助けなきゃいけない気がした。誰かのものになっちゃいけない、大きな海そのもののような、畏怖に近い存在だと本能的に思ったからさ。
だからこっそり逃して、それがバレて船から飛び降りた時、君が助けてくれたんだよね。)

そう。だから、キミを探しに陸まで行った。
見つけたキミは、変わらずとっても奔放だったから、僕が歩くことすらままならないのも気にせずに、僕の手を引っ張って 陸の世界を、たくさん、教えてくれたね。

(次に会った時は尾びれを隠して、人間と同じように歩いていたもんだから、街どころか、人間の世界すら初めてだったなんて、あの時は知らなくて。ただ単に、言葉が喋れない、どこか遠い異国から来た好奇心旺盛な流れ者だと思っていたから。)

キミが教えてくれたもの、
それは、紅い血潮のようなワイン、
陽だまりの色のような娘たちの笑い声、
まばゆい黄金色の金貨、
飛び交う銃声を潜り抜けて船を漕ぎだすまでの白く尖った、それでいて愉快な緊張感、
満天の星空から静かに青く燃える北極星を探す方法、
そしてキミと僕しかいない入り江で見た、群青と茜が混ざる空の下で、キミを眩しく愛おしく照らす、あの朝焼け。

(初めて飲んだワインにびっくりした顔、酒場の娘たちに話しかけられてはにかんだような表情、金貨を見つけては報告してくれた誇らしげな澄まし顔、幾多のギリギリをくぐり抜ける死線すらどこか楽しそうで。
満点の星空の中から北極星を探していたあの夜は、海上を見渡す限り俺らしかいなくて、寂しいはずなのにちっとも寒くなかった。
秘密の入り江に浮かべた小舟で、時間も気にせず明け方まで愛し合い、気づけば君の横顔を優しく濡らした燃えるような緋色。)

軋む船音と静かな波音に耳を澄ましながら、キミが僕を揺らしたあの夜、キミは少し泣いていたね、

それを見て、僕も少し泣いちゃったな。

(君が居なかった世界をどうやって生きて来たのか、思い出せなくなったからさ。そして、君が居なくなった世界を、想像することもできなくなったからさ、)

飽きるくらい笑って、
飽きるくらい喧嘩して、
飽きるくらいハラハラドキドキして、
もう良いやってくらい愛し合っても、
新しい朝が来ると、生まれ変わったような気分で僕はキミを見る。

(いろんな君の表情を見ても、同じに見える事は1つとしてなかった。それは少しずつ俺が君の表情から読み取れる気持ちが増えていったから。そして俺が伝える事を君が一生懸命、理解し考えて受け止めて、君なりの表現をしようとしてくれたから。
言葉はそこにない、だけど、言葉以上に伝わる強い想いがあったから。心も身体も重ねて愛し合うことが言葉を交わすことに近く、そしてそれが、完全ではないにしろ、互いを理解する手段の1つだった。)


それから、途方も無い時間が流れたね。

(そうだね)


ある時、君は波間を走るトビウオを器用に捕らえる白いカモメだった。
ある時、君は海底に堂々と佇む、朱色の珊瑚だった。
ある時、君は大きな大きなシロナガスクジラだった。
僕は嬉しくて、隣をよく泳いだよ。

どれもすぐ、君だってわかったよ。
その度に、宝物を見つけた気分になった。

ねぇ、覚えてる?

その間、僕はずっと人魚だった。

(俺の記憶は途中で途切れているけれど、おそらくその間は違う姿で君のそばに居たんだろう。だから、寂しい想いをさせて居なかったのだと、知って心底ホッとした。
でもどうしてだろう。確かに、一度も行ったことのないはずの景色、触れたもののないはずのものの感触を思い出すことがある。
どれも、さっき見て来たばかりのもののように、ひとつひとつが丁寧に暖かく、心の宝箱に詰まっている。それらの理由が長らくわからなかったけれど、ようやく合点がいった気がする。)

だからまさかあの時、また海に落ちてきたキミを助けるとは思いもよらなかったんだ。

(幼い頃、夢で見た人魚にずっとずっと会いたくて、ダイビングがしたくなって。船から落ちた時、助けに来てくれた君を見て、また夢を見ているのかと思った。)


今度は、キミが探しに来てくれたんだね。
(そうさ。君に会いたくて、ここまで来たんだよ、)


ダイバーの背負う水中ボンベの呼吸音が、シュー、コォー、と規則正しく、海底に響き渡る。
漂う人魚の尾びれが、小さな泡と共に、静かに揺れる。

人魚は陸にいる間は喋れない。
人間は海にいる間は喋れない。

だけど、彼らは誰にも見つからない静かな離島の海底で、抱えきれないほどの想い出話を心に描きながら、静かに見つめあい、微笑んでいる。

そこに、言葉は要らない。
静かに心と心で会話をするだけだ。

(52ヘルツのうた/了)




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これ、ダイバーと人魚が喋ってる(?)イメージでした。(わかりにくいね)
元ネタは、りにさんの描いてくださった山マオの海パロアイコン、あと、海パロは寿命の違いから転生ネタを考えていたら同じようなことを考えておられたので、その辺りも交えて生かさせてもらいました!うっ 切な楽しかったです;;;

すっごい蛇足:
52というクジラがいて、発見されてから25年以上、ほかのクジラ達には聞こえない52Hzの周波数で孤独に歌い続けているらしい。52の姿を見たものはおらず、機械でその歌だけが受信され続けているという、幻のクジラ。誰かに宛てて、四半世紀以上、ずっとメッセージを送り続けているのだろう。