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しちろ
2025-03-20 19:43:18
1392文字
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瞳は宿す
ワンライ。サンドラさんとサフォー。
──フン、他愛ない。
貝殻の建物が特徴的な港町を離れ、サンドラはようやく足を止めた。辺りは静かだ。
追っ手がないことを確認して変装を解くと、サンドラは手の中にあるものに冷たい視線を落とした。
港町ポルポタで手に入れた、青いサファイア。
もっとも忌々しい、珠魅の核のひとつ。
多少手こずることは覚悟していたが、『青い瞳』などという紛らわしい二つ名がついていたおかげで、惑わされたボイド警部が時間を稼いでくれた。なぜだか、メキブの洞窟で出会った妙な人間も現場にいたが、現時点では脅威には当たらないだろう。
……
今後も関わってくるようなら、対応を変える必要があるかもしれないが。
大海に向かって核を掲げると、青い瞳は悲しげにきらりと輝いた。青く澄み渡る海を背に、深海の色をしたサファイアはなお青い。
「腐っても輝石の珠魅
……
ということかしら。死んでなお、かなりの珠力を残しているのね。戦う力がないがために姫になり、姫になっても涙ひとつ流すことができなかった役立たずのくせに」
先ほどサファイアが見せた追憶を思い返し、サンドラは酷薄な笑みを浮かべる。他者の命をさんざんに弄び、容赦なく喰らってきた男が、死後、人間に魔法の道具として使われる。お似合いの末路ではないか。
「さぁ、『姫長殿』。私にも、貴男が見通してきた海の記憶を見せてごらん。願わくば、貴男以外の核の記憶を
……
ね」
サンドラの声に呼応するように、サファイアは再度煌めき、そしてある映像を映し出した。
それはおそらくは、そう遠くはない日の記憶。
瞳に映ったそれをのぞきこみ、サンドラは冷たく吐き捨てた。
「
……
愚かね。死んだ者の思い出を映すことしかできない、哀れなクズ石」
海で起きた出来事をすべて記憶するという、奇跡の宝石。波間に眠る追憶。
青い瞳に浮かび出されたのは、とある少女の姿だった。
こちらに向かって笑いかけ、怒り、時にはしかめ面を見せている。稽古なのか剣を振り、小さな身体を大きく見せようと精一杯に気を張って、誰かを守ろうとしている。アクアマリンの核を胸に抱く、その騎士の名に、サンドラは覚えがあった。
そして、この記憶で知った。水を冠する名を持つこの騎士が、帝国兵からパートナーの姫を守って命を落としたこと。帝国に核を持ち去られ、海の向こう側へと奪い去られたこと。
「バカな珠魅。失った騎士を嘆くばかりで、こうして記憶を残すしかできないなんて」
知らず、核を握る手に力がこもった。脆い核がみしりと音を立て、すぐさま我に返る。憎い珠魅だが、この核がどうしても必要なのだ。砕いてしまっては元も子もない。
愚かだともう一度心で呟き、サンドラは核を懐深くへとしまい込んだ。
珠魅は愚かだ。誰かを傷つけることしかできぬ、滅ぶべき、愚かな種族。
大事な者を守れなかったことを悔いても、もう遅い。
失ってからその存在の大きさに気づいても、もう遅い。
守れず、癒すことも取り戻すこともできず、無力感に苛まれながら、憐れな記憶に浸るしかない。この、青い瞳のように。
「
……
私は、同じ後悔など決してしない。どんな手段を用いても、かならず、あの方を救ってみせる」
サンドラの決意は揺るぎない。必要な核はあと五つ。
深海の青よりなお昏い決意を瞳に宿し、宝石泥棒はいずこかへと姿を消した。
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