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さかな
8069文字
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ジェイ監
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やっぱり僕のこと好きですよね?
学園長の魔法で性別誤魔化してた監督生と、思い込みの力が強いジェイド
pixiv投稿 2025年2月14日
ある日の美食研究会の活動中。いつもの如くオンボロ寮の裏山にてグリムと探索をしていたら、薔薇を見つけた。
イバラばっかり立派で花は小さくささやかで、けれど清々しい香りがするそれは美しかった。濃い緑の中ぽつりぽつりと咲く赤色に目を奪われる。
ジッと動かなくなった監督生にグリムも気が付いたのか、肩に駆け上がると一緒になって花を覗き込む。
「バラぁ? ハーツラビュルんとこのよりショボいんだゾ」
「でも、いい香りだよ」
「ふーん
……
」
監督生に言われてちょっと嗅いでみるも、早々にそっぽを向かれてしまった。基本的に派手好みな親分には刺さらなかったようだ。
再び山の恵み探しに行ってしまったグリムを見送り、ひとり薔薇と残る。
「そんな気に入ったなら摘んでくか?」
スマホでどうにか綺麗に撮れないかと奮闘していると、グリムが採集した山の恵みを抱え戻ってきた。思っていたより時間が経っていたらしい。
「あんま匂いも強くねーし、それなら部屋に飾ってもいいんだゾ」
「えっ、ほんと?」
香りものへの判定が厳しいのに珍しい。やった! と茎へ手を伸ばしかけるが、ふと。
もし魔法植物だったらどうしよう。
「グリム、図鑑ちょっと貸してくれる?」
「おう」
しかし手持ちの野草図鑑には載っていなかった。まぁそもそもが美食研究会のためなので、記載があっても毒の有無程度のハンディ野草図鑑なのだ。
スマホでも調べるが、今度は情報がありすぎて絞れない。
「
……
先生に聞こう」
よく躾けられた仔犬はちゃんと待てができるのだ。
翌日。スマホに収めた花の写真たちを担任に見せたところ、ただの野薔薇であり摘んでも問題はナシとお墨付きをいただけた。数撃ちゃなんとやらでしょ、と撮りまくった甲斐があったというものだ。これで憂なく寮に飾れる!
楽しみに待った放課後。グリムはマジフト部へ遊びに行ってしまったので、寮に荷物を置き監督生ひとり裏山へ向かう。おやつはゴーストに託けたので、これで帰ってきた腹ペコ親分が暴れることもないはずだ。
昨日歩いたばかりの道すがら、ふと思い出した歌を口遊む。
「るーすらいん あぅふでる はーいでん♪」
耳で覚えただけなので合ってるのかすらわからない異国の歌。日本語版も知ってはいるが、呪文染みた原語版が好きだった。
人気のない裏山ということもあり、誰を気にするわけでもなく自由に歌う。普段は周りに合わせて低めに話しているが、本当はもう少し高めなのだ。
「るーすらいん るーすらいん るーすらいんろーと♪」
歩くごとに徐々に声量も増していく。
それはお目当ての薔薇まで辿り着くまでの暇つぶしであり、鬱蒼とした木々で薄暗い道をひとり進む心細さを誤魔化すものでもあった。
「おや?」
この学園には似つかわしくない可愛らしい歌は鬱蒼とした木々を縫い響き、自然を満喫しスケッチをする人魚の元にもそれは届いた。
耳馴染みのない歌声は随分と拙くふやふやとした発音だが、輝石の国のものによく似ている。
「
……
子どものゴーストでしょうか」
ここは500年物のお姫様が湧くような土地である。それが遠く離れた国であろうと、どんなゴーストが居てもおかしくはなかった。
じわりじわりと声は近付いている。
どんな事態になっても良いようにパッと荷物を纏め、茂みに身を隠しながら声の主を待つ。オルカが出るか蛸が出るか、期待からマジカルペンを握る手に力が入る。
果たして茂みの向こう、姿を見せたのはオンボロ寮の監督生であった。
暢気にほてほてと歩いている。
かの人は背も低く発育が悪いのか声変わりが遅い個体である。とはいえ、ここまで声が高いのはおかしい。どういうことだと眼をすがめれば、次第に監督生の姿は揺らぎ、瞬きの間に像を結んだのはまごう事なき少女であった。
「これはこれは
……
」
甘くふやけた声。ふくふくのほっぺ。まんるい目を飾る睫毛。小さな手とそれに似合いの桜貝。
ここが男子校という思い込みが剥がれてしまえば、パサついた髪とぶかついたブレザーのラッピングで誤魔化されているだけの少女だ。
オルカなんてとんでもない、想定外もいいとこの小エビ。それもとびきり美味しそうな秘密を抱えた!
彼女は隠れ潜むウツボに微塵も気が付かず、歩みは衰えず歌は続く。
「ルースライン
……
Röslein
薔薇
、でしょうか」
少し考えて、あの索敵能力の低さには魔法も必要なさそうなので思う存分メモを取る。マジカルペンもこうなればただの万年筆である。
歌われるのは童謡の類いらしく同じ旋律の繰り返しで歌詞も凝ったものではない。随分と拙い発音なので合っているかわからない箇所もあるが、ほとんどの歌詞を書き留めることができた。輝石の国の言語にはあまり明るくないが、図書館で辞書を借りればなんとかなるであろう。
迂闊な少女のおかげでしばらくは退屈しなさそうだ。少しずつ遠ざかる歌声を背に、今後の楽しみを胸に足取りも軽くその場を後にした。
オンボロ寮の彼が“彼女”であると知った日から、ジェイドは少しずつ距離を詰めていた。
選択授業での位置取り。ペアワークの頻度。モストロラウンジの営業を交えた軽口。ちょっとしたからかい。山を愛する会への勧誘。
単純接触効果とは馬鹿にできないもので、すれ違っても目礼が精々だったのがいまでは顔を合わせれば談笑するし、タイミングが合えば昼食を共にするまでになっていた。
今日も食堂で顔を合わせた流れで同じテーブルを囲み、食後の紅茶を楽しんでいた。
からかえば抗議こそしてはくるが、海底で追いかけ回していた時が嘘のように監督生の目には好意が滲んでいる。
「そういえばジェイド先輩、今日ゲストルームきます?」
「えぇ。その予定です」
「じゃあこれ」
ちゃり、と机に置かれたのは黒猫のチャームを付けた古めかしい鍵だった。
「今日は放課後ちょっとお手伝いがあるので、これで入っててください」
「それは
……
いいのですか?」
つまり縄張りの防衛をジェイドに委ねるも同然で。監督生が雌だと知っている人魚にはとってはかなり尾鰭が浮つく提案であった。
「はい。結構時間かかりそうなんで
……
なによりジェイド先輩ですから」
ふにゃりとした顔で言われたそれは、あまりにも甘美であった。
“ジェイド先輩ですから”の響きを口内で何度も転がす。僕だから。ジェイド・リーチだから。
「あっこにそんな面白いもんないと知ってるでしょうし、やりたいことの邪魔ならドアくらい破壊しそうですし
……
聞いてます? 壊しちゃダメですよ?」
「えぇ、そうですね。わかっています」
反応が鈍いジェイドへ怪訝そうに寄った眉間のシワも、ただの照れ隠しにしか見えない。随分と仲良くなったとは感じていた。しかし、まさか、これほどとは!
余韻も抜けきらず、言いましたからねと念を押しながら食堂を後にする監督生へぼんやり手を振りつつ見送る。
「あぁどうしましょう
……
」
まさか、求愛されてしまうなんて
……
。
やれやれと言わんばかりに熱っぽく息を吐く。ツッコミもせず隣でいい子にしていたフロイドの「ジェイド全然信頼されてねーじゃん」なんて笑い混じりの声は全く耳に入らなかった。
その日は結局、ジェイドがオンボロ寮に着いてから2時間も経った頃にやっと家主は帰ってきた。
「おかえりなさい。お疲れ様でした」
「ただいま帰りました。鍵、ちゃんと使ってもらえたみたいで良かったです」
はじめはソワソワと今は無いはずの背鰭をわななかせ待っていたが、2時間もすればいつも通りであった。ここ最近は幾度も足を運び、もはや慣れ親しんだオンボロ寮である。ゴーストに断りキッチンで紅茶を淹れ、ゲストルームの本棚から読みかけの本を拝借し、静かな談話室で悠々と寛いでいた。
「
……
おや?」
こんな時間まで頑張った労わりの紅茶を淹れてやろうと席を立った瞬間、鼻につくものがあった。
「あ、そうだこれ」
監督生の手には赤い薔薇が3本。香りも花の大きさも立派なものだ。
「さっき手伝った御礼にってもらったんです。ジェイド先輩、いりません?」
貰った。それも赤を3本。監督生の態度から意味を知っているとは思えないが、自分を好いているはずの雌に思わずギュルリと喉が不満気に鳴る。
「薔薇、お好きじゃありませんでした?」
人気のない場所で歌うくらいには。
「えぇっと
……
あんまり大輪の薔薇! って感じのは
……
。すごいな〜綺麗だな〜とは思いますけど」
「
……
ふ、」
贈られた薔薇を手に、あんまりな返しだった。
「好みじゃない?」
「
……
グリムも香りの強いものは苦手なんです。だから」
良ければどうぞ、と横流しされた花を受け取る。これを贈った雄を思えば憐れなだった。美しく咲いたものを選び、棘を処理して、わざわざ紙で包みリボンまで結んである。監督生の性別を知らなかったとしても、これを用意した者はきっと言えない想いを薔薇乗せたのだろう。慎ましいくせに主張の激しいことだ。
「お疲れでしょう? 紅茶をお淹れしますね」
「やった! ありがとうございます」
監督生は後ろめたそうに目線を下げていたが、ジェイドの申し出に顔を上げ頬を染める。喜びもそのまま薔薇をこちらへ押し付けると、荷物置いてきます! とぱたぱた自室へ走って行く。階段を駆け上がる音と、ゴーストの「走ると転ぶよ〜」と間延びした注意が聞こえた。
年季の入ったコンロへヤカンを火にかけ、高さの合わない作業台にポットとカップを並べる。
ハーツラビュル寮の薔薇と戯れてきたのなら嗅覚も疲れただろうし、控えめで爽やかな香りのものが良いだろう。いくつか置かせてもらっている紅茶缶から目当てのものを選ぶ。
「先輩、おやつももらってきたから一緒に食べましょ」
ひょこりとお菓子を片手に戻ってきた監督生は、すっかりリラックスモードに入ったのか部屋着に着替えていた。
「いいですね。トレイさんのですか?」
「クローバー印のチョコブラウニーですよぉ」
うきうきとした声はいつもより少し高い。好物とあって喜びが滲んでいるのか、それともジェイド相手で気が抜けているのか。
オンボロ寮のキッチンは少々小ぶりである。当初は手狭で使い難いと思っていたが、これはこれで気に入っている。一歩動けば大抵のものには手が届くのだ。
「ぇうッ!? な、なんれふか」
「いえ
……
緩んでいるなと思いまして」
先程と打って変わって随分嬉しそうだな、とつい魔が刺して頬を摘まんでしまった。
なぜ、これに大輪の薔薇なぞ贈ったのだろう。
お菓子に喜びちまちまとお茶の準備をする小動物じみた少女には、もっと似合うものがあるだろうに。赤色は好んでいるようだから良いとして、薔薇だとしてももっと
……
例えば、控えめで愛らしい野薔薇とか。
「せんぱい?」
いきなり頬を摘まんできたと思ったら、今度は黙りこくって黙々と紅茶を淹れるジェイドに監督生は疑問の声をかけてきた。
チョコの気分じゃなかったですか? なんて的外れな心配をしてくれる。
「あぁいえ、大丈夫ですよ。ただ
……
」
「ただ?」
今更気がついた自分の感情に少々昂揚しているだけで。
「僕も貴方に花を贈っても良いですか?」
ジェイド先輩が壊れた。
なにがなんだかわからない間に狭いキッチンの壁際に追い詰められた監督生は震えていた。
イソギンチャク事件からしばらく、遠目に観察されていたのがジワジワと距離が縮み、裏山という共通の話題もあって随分と良くしてもらってきていた。オンボロ寮に遊びにくるのももう珍しくなく、おやつ時の紅茶が習慣のひとつになる程度には監督生も絆されていた。
「なんで
……
」
「何故、とは?」
もうなにもかも全部である。
今日はハーツラビュルで薔薇の手入れを手伝い、あんまり仲良くない先輩に呼び止められ薔薇を押し付けられ、ようやっと帰寮しておいしいお茶とおやつにありつけると思ったのに。
「こ、紅茶! そろそろ良いんじゃないでしょうか!?」
「ハーブティーですので、もうしばらく蒸らしたほうが美味しいですよ」
ねぇ監督生さん。
壁に同化する勢いでへばりついていた腰を掴まれ、ぐっと抱き寄せられた。
「だって刺される覚悟があれば摘んでも良いと貴方が」
「言ってないです
……
」
「いいえ。実は僕、聞いてしまったんです」
なにを思い出したのか、先程まで座った目をしていたウツボがうっとりとした顔になる。
「かわいらしい歌声でしたね」
大きな手がするりと回り細い首を確かめるようになぞられ、急所を握られた恐怖と、もしかしたらの恐怖で息が詰まる。許されたい。なにをかは皆目わかりたくもないが許されたい。
ピピピピピ
「おや」
泣く寸前まで追い詰められたところへ、タイマーが鳴り響いた。紅茶に気を取られてジェイドの圧が弱まった隙にビャッと脱出し、おやつの乗ったトレーを引っ掴む。
「先にこれ運んできます!!」
何か言われてしまう前に急いでキッチンを出、転げそうになりながら談話室に駆けていく。
背中を追いかけるような恐ろしい笑い声が廊下に響いていた。
「お待たせしました」
「いっ、いえ」
自室に立て篭もるべきか、逃げたら更に酷いことになるのか、悩んで談話室を落ち着きなく歩き回っている間に、ついにジェイドがやってきてしまった。
小エビらしくビビり震える監督生をくすくすと笑いながら、ハーブティーをサーブしてくれる。
「そんなに怯えないで。なにもとって食おうなんてしませんよ」
「
……
さっきのは?」
「ちょっと興奮してしまって
……
お恥ずかしい」
「おやぶーん!!ゴーストさぁん!」
「ふふふ」
照れてる素振りで口に手を添え微笑むが、その隙間から覗くのは捕食者たる鋭い歯である。助けを求めてしまうのも仕方がないだろう。
呼ばれたゴーストさんたちは「春だねぇ」なんて微笑まし気にするのみでまったく助けてくれないし、親分に至っては今頃ハーツラビュル寮でおいしいお菓子に舌鼓を打っている頃だろう。ずるい。
「ほら、冷める前にどうぞ。リラックスできますよ」
弛緩剤とか入ってたら絶交しよ
……
と思いながら、ジェイドから離れたところに座りティーカップを持ち上げる。
恐る恐る飲めば、鼻に抜ける爽やかな香りと、はちみつの優しい甘さ。
「
……
おいし」
「良かった」
それを見守っていたジェイドはキッチンでの乱心が嘘のように静かに微笑んでいた。突然、貴方に似合う花を贈りたいだの貴方の気持ちは知っていますだの、熱っぽく甘く囁きながら躙り寄るのは乱心としか言いようがなかった。
監督生は別にジェイドに恋をしているわけではない。日頃から男子生徒と偽っているのもあり、乙女心とも距離を置いていた。それなのに。
ちょっと顔の良い先輩に迫られただけなのに。
「ご機嫌、なおしてくれました?」
「まぁ
……
はい」
ハーブティーのおかげで、トキメキなのか恐怖かのか大混乱した心臓も落ち着いてきた。
「では話の続きなのですが」
「えっ」
なかったことになったわけじゃなかったのか。
顔が引き攣ったのに目敏く気がついたジェイドがにこりと圧をかけてくる。許してはくれないらしい。
「以前裏山で歌ってらしたでしょう? 小さな野薔薇を手折る歌」
「
……
あれ聞いてたんですか!?」
言われて記憶を辿り、思い出すと同時に驚きで大声を出してしまった。確かに、誰もいないからとそこそこの声量で歌っていた記憶がある。
「でもあれ、ドイツ語なのになんで」
「厳密には違うのでしょうが、輝石の国で使われるものに貴方の歌った言葉とよく似た言語があるんです」
少々調べて翻訳させていただきました。と差し出されたのは小さなメモ帳で、開いて渡されたそこには確かにあの歌詞が記されていた。
「しかし、かわいらしい声で歌われる童謡があんな卑猥な歌詞だなんて
……
」
「えっ」
もはや驚きの声しかあげられない。
かわいらしい声? 卑猥な歌詞!?
「刺される覚悟があれば、摘んでも許されるのでしょう?」
「し、知らない
……
」
ぬるりと音もなく横にきたウツボに、再び腰を取られる。これではキッチンの一幕の再現だ。
「アッ、そもそも僕は男です!花じゃない!」
逃げ道を閃いた! と藁にも縋る気持ちで叫べば、ジェイドはうっそりと笑う。
「まだ誤魔化すんですか?」
先程と同じように、大きな手で首をなぞられる。
「喉仏もないのに
……
勇ましいことですね」
ひぐ、と引き攣る喉を確かめるように、なだらかなそれを堪能するようになぞられている。
部屋着は普段ネクタイに守られているそこを曝け出し、全くもって防御に向かない格好であった。心許なすぎて涙が出てくる。
「貴方も僕が好きでしょう。なにをそんなに怖がるんですか?」
「好きじゃないです
……
」
「は?」
「好きじゃないですぅ
……
!」
いやまぁ確かにかなりぐらぐらきてはいる。それでも別に、監督生はジェイドへ恋をしているわけではなかった。ただ仲良しの先輩である。
「
……
?」
「いや、わかんないですね
……
みたいな顔しないで!一旦退いてください!」
押せ押せ色気攻撃が止まったのをいいことにべちべちと肩を叩く。渋々、ほんとうに不服そうなむっすり顔ではあったがなんとかジェイドには引いてもらえた。
「あのですね」
「はい」
そもそも、こんなことに陥ってるのは何故か。性別がバレたのはもう仕方がないとして、ジェイドが「監督生は自分が好き」と信じているのは何故か。
「全部、学園長のせいです!」
「
……
つまり?」
監督生にかかっている魔法のせいである。
「なるほど」
「ご理解いただけました?」
一旦落ち着き、ティーブレイクを挟みお菓子を齧りながら監督生が説明することによると、彼女には『違和感を誤魔化し思い込みで補強する魔法』がかかっているらしい。
ここは男子校だから、背が小さくてもちもちで声がちょっと高くても男のはず。こんな魔窟に女の子がいるわけないから、いくらそれっぽくても監督生は男子生徒と判断される。
どこぞの蛸を思わせる口振りに苛つきもしたが、概ね納得はできた。
「それで、なにがいけないんです?」
「えっ?」
「確かに僕は貴方が女性と知り、興味本位で近付きました。ですがそこから仲良くなったのは本心ですし、貴方が僕へ一定の好意を抱いているのも事実のはずです」
「えっ、あれっ?」
お分かりいただけました? と今度はジェイドが微笑む。不意をつかれた哀れな野薔薇の抵抗は、まったくかわいいものであった。
「ユウさん」
「ひぇ」
だが、名前を呼んだだけで飛び上がる小エビは少々哀れがすぎる。
「あの歌を歌ってくださるなら今日はお暇いたしましょう」
かわいらしい声を対価に、しばらく覚悟をさせる時間をやっても良い。
もうおしまいだ
……
と項垂れていた監督生がそれを聞いてようやっと顔を上げ目を合わせてくれた。
「次は、貴方に似合いの花を持ってきますね」
かわいらしい、とびきりのトゲを持った野薔薇がいい。今はキャパオーバーでなんの反撃もしてこないが、追い詰められた彼女が何をしでかすかはもう知っている。
「
……
お手柔らかにお願いします」
へらり、と笑うその頬は、煌々と色付いていた。
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