さかな
1674文字
Public フロ監
 

夏とあかいろ(プライマル。)

夏が似合わないウツボと、夏の夜が似合うウツボ
曲パロSS

pixiv投稿 2025年2月17日

プライマル。


 なんとか地獄の卒論も無事納め終わり、残るは卒業を待つばかりだったある日の深夜。連絡もなく「卒業おっめでとー!」とドアを蹴破りながらやって来たフロイド先輩はまるで空白なんて知らないと言わんばかりの勢いで。ほぼ1年ぶりのウツボの再来にオンボロ寮は大騒ぎとなった。
 すわ襲撃かと飛び起きて眠そうな顔で駆けつけてくれたグリムやゴーストたちを宥め、荷物が重い脚がダルい喉が渇いたと纏わりつくウツボを談話室に押し込め、なんとか一息ついたのは日付も変わった頃だった。

「小エビちゃんに似合うと思ったんだよねぇ。フィッシュテールだから靴もよく見えるし」

 どうやら抱えていた大小の箱の数々はすべて私宛ての卒業祝いらしい。先輩は次々と箱を開けてコレがあーでソレがどーで、とよくわからないお洒落語を用いて説明してくれる。ドレスと靴、アクセサリー、果ては化粧品の類いまで。

……キレーな色ですねぇ」

 ほぅ、とため息をこぼしながら部屋中に広げられたプレゼントを眺める。
 夜空とオーロラをそのまま織りこんだようなショールとドレスに、偏光ラメの真っ赤なヒール。それとお揃いの色をした赤い口紅。自分に似合う気はしないが、先輩の目利きならきっとなんとかなるのであろう。信頼のフロイドセレクトである。

「笹紅色って言うんでしょ?」
「え」

 懐かしい響きに思わず先輩の顔を見る。

「小エビちゃん昔言ってたじゃん。憧れの色だ〜って」

 先輩はドレスをなぞりながら過去を歌う。

「やべぇ色したアイシャドウ買ってはオレの顔でお絵描きしてさァ」

 忘れちゃった? と揶揄うように覗き込んでくる先輩の顔が、まるで知らない人みたいで。口を突いて出たのは「顔貸してください」なんてかわいくない言葉だった。


 すぅっと筆を滑らせた先から鮮やかに輝く赤色は、薄い唇に良く似合っていた。
 フロイド先輩は最初「折角のプレゼントなのに、まず使うのがそれ持って来た男でいいわけ?」と拗ねていたが、塗ってる間になんだかんだ楽しくなってきたらみたいで、今はもう柔らかく微笑んでいた。
 先輩は頬のやわらかさも無くなりすっかり大人の男の人になったのに、とろりとした眼差しだけがあの頃を思い出させる。それが妙にチグハグで、なんだか本当によく似た知らない人みたいだ。
 ショールも掛けてやりながら「花嫁さんみたい」「それ、こんないい男捕まえてやるコトぉ?」なんて巫山戯、美しく笑う人魚を眺める。それが本当に綺麗で、たぶん私は先輩の結婚を祝えないんだろうなぁと突然思い知ってしまった。

「ねぇ! やっぱムリあるってぇ!」

 ショールを被り笑う先輩と一緒に、眦を滲ませながら私もきゃらきゃら笑った。


 この堅気とは思えない色男を、恋人だの家庭だの一般的なラベルに押し込められたら良かったのに。でもそんなこと起きたらあまりの似合わなさに絶望してしまうかもしれない。
 お互い大事なものがそれぞれあって、これだけ近くてもただの後輩でしかなくて、卒業しちゃえば縁も切れるんだろうなと思ってた。いっぱい遊んで巫山戯て一緒に過ごした日々も、もう全部終わりだと思ってたのに。
 化粧落としシートで雑に顔を拭う先輩をジッと見つめる。本当に、嫌になる。

「ねぇせんぱい」
「んー?」
「たぶん私、先輩のこと好きでした」
「んふふ……うそつき」

 もう降参するような気持ちでそっと差し出した告白はほんの一瞬の驚きの表情ののち笑われて、あまつさえ嘘と断じられた。そんなぁ、と情けない声と顔をする私を先輩は更にクスクスと笑う。

「小エビちゃん」
……なんですか」

 先輩は私のほんのちょっと棘のある返事を気にもせず、とろりとした表情でこちらに手を伸ばす。

「小エビちゃんはァ……『好きでした』じゃなくて、今もオレのこと好きなんだよ」
「ほぁ」
「知らなかったのぉ?」

 自分のことなのにバカな小エビ!と私の頬を伸ばしながら笑う顔は、あの頃の先輩とおんなじだった。