一番古い記憶は母の手に引かれながら住む場所を追われる記憶だ。大都市から離れた貧しく小さな農村は閉鎖的な村社会で、物心がつく頃には父はおらず、女で一つで混血の子を育てるにはあまりに酷な環境であった。この世に産まれ落ちただけで罪と言われ、後ろ指を刺される混血、その上異教徒と忌まれるムツタリとの混血である私は、どこに行っても忌子扱いは当然だった。私がいることで混血ではない母も同族からすら忌み嫌われる始末である。混血の連れ子が居る母が小さな村で職にありつけるわけもなく、私たちは逃げ込むように近くの都市へと移り住んだ、手を引かれたのはその時の記憶だ。
地位も学識も無い母が今日の飯のために売れるものは身体だけだったことに気が付いたのは、母を喪って何年も経った後のことだった。雪の降る聖都の路地裏で霜焼けになる手を息で温めながら母の“仕事”が終わるのを待つ。仕事を終えた母は華奢な体をふらつかせながら幾許かの銅貨をパンに変え、ただ待っていただけの私に与えた。今となっては朧げになってしまっているが、酷く乾いた堅いパンとそれを顔を顰めて食べていたであろう私を見て幸せそうに笑う母の顔を覚えている。冷えた私の体をひしと抱きしめ、何かを言って笑っていた。母は無知が故に幸せだったのかもしれない、きっと比較する相手すらも知らなかったのだ。そうでなければあの笑顔に説明がつかない。自身が不確かな幸せに手を伸ばすたびに母の笑顔を思い出してしまう。何があなたをそんなに満たしていたのか、今となっては問うことも出来ないというのに。そしてそれと同時に母の最期を思い出してしまう。もう悲しみすらも残っていない、ただあの時見た光景が脳裏に焦げついている。路地裏の少し奥まった人目につかないところ、粗末な筵を敷いただけの“仕事場”で、あらぬ方向に曲がった首と乱雑に撒かれ鈍く光る銅貨、そして降り積もる聖都の雪が母が在ったことすらも消してしまいそうなほどに白かったことを。
母を喪ってもどれほど皆に忌み嫌われようとも、自ら死を選び取ることができなかった臆病な私は、雨風を凌げる場所と空腹を紛らわせる少量の飯にありつくために軍に志願することとなった。長く伸びた前髪でムツタリの特徴である目が隠れていたこともあり、面接までは特に誰にも絡まれることもなく過ごせた。入隊には面接が必須で、体格が大きなクレマールが面接相手だった。愚かだった私は母が嘘は良くないと言っていた言葉をそのまま鵜呑みにするほどの幼さだった。
「お前は……クレマールか。」
と兵士が言ったのに対して、
「混血です。クレマールとムツタリの……」
と馬鹿正直に答えてしまった。兵士はぎょっとして私の長い前髪をそっとかきわける。開かぬ第三の目を見て、ため息をついた後、乱雑に入隊書類を机に投げ捨てる。
「ここしか行くところがないってとこか。まあせいぜい働いて国に尽くせ」
と面談を終え入隊が決まった。それからの記憶はさらにろくな記憶がない。
入隊後、割り振られた部屋に行く前に装備品の支給や毛布の支給がある。皆子供だからと声をかけてくれるが、混血とわかった途端に表情を強張らせそそくさと離れていった。誰の手助けも得られなかった子供に良い物資が行き渡るわけもなく、身の丈に合わないやや大きな装備品一式と、カビ臭く薄い毛布を手に兵舎へと移動する。大きな荷物を持ってよろよろと辿り着いた部屋にはすでに人がいた。それぞれおおよそ自分のエリアを示すように荷物を広げているのを避けて場所を探す。結果的にはその人たちが寝るのを避けた、雨漏りした形跡のある床が私の寝床となった。今思えばもう少しなんかあっただろうとも思うが、それでも外で過ごしていた時に比べれば暖かかった。風も雪も身を凍らせない。人が詰め込まれた小さな部屋は暖かい。外で暮らしていた時よりはるかに快適な暮らしに、お母さん僕は1人で暮らしていけそうです、と眠る前に心でつぶやくのであった。
兵舎の朝は早く号令から始まる。元々眠りが深くない私は周りの布ずれやいびきでそんなに眠れていなかった。それでも外暮らしの時よりかは疲れが取れ、清々しい目覚めだった。あくびを噛み殺しながら号令に従い朝礼に向かう人々に揉まれながら、周りに比べて一際小柄な私は走った。朝起きることに不慣れな者ばかりで、服の着替えもままなっていない大人たちの中で、しっかりと着替えも済ませて並ぶ私は目立っていた。上官は「お前らもこいつを見習え!」と言い、着替えの間に合っていなかった人達に腕立てをさせる。当時の私は褒められたと思って誇らしい気持ちになった。しかしあれは上官が周りのヘイトを買わせたのだと、後になって気付かされることとなる。
血気盛んなルサントやパリパスたちは自分達がこけにされて混血の餓鬼が褒められたことを良く思う訳がなかった。母と同じ無知で愚かだった私。この世はそういう馬鹿を踏み台にして出来ているのだと、この先私は身をもって痛感することとなる。
朝礼の後は兵舎の清掃から朝が始まる。朝礼で遅刻した者達は凍えるほどに寒いアルタベリーの石造りの兵舎にも関わらず、雑巾での水拭きを命じられる。そんな中で上官に気に入られた私は箒を渡されていた。その時の私は他者に褒められたことが嬉しくて真面目に掃除を頑張っていたが、出来損ないが真面目にすればするほど気に食わない者が生まれるものだ。
「君!こっちも掃き掃除してくれないか?そう君だよ!混血の!お前朝早くから起きれてすごいなー!」
などと笑顔の兵士たちに囲まれる。疑うことを知らなかった私は、ここでは頑張れば人と分かり合えるなどと勘違いしていた。
わざと作られた上官からの死角にたどり着いた時、突然腹に打撃が加えられる。何が起きたかわからないままに崩れ落ちる。鈍い痛みと込み上げる胃酸と血の味が口と喉を焼く。
「何が優秀だ、混血風情が調子乗ってんじゃねーぞ」
一人が長い私の前髪を掴み、口に雑巾を捩じ込む。床に投げ倒すように頭を解放したのも束の間、数人が次々に蹲る私を踏みつけ、蹴る。むせかえるような雑巾の臭いと口に広がる苦味、そしてピリピリとした食べてはいけないものの味、さっきまでの幸せな気持ちから引き摺り落とされ、一気に向けられた悪意に何が起こっているかもわからない。幸いにも暴力から身を守る方法だけは経験でわかっていたので急所だけは守る事ができた。
「こら!そこで何をしている!!」
上官の声が響く。周りを取り囲んでいた加害者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
「大丈夫だったかい?ひどい怪我だ」
上官は優しく私の手を取り、立たせてくれた。治療をしよう、と小柄だった私を抱えて部屋を移動する。丁寧な処置をしてもらえた私はすっかり上官のことを信用してしまった。上官は優しく微笑み私を守ってくれた。初めて向けてもらえた優しさと温もりに無知な私が絆されるのは当然だった。上官は忙しい方なので常にいるわけではない。同期からの暴力は絶えず、傷は積み重なっていく。それでも優しい上官が迎えに来てくれるなら、それを信じて当時の私は頑張れた。
日々の暴力や向けられるヘイトにも慣れてきた頃上官に呼び出された。曰く夕食を共にしたいとのことだった。上官は自分が気に入った特に優秀なものを食事に誘うというのは、一般兵達の中でも噂になっていた。まさか自分が選ばれることになるとはとはやる気持ちを抑えながら部屋に向かったことを覚えている。その時の私の足取りは軽やかで期待に胸を躍らせていた。
上官との食事は贅を尽くした品ばかりで、私が今まで食べた事がないようなものばかりであった。どうやら上官は上流階級出身で所謂エリート、軍内での出世の道が確約されている立場であった。
美味しいものを食べさせてもらい幸せな気持ちの私に上官は、
「よかったらここで眠っていきなさい、兵舎は寒いだろう?許可は私が取っておこう」
と言ってくれた。
菓子に入っていたアルコールで判断能力が鈍っていた私はその言葉に甘えることにした。翌朝の目覚めは今までの人生で一度も感じた事がないほど清々しい目覚めだった。上官に丁寧にお礼を言い、朝礼前の時刻には兵舎の自室に戻った。
今思えば当然だが、その日の私の朝帰りの噂はすぐに兵士たちに広まった。
「上官殿の好みは混血か」
「上流階級は好事家も居るというしな」
「あの混血、男じゃなかったか?」
「ケツが使えるんだろ?」
「親も路地裏で身売りしてたんだってよ」
「ハッ、親子共々体で稼いでんのか」
憶測と噂はどこまででも広がる。自分が悪く言われることは気にならなかったが、自分に良くしてくれた上官が悪く言われることは耐えられなかった。あの方はそんな方じゃないと必死に庇った。その度に汚水を飲まされ殴られ蹴られ、それでも優しくしてくれた上官を庇い続けた。
そんな日々の中、上官の異動が決まった。王都グラン・トラドへの転属だった。上官はアルタベリーで過ごす最後の日、私を再び夕食へ誘ってくれた。
静かな音楽が流れる部屋、蝋燭の光が食事を照らす。食事を口に運ぶ私の姿を見て上官は優しく微笑んでいたことをよく覚えている。
「君が望むなら、私の直属の部下としてグラン•ドラドに一緒にいく事ができるよ。君は私に良くしてくれた、私は君の真っすぐさを好ましく思うよ」
と私の手をとる上官。ムツタリの風習の“握手”の意味を知っているので一瞬ドキッとしたが、これは一般的な信頼の意味だと理解して、にっこりと微笑んで返した。それを見た上官は肯定と受け取っただろう。明日発つからこれがここでの最後の宴だとワインを傾ける。
「せっかくだから君も少し呑むといい。大丈夫、もし寝過ごしても忘れずに君を連れて行くからね」
言われるがままに大きなグラスに注がれた赤ワインに口をつける。飲み慣れないワインは幼い私をあっという間に酩酊状態にした。ふわふわと夢見心地で、肉体と精神が分離したかのような不思議な感覚、そして理由もないのにどこか気持ちが浮つく。きっとここから連れ出してくれるという未来への期待だろうと、無知な私は思っていた。
立つこともままならなくなった私を上官は抱き上げる。温かな体温と大きな身体が安心感を与えてくれた。
服に手をかけられる。きっと寝心地を良くするために、動けない私を着替えさせてくれるのだと身を任せた。
折れた肋骨に触れられたのは痛かったけれど、それも案じてくれたからだと思っていた。
下着に手をかけられた、汚れていたのかな?と恥ずかしい気持ちになる。
温かな液体を身体に塗られる。風呂に入れてもいないのに保湿をしてくれるのか?と思うが上官が自分に悪いことをするはずがないと信じて疑わなかった。
後少しで眠れるのだと酔いと眠気に身を任せようとした時、激痛が襲った。酔いも忘れるほどの激痛が体を貫く。本来排泄することしかないそこに指を挿れられたからだと気付くのには時を要した。あまりの痛みに絹を裂くような声が出るが、誰も助けには来ない。酒の回った手足は力を入れることも出来ず、体内を弄る指は増やされていく。
上官の方を見ると優しい笑顔はいつものままで、身体を襲う痛みはきっと悪夢だと錯覚しそうになった。
「君とずっとこうしたかったよ」
上官は額の目をざらりと舐めて、さらに指を増やす。焼け付くような痛みと吐き気が襲う。それと同時に上官の熱のこもった目は自分に存在価値を与えてくれる気がして愛おしく思えさえした。指が抜かれたと思ったのも束の間、熱い物が押し当てられ、上官の荒い息の下で身を貫かれた。それが母が雪の中で金を稼ぐためにしていた行為と繋がったのはすぐで、何かを得るためには自分も何かを差し出さなければならないのだと思い出した。
骨の折れた幼い身体が軋み、接合部から血が流れるのも顧みず、上官は自分本位に腰を打ちつける。
上官は自分を必要だと言ってくれた、こうしたかったと言ってくれた、これはきっと愛なのだと頭で繰り返し痛みに耐える。こんな自分が誰かに愛してもらえるのであれば、たとえ形が歪だとしてもきっと歪な自分にはぴったりなのだと、身を裂く痛みの中で自己暗示を重ねることしかできなかった。
鈍い痛みで目を覚ます。声は枯れて音すらも出せない。カーテンの隙間から射す光はまだ明け方であることを示している。上官は隣でまだ眠っている。身体を起こすと身体が軋むようにあちこち痛んだ。折れていた肋はひどく腫れ、鬱血している。朝の冷たい空気が身体を冷やすのを厭わずベッドの片隅に蹲る。
朝目覚めて隣に人がいる。そうきっとこれでよかったのだと。母は打ち捨てられたが自分は隣に人が居てくれる、それだけできっと幸せなのだと。昨夜の行為も愛があるからだと、自分に言い聞かせる。白いシーツに着いた赤黒い染みがやけに目につく。頭の中には兵士たちに言われていた言葉の数々がぐるぐると回っている。
「身体で気に入られてるに違いない」
「上官殿は好事家」
「何やっても誰も気にかけないし丁度いい」
酔いの抜けきらない中、反芻される悪意ある言葉に眩暈がする。酷く痛む頭を押さえながら勝手のわかる上官の部屋で身体を拭く。首や足首に大きな手のあざが出来ていることに気付くが、見て見ぬ振りをする。
水で冷え切った指先の冷たさは死んだ母を思い出す。上官は「ずっとこうしたかった」と言っていた。なら自分はきっと、ここに棄てられることはないのだ。母のように雪の下で誰にも気づかれぬまま棄てられることはない。
私のような不出来な混血が居場所を与えていただけただけで身に余る幸せなのだと、そう弁えていればきっとこの幸せは続くのだと、そう信じることしかできなかった。
出立の時刻。一度兵舎に戻って、どれほどもない荷物をまとめる。カビ臭い布切れのような毛布を畳み、用具担当へと返却した。すれ違う兵士たちが嗤っている気がする。逃げるように俯きで走っているとドンと大きな身体にぶつかった。それは最初の日に雑巾を口に詰め込んで私を蹴ったルサントと取り巻きのパリパスだった。
「グラン•トラドに行くんだって?いいご身分だな」
「上官殿の妾だからだろ?」
「そうだ!出立前にいいこと教えてやるよ」
突き飛ばされるように壁に追い込まれる。ここ数年で少しは成長したとはいえ、下流貴族出のルサントやもともと体格の良かったパリパスたちからしたら子供も同然だ。
「俺たちがお前にしたこと、あれ俺たちが決めたんじゃねーんだわ」
「結構いい稼ぎさせてもらったぜ」
「お前のこと痛めつけろって頼まれてさ」
「誰だと思う?」
嫌な予感がする。なぜ彼らが死角を知っていたか、その死角は誰から見ての死角か、そしてそのあと助けに来た人は……嫌な予感は次々とヒントを紐付けていく。冷や汗が吹き出し吐き気に襲われる。倒れそうになった時、目の前のルサントとパリパス達が身を正したのが見えた。ああ、何も知らなかった私はこの声を救いだと思ったに違いない。でも今は知ってしまったのだ。
「あまりに遅いから迎えに来たよ、さあ行こうか」
あの日と同じ優しい笑顔で迎えに来たのは上官だった。
「良い蜜月を、上官殿」
ルサントはニヤニヤと笑っている。上官は私の肩を抱きその場を後にした。
王都グラン・トラド。その名の通り王の座す、連合王国の首都だ。惺教の本拠地であるアルタベリーも多くの人口と多種族が暮らす町ではあったが、比較にならないほどの人数が暮らしている。多く人が集まるということはそれだけ多様な暮らしがある。貴族達が暮らす本通りや大聖堂のある広場、その前に広がる活気に満ちた大きな市場、そして町を下った場所にある貧民街。神に祈りを捧げる神聖な場所がある一方、路上で毎日のように見せしめの処刑が行われる町だ。
人生で初めて降り立った王都は喧騒が溢れていた。
アルタベリーから王都への転属手続きは上官がすでに済ませており、早速明日から王都の兵舎で暮らすこととなる。
移動の間の鎧戦車は上官の私物だそうで、初めて乗ったそれにとても興奮したことを覚えている。自由な時間は甲板で風を浴びて外の世界の広さを目の当たりにした。しかしそれ以外の時間は上官の求めるままに、昼夜問わずに尽くした。上官は骨折した肋を押したり、首を絞めたりするけれど、ずっと「可愛い」「私が守ってやる」と私に言い続けていた。慰みものにされることにも慣れてきて、軽く解しただけで上官のものを受け入れられるようになった頃にようやく目的地にたどり着いた。淫蕩の日々は過ぎ去ればあっという間だった気がする。私は少しの荷物をまとめて王都の兵舎へと向かった。
上官は元々王都の出身だったのでここでは実家で暮らすそうだ。王都の兵舎はアルタベリーとは異なり凍てつくような寒さはなかったが、人が多いこともありベッドが二つしかない部屋に6、7人で詰め込まれるという状態であった。上官の口利きのおかげか、装備のサイズはちゃんと合っており、支給された毛布も穴が空いていたり、カビ臭くはなかった。人の口に戸は立てられないというが、混血でありながらクレマールの将校に飼われている私はさぞ興味を引いただろう。こそこそとこちらを見て噂をする人は居ても、誰も直接声をかけてくることはなかった。
一人で任された仕事をこなしては、上官に呼ばれるたびに奉仕しに行くだけの日々。アルタベリーの頃のように暴力に怯えなくて良くなったことは、とても良かったと思う。身体も少しずつではあるが成長してきた。私が少ししっかりしてきたからだろうか?上官が私を抱きながら「守ってやる」という回数が減ったように思った。
数年がたったある日いつものように上官に呼び出され食事をした。長いテーブルの両端に座らされ、特に会話もなく進む食事は、酷く冷たく感じた。
「ゾルバ、私に縁談の話がきたんた。貴族の娘で、家族の勧めもあってね。だから今までのように君と会えなくなってしまう。でも君も出会った時よりは大人になった。もちろんこれからも支援はするよ!一人で暮らしていけるね?」
突然だった。だが同時にそんな気がしていたと諦めに近い気持ちもあった。きっとこの人は私ではなく、好きにしても足がつかない幼子が好きだったんだと、どこかで気づいてしまっていたから。
「……今まで生きてこられたのは上官殿のおかげです。私の命の恩人には変わりません。心より感謝を、そして今まで大変お世話になりました。」
「君は物分かりが良くて本当に素晴らしいね、そうだ、最後にパーティーをしようと思うんだ。きっと君を気に入ってくれる人がいると思う。ぜひ主催させておくれ」
正直嫌な予感がしなかったといえば嘘になる。それでもここまで飼われてのうのうと生きてた。路頭に迷うくらいならば使えるものは全て使ったほうがマシだと思い、私はその申し出を受け入れることにした。日程はすぐに決まり、参加前に身を清めてくるよう言われた。
王都の夜は閑散としている。昼間の賑わいが嘘のようだ。兵舎に迎えにきた馬車に乗せられ、貴族たちの多く住むエリアに連れて行かれる。薄暗い屋外から一転、招き入れられた屋敷は絢爛豪華であった。私が辿り着いた頃には中は人でごった返し、ウエイターたちが酒を次々と運び、参加客たちへ振舞っている。その喧騒の合間を縫うように、上官の従者に導かれるまま建物の奥へと進む。奥に行くに連れてわいわいと社交辞令で賑わっていた喧騒に淫靡なものが混ざり始める。どこからか聞こえる嬌声、脱ぎ捨てられたジャケット、それらは見えないかのように奥へ奥へと連れて行かれる。奥まった部屋に通された私は、そのまま従者たちによって身なりを整えられた。ここまでされて私は何を差し出すことになるのだろうか、痛いことは嫌だな、などとどこか諦めにも似た気持ちでされるがままになっている。
艶のある夜を集めたような深い紫の髪、薄く化粧を施された顔は上等な娼婦のようだ。私はきっとここで次の持ち主に売られるのだと、本当はこの屋敷に入る前から気付いていたものの、改めてその事実を突きつけられた時はショックだった。ノックと共に上官が入ってくる。目を見開いたあと私を抱きしめて口付ける。何か賛美を言っていた気がするが頭に入ってこなかった。手を取られ大きな部屋へと移動する。華美な装飾と天蓋付きのベッド、そして多くのギャラリー。ギャラリーたちと上官はそれぞれに仮面をつけていた。こんなところで混血を落札したなんてバレてしまったら困るような人たちしかここにはいないことだろう。
「調教済みの混血奴隷、齢は12、今から実演に入ります。お気に召した方はお近くの従者にご希望の落札額をお申し付けください。なお本日は“お味見”も可能です。」
上官はそう告げて私を寝台へと投げ出す。私が逃げ出さないのを確認して、寝台に結び付けられていた拘束具は取り除かれた。娼婦のように飾り立てられた混血の子供が寝台に投げ出されたとて、手を出そうとする者はそうそういない。これでは売れないと思ったのか上官は連れていた屈強なパリパスを寄越す。上官に命じられているんだろう、私の愛し方があの人と同じだ。啄むような口付けをして、首元に顔を埋め胸板にもキスを降らせる。幼い頃はこれを愛だと、求めてくれているんだと信じていた。
薄手の服を脱がされながら胸や脇を舐められる。散々今まで調教されてきた身体はそれを快感だと認識して、この先の行為の準備を始める。自然と弾む息に火照る身体。周りの視線が私に向けられているのがわかる。愛玩用に爪を切り揃えられたパリパスの指が秘部を弄る。温められていた香油を身体に塗り広めるように愛撫され、股を開かされる。ここ数年のうのうと生きられた対価なのだと思い知らされる。
指が体内に沈められ、使い込まれたそこは私の意思とは関係なく容易に指を受け入れる。上官から事前に情報を与えられているのだろう、中を探る指が目当ての場所を引き当てた時、私がビクッと体を震わせたのを見て嬉しそうにする。上官と違って情緒も駆け引きもない責めは少し残念だった。
解された秘部に陰部を模した細身の張り型を押し当てられる。ギャラリーたちが生唾を飲む音が聞こえる気がしたと同時に一気に奥まで貫かれた。
そこからは“お味見”続きだった。自分のものが使えない老人どもは張り型でめちゃくちゃにし、自分のものが使える者は好き放題私を犯した。これはツケの精算なのだと、どこか心は遠くにある。好き放題注ぎ込まれ犯され続け、自身を守るための快感を感じて喘ぐ自分と、冷静に状況を客観視している自分がいた。お開きになる頃、寝台は誰のものかももうわからないほどにいろんな体液で汚れていた。
あの盛況ぶりであれば誰かが自分を落札しただろうが、引き渡しは後日らしい。他人に抱かれる私を見て興奮したのか、上官は上書きするかのように口付けて一気に最奥まで貫いた。アルコール臭い口付けと激しい責めが体を軋ませる。流石に何年も身体を重ねた相手だ。執拗に感じるところばかりを責めてくる。声が枯れるほど鳴かされ、解放された頃には足腰が立たぬほどであった。
馬車で兵舎に送り届けられ、痛みが残る泥のように重い身体を引きずるようにして自室に戻る。自分は傷ついていないと思っていたが本当は傷ついていたようで、その日はどうしようもない悲しみと虚しさに涙した。明日からはまたいつも通り兵士の仕事をする。そんなくらいの気持ちでいた。だがしかし、現実はそう甘くはなかった。
翌朝貼り出されていたのは異動の通達であった。所有権が移ったことで私の所属も変わるようであった。前の上官は幼子にしか興味をもたないが、幼子は庇護していた。そのため私は軍の裏方として中央勤めで人と関わらずに生きてこられた。しかし今回の配属は前線だった。
新たな所属は国境近くであった。戦争で併合した連合国は一度綻ぶと脆いため、常に軍は気を張っていなければいけない。そのストレスがピークに溜まっているのがまさに国境周辺だ。私を買った貴族は、自分の身内が配属されている国境に私を送り込んで慰み者にしようとしていたらしいが、一般的な感覚では私のような混血相手に興奮することなどまずない。嫌悪を向けることしかないのだ。結果として仕事を押し付けられることはもちろん、憂さ晴らしに暴力を振るわれることや罪をなすりつけられることは日常茶飯事で、『泣き虫ゾルバ』などという不名誉な仇名をつけられ馬鹿にされる日々となってしまった。
私が使えるのは物を動かす魔法だけで、攻撃魔法などはからっきし。仮に最前に出して死んだとしても誰も悼む者がいないことからか、戦闘の最前線で塹壕掘りやら野戦築城やらを休む間もなく与え続けられていた。とっとと流れ弾で死んでしまえたら楽だろうと思う私や、うっかり事故で死んでくれたらと思う周りの兵たちの思いとは裏腹に、私は毎回生きて帰って来てしまうのであった。
飼い殺しだった日々の方がましだったかもしれない。嫌がらせでモンスターの死骸を詰め込まれた私物を見下ろしながら思う。愛玩されている間は間違っているとはいえ求められているのだから。片付けようと持ち上げた時にわざとぶつかられ、床に死骸をぶちまける。相手は謝るはずもない。侮蔑と嘲笑の眼差しで私を見て、ストレスの捌け口として蹴り飛ばす。もはや心は痛みも感じなくなっていた。
しかし、ただただ繰り返されるだけの灰色の日々はある日突然終わりを告げた。それは夜の間に作業を終わらせておけと上官に命じられ、到底時間内の完成は不可能な作業を一人で行なっていた時のことであった。
「器用なものだな」
突然かけられた声に驚いて資材を落としてしまう。貴重な資材に傷を付けたとあってはまた上官に怒られてしまうと資材を拾おうとする私に、資材を拾って差し出したのは先ほどの声の主であった。
「驚かせてしまってすまない」
朝日を集めて紡いだような眩い金色の髪に、陶磁器のように白く透き通った肌、恐ろしさすら感じるほど整った顔は目を離せなくなるほどに美しい。思わず見惚れてしまったその人が、近頃軍神と噂されるルイ・グイアベルンその人であると気付いた時には腰を抜かしてしまった。なぜ中央で召し抱えられていてもおかしくないような高貴な人がこんな土埃と泥まみれの最前線にいるのかわからなかったし、クレマールであるルイが私のような混血に声をかけるのかもわからなかった。何か答えねばと思うのに、怯え切った自分の喉からはカヒュッと力ない吐息だけが漏れるばかりであった。
「こんな遅くまで作業をさせられているのか……」
ある程度積み上がった資材を見上げた後に手を差し伸べられる。突然差し伸べられた手が、自分を起こそうとしてくれているものだとは思いもしなかった。急所を守ろうと無意識に構えた腕をその手で掴まれ立たされる。
「見事なコントロールだ。綺麗に積み上げている」
単純なものを動かすだけの魔法を他者に褒められたことはなかったが、目の前のエリートはそんな単純な魔法を誉めてくれた。不思議な感覚だった。
「手伝おう、二人の方が早い」
「な、なぜです……あなたには利がない……」
「そうだな……お前の魔法が興味深かったからだ」
そう言って彼は目を細めて笑った。
二人で進めた作業は彼の技能の高さもあって夜明け前には終わっていた。余った時間は彼に乞われるままに施設案内をした。今日付で彼はここの配属になったらしい。こんな辺境まで名声の届くような実力があり、爵位持ちのクレマール族である彼が何故こんなところに?と思うが、笑ってはぐらかされてしまった。……彼は私の持っていないものを全て持っている。そう最初は思った。しかし彼は私を侮蔑したり見下すことはなかった。友というものがあるならばこういう関係性を指すのではないのか思うほどに親しみやすく、柔らかに笑う男だった。
私とそう変わらない年齢とは言え、彼は既に階級持ちであった。辺境の基地の力関係は彼の登場で変わった。将校たちは彼に付き従い、彼は見事に戦況を指揮して見せた。軍神と呼ばれるのもわかる、と彼が活躍するたびに思ったものだ。雲の上の人だと思っていた。しかし何故なのか、彼は時間を作ってはしばしば私に会いに来た。他愛のない会話から戦略の相談まで、一兵卒の私には身に余る光栄だが、私に話にくる理由はわからなかった。そしてそんな日々が続いていたある日、彼から同室にならないかと誘われることとなる。
「私……ですか?」
「そうだ。嫌だったか?」
「いえ、身に余る光栄……ですが……」
よほど私が驚いていたのだろう。彼は堪えきれないように笑い出した。
「深い意味はない。語らっていると夜遅くなることがあるだろう?時間の心配をしなくていいようにというだけだ。それに私は一人部屋でお前は倉庫の片隅だろう?私たちが同室になればこの砦は全員二人部屋に収まるというわけだ」
私を安心させるようにそれらしい理由を連ねてくれる。本心は読めないが、今更失うものもない。それに彼が望むのであれば私に拒否権はないのだから。彼が手を差し伸べる。これはきっとこれからよろしく、という信頼の握手だ。深い意味はない。差し出された手を取る。彼がいなくなるまでの間この穏やかな時間を楽しむことにした。
同室になってから、彼の素晴らしさは崩れるどころか非の打ち所がないことを思い知らされただけだった。自己研鑽を怠らず、常に先を見ている姿は美しいほどであった。時折見せる年相応の笑顔は貴重で、自分がそんな彼に心惹かれていることに気がついてしまった。絶対に釣り合いの取れない分不相応な恋。混血で、同性で、その上私は穢れてしまっているのだ。彼に私は似合わない。失望されるくらいならいっそ嫌って欲しいとさえ思った。しかし彼は私の出来ることを見て認めてくれるのであった。
彼が活躍を示す前は彼が好事家だとか私のせいで変な噂を立てられることもあったが、彼が活躍していくうちにそんな根も葉もない噂たちはかき消えてしまった。いつしか、生まれの貴賤を問わず皆に平等に接してくれる軍神と呼ばれるようになっていた。そんな彼を眩しく思うと同時に、そんな彼が私と居てくれる奇跡のような状況を幸せに思った。
同室になってから一ヶ月が経った。普段は彼の方が先に目を覚ますのに、その日は珍しく布団から出てきていなかった。
「ルイ様……具合でも悪いのですか……?」
「あ、ああ、いや……大丈夫だ。すぐに起きる」
今日は確か朝から会議があると言っていたように思う。遅刻などしない彼が体調不良でもないのに布団から出られないには、何か出ることを躊躇うことが起きているのだろう。彼がもし布団から出られていない理由が、生理現象がおさまらないことによるならば、私が役に立てるかもしれない。
「あの……お困りでしたら……手伝います」
「……何?」
「……その、男性の生理現象がおさまらないのであれば……お手伝いできます」
何を言っているんだと自分でも思う。彼は案の定驚いていた。しかし彼は耳まで顔を赤くしながら一瞬目を逸らし、布団から小さく手招きをした。
わずかな高揚を胸に抱きながらも、驚かさないようにそっと近付く。私にされていると思うと気持ち悪くなってしまうかもしれない。足元の方から掛け布団に潜り込む。ツノを引っ掛けてしまわないように気をつけながら目当ての場所へ辿り着く。ただ勃ち上がったにしては立派なそれに鼻先を寄せる。今まで見た中でもかなり大きなそれに気圧されつつも、手早く済ますために口に含む。喉の奥で締めながら手と舌を使い一気に刺激を与えると、布団の外でくぐもった声がした。まだイっては無いのでさらに追い込むように刺激を加える。舌で形を感じ取りながら、これで掻き乱されたならさぞ気持ちがいいだろうと頭によぎってしまう。過去に教え込まれた技術を駆使して奉仕していると、布団越しに頭を押さえつけられる。それも想定内なので力を抜いて喉の奥で受け止める。濃く青臭い匂いが鼻の奥に広がり、過去の淫蕩の日々を思い出させる。出したもので布団や体を汚してしまわないように気をつけながら布団から這い出る。洗面台に向かう途中で布団にいる彼を見ると、目を丸くして私を見ていた。嫌われてしまったかもしれないと思いながらも、私はクセで口に出されたものをごくりと呑んだ。
「今日は朝から軍議でしたよね、ご準備を……」
気まずい空気に耐えきれず、逃げ出すようにその場を離れた。
その日1日はなんとも居心地の悪い1日だった。部屋に戻った途端同室を解消されてもおかしくはない。すぐに出られるよう自信の荷物をまとめながら彼の帰りを待った。いつもより少し早い時間にその時はきた。いつもと変わらない様子で部屋に入ってくると、彼は扉に鍵をかけた。普段は早い時間の場合は、彼を訪ねてくる人もいるので鍵をかけていない。鍵をかけたということは今朝の話をするんだろう。彼が深呼吸した音がやけに大きく聞こえる。
「今朝は申し訳ございません、ルイ様」
「いや……私の方こそ。悪かった」
沈黙が二人の間に横たわる。私が好きでやったのだから彼が謝ることはないというのに。
「……親もない混血が生きていくにはこのような手段しかなかったのです。そしてその技術が今回は活きると思い、あのようなことを。……朝から驚かせてしまいました」
「急いでいたのは事実だ。……助かった。ただ、お前を利用してしまったことに謝りたい」
どこまでも優しい方だった。私のことなど使っても誰も憐れんでくれなかったのに、この方は私を一人の人として見てくれているのだ。
「お慕いしております。貴方がお困りの際はいつでもお呼び立てください」
その優しさが私には苦しかった。いっそ人として扱われない方が慣れている。部屋を出ようとまとめていた荷物を持って立ちあがろうとした時、両手を掴んで引き止められた。
「どこにいく?」
「どこにって……ルイ様に手を出したのです。同室では暮らせません」
「私が許可したとしてもか……?」
「え?」
想定外の発言に耳を疑った。そんなに朝の行為が良かったのだろうか。
「それは……貴方が望むのであれば私はいつでも……致しますが」
「私はお前を必要としている」
まっすぐな目に射抜かれてしまう。冬の青空のように澄んだ美しい目が私を見つめている。
「……ルイ様は今朝のような行為は初めてですか?」
「他者との行為は初めてだった」
やってしまったと頭を抱えた。私の産まれた育ちが一般的では無かったのだ。わかっていたはずなのに、お慕いしている方が悩んでいたのを見て、出来ることをしてしまったのだ。私が彼の出したものを飲んだときどう思ったか、考えただけで怖くなった。
「朝は急いでいた……お前さえ嫌でなければ、もう一度、……今度はちゃんと見せてくれないか?」
想定とは異なる申し出に目を見開いたと同時に、淡い希望が脳裏によぎる。このまま夢中になっていただくことができたら、重用してもらえるのではないか、と。
「貴方に望んで頂けるのであれば……」
こうして私たちの関係性は少し変わることとなった。互いに日中の汚れを流すためにシャワーを済ませた。普段なら意識していない同じ香りのシャンプーがやけにいい匂いな気がした。
やや緊張のほぐれていない表情のままベッドに腰掛けるルイ様の足の間に座る。本当にしても良いものかとお顔を確認すると、私を不安がらせないためかぎこちなく笑ってくださった。そんな向けられたことのない優しさに胸が躍る。腹部や太ももを撫でる。身長はまだ私とそう変わらないか僅かに私より低く、顔立ちは少年のようだというのに、手に伝わってくるたくましくしなやかな身体は成人男性のそれに等しい。緩やかに反応し始めたそれに鼻先を寄せる。パンツ越しに触れるそれは今朝見た時よりも勃ちあがって見えた。緩やかに刺激するように鼻の先だけでつんつんと突いてやると、彼が呼吸を僅かに乱す。悪い反応では無いことを確認した上で、パンツのゴムに指をかけた。
「辛くなったら声をかけてください」
下着ごとパンツを下げると、それは明らかに今朝口に含んだ時よりも大きかった。太く反り勃つそれは今まで相手をしてきた中で間違いなく一番だ。
見たいと言う相手であれば視覚的にも卑猥に見せるほうが喜ばれると教えられてきた。邪魔な髪を耳にかけながら唇を舐めて湿らし、期待と不安で張り詰めている御心を安心させるように鈴口にキスをする。そのまま舌を尖らせてチロチロと弱い刺激を与えながら、手は優しく太腿から鼠蹊部まで撫で上げる。私が手を滑らせるのと同時に金髪の若い将校は大きく息を吐く。普段大の大人たちを従えて前線を指揮しているあのルイ様と同じとは思えない、年相応の初々しい反応が愛らしく見えた。
唾液が垂れて伝うようにわざと多めに唾液を纏わせて立派なそれに奉仕する。音を立てて舐められているのが恥ずかしいのか、見たいと言ったのは自分だというのにたまに目を泳がせながら頬を赤く染めている。玉を唇で食んで舌を平らにしてざらりと舐めたら、鼻に抜けるような吐息が聞こえた。まだ性感帯もそう発達していないながらも、特によく感じるところは大人たちと変わらない。裏筋に唇を沿わせ鬼頭まで至ったら決して歯を立てないように咥え込む。口を大きく開いてだらしなく垂れる唾液の滑りを活かして左手で竿をゆっくりと擦る。右手は陰嚢を転がすように刺激する。
チラリと様子を伺うと、ルイ様は片手で口元を押さえながら後ろに手をついて体を反らせながら長いまつ毛を涙で湿らせている。濡れたまつ毛の下の青い目はことを見逃すまいとこちらを見ていたので、見上げた私と熱のこもった視線が交差する。口元を押さえる手を導くように取って、自分の頭に乗せるように誘導する。遠慮がちに手が乗せられたのを確認してから、責めを一気に強める。こことは違った場所で教えられた技術を活かして奉仕して見せれば、頭に遠慮がちに乗せられていた手に力が入ってくる。そろそろかと奥まで咥え込んだら、頭をぐっと押されて喉奥に熱いものが流れ込んだ。ここで咽せては気を害すると教わってきた私は難なくそれを飲み干す。飲み干す動きで喉が動いたことで、ルイ様のものを喉できゅっと締め付ける形になる。達したすぐで敏感になっているのであろう、堪えきれなかった喘ぎが聞こえて嬉しくなった。汚れを残さないようしっかりと吸うように舐めながら唇を離す。唇に残った残滓を見せつけるように舐めとったら奉仕は終了だ。
「その……もしお気に召しましたら……いつでもお申し付けください……。私はこれくらいしか取り柄がございませんので……。」
いつもなら口淫の後身体を使われることがほとんどだが、今日はその流れではないためどうしていいかわからず妙に気恥ずかしい気持ちになった。頭に乗せられたまま脱力した御手を下ろして良いものか、それすらもわからない。放心した虚な目が再びこちらを捉えるのをじっと待つことしか出来ない。
静まりつつもまだ僅かに熱のこもっているそれを目の前にしていると、抱いて欲しいと身体が疼く。そんな己の浅ましさが恥ずかしくなる。
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