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みずあめ
2025-03-20 22:14:50
2310文字
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brmy
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ゆづあい
珍しく寝惚けたままリビングにやってきた由鶴は、ソファーに座る俺の隣にぽすんと腰掛け、それからどこか恨めしそうな声で「あいさん
……
」と言った。瞼はまだ開ききっておらず、寝癖のついた髪があちこちに跳ね回っていた。
「どうした? まだ寝ていても大丈夫だよ」
「んん
……
やだ
……
」
由鶴はいやいやと首を振って、俺の体をぎゅっと抱きしめる。ベッドから出てすぐに来たのかその体はまだ温かった。冷えて風邪を引いてしまわないように、あと、俺がただ由鶴に触れたくて、背中に腕を回して由鶴のことを抱きしめた。
「おなかすいた
……
」
「
……
」
今にも泣き出しそうなその声に、吹き出しそうになったのをギリギリのところで堪えた。きゅるきゅるという空腹を訴えるお腹の音が鳴ると由鶴はうう〜と呻き声をあげる。我慢できずに声を上げないよう気をつけて笑っていたけれど、体の揺れで気がついたらしい由鶴が顔を上げて不機嫌さを誤魔化しもせずに俺を睨み上げた。
「逢さん」
「悪かった、笑ってない」
「
……
笑ってる」
「訂正する。笑ったけれど、馬鹿にしているわけじゃない。可愛くて笑ってしまうんだ」
「
……
ゆるさないです」
「どうしたら許してもらえる? そうだな
……
まずはお腹いっぱい、朝ごはん?」
「
……
おにぎり」
「もちろん」
「お豆腐のおみそ汁」
「由鶴ほど美味しくはできないだろうが、努力する」
「甘い卵焼き」
「卵焼き
……
焦げたら笑ってくれるか?」
「ふ
……
あと、唐揚げ、ハンバーグ、オムライス、パンケーキ」
「ストップ。
……
俺の手には負えない。アシスタントを募集させてくれ」
「ふふふ。大きいおにぎり一個、先払いの報酬でもらえますか?」
「任せろ」
不機嫌な由鶴の扱いがきっとこの世界の誰よりもうまい。そもそも不機嫌な由鶴を見られるのが、この世界のほんの一握りだ。俺のことを抱きしめたまま離してくれない由鶴の額にキスをして、視線を重ねてから唇にキスをした。俺の首に回った腕が甘えるように頭を抱き寄せ、だけどくぅ、というお腹の音に二人で笑ってキスをやめた。
「おにぎりまってます」
「ん、いい子に待ってろ」
ちゅっと唇の先だけをくっつけてから俺は立ち上がり、由鶴はソファーの上でクッションを抱きしめて丸くなった。上からブランケットをかけてやると俺を見上げて「はやくして」と言ってくる。可愛くない口調の我が儘が、可愛くて仕方なかった。
キッチンに行って炊飯器を見ると、夜のうちに予約してあったのかいつのまにかご飯が炊けていた。もしかすると由鶴はこれに合わせて頑張って起きてきたのかもしれない。蓋を開けて炊き立ての白米の匂いを嗅ぎ、早く由鶴に食べさせてやらないと、とラップを広げた上にごはんを置いた。具材の希望は特に言ってなかったけれど冷蔵庫の中に由鶴が好きでよく買っているおかか昆布が入っていたから、それを白米で包んで熱さに苦戦しながら形を整えた。
由鶴が作る大きいおにぎりよりは一回りほど小さいし形も綺麗とは言えないけれど、いま大切なのはスピード感だ。三角に握ったおにぎりをラップから外して海苔で巻き、皿の上に乗せてキッチンを出る。まだソファーの上で丸まっていた由鶴の前にしゃがんで「できたぞ」と声をかければ由鶴はゆっくり顔を上げた。すんすんと匂いを嗅ぐように鼻が動き、眠たげだった目がパッと開く。薄緑色の瞳が輝いて俺の持つおにぎりを見つめた。
「いただきます!」
「召し上がれ。ちゃんと起きて食えよ。お茶持ってくるから、ゆっくり
……
聞いてないか」
ぱくっと大きな一口でおにぎりの三分の一ほどをかじった由鶴は、俺の方なんて見向きもしないで夢中でおにぎりを味わっていた。まあ、元気になったならそれでいいか。はぁと吐き出したため息は笑い声混じりで、口角を緩めたままキッチンに戻ってグラスにお茶を注いだ。
「逢さん」
「ん? あぁ、もう食べ終わったのか」
「すっごく美味しかったです」
「由鶴が炊いてくれたごはんに市販のおかか昆布を入れただけだ。俺は何も手を加えてない」
「逢さんが握ってくれたから美味しかったんですよ。ありがとうございます」
「
……
お茶」
「飲みます」
「おにぎり一個じゃ足りないよな?」
もちろんです、と由鶴が答える前にタイミングよくぐう〜と腹が鳴る。今度こそ、俺は我慢することなく笑い声を上げた。不機嫌の波が過ぎ去った由鶴は照れた顔でお腹を抑えた。
「朝ごはん、一緒に作ってくれるか?」
「はい、お手伝いさせていただきます」
「つまみ食いしながらやろう。由鶴のおなかが可哀想だから」
「あはは
……
」
キッチンに入ってきた由鶴は丁寧に手を洗ってから「あ」と言って俺の方を見た。何か気になることでもあっただろうかと首を傾げて由鶴を見つめる。起きてきた時と別人のようにぱっちり開いた瞳が、俺のことを見つめていた。
「言い忘れていました。おはようございます、逢さん」
「
……
ふ。あぁ、おはよう、由鶴」
さっきとは違う優しい力で抱き寄せて、由鶴は誓いのキスのように丁寧に唇を重ねた。
二人で迎える朝は、どんなものでも愛おしい宝物だった。二人きりのベッドの中でぐずぐずと微睡みを楽しむのも、先に起きた方が朝ごはんを用意してベッドまで起こしに行くのも、お腹が空いて不機嫌な由鶴を甘やかすのも、その全てが日常になってくれればこれ以上の幸せはない。なんでもない一日が由鶴の「おはよう」で色付いていく。
「
……
だめだ、お腹空いてきた。ごめんなさい逢さん、もう一個おにぎり食べていいですか?」
朝からお腹を抱えて笑える幸せも、きみが初めて教えてくれた。
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