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saeko
2025-03-20 13:34:42
6139文字
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無題2(未完成)
「無題」のリンちゃんサイドの続き。
今回からアキラくん視点に。
いま書いてるものを、書けたところまでとりあえずアップしています(未完)
完成したら全文を支部にアップ予定。
■ ■ ■
アキラSIDE
浅羽悠真が『Random Play』を訪れたのは、夕方よりも少し遅い時間帯だった。
頻繁に足を運び、発生している共生ホロウの情報や対ホロウ特別行動部第六課の戦闘経歴をアキラに提供し、アキラもまた、こちらの進捗状況やエーテリアスの情報を悠真へ提供する。
普段は仲介を挟むところだが、機密になればなるほど、関わる人数はなるべく最低限に限られた方がいいというのが、今回の組織の判断らしい。
仕事の話になるからと、18号に店を任せスタッフルームにいるリンへ声を掛け、そのまま自室へと向かう。
ここ最近奔走している悠真を少しでも休ませたいところだが、まずは資料を受け取り、こちらも纏めていた書類を手渡した。
「何度も申し訳ないな。僕が行けたらいいんだけど」
「いやいや。これ以上アキラくんを働かせちゃったら、リンちゃんに怒られるって」
今回、共生ホロウが発生したのが新エリー都でもかなり名を馳せる大企業の所有する工場というのもあり、上層部から直々に対ホロウ六課にも声が掛かっているらしく、悠真がアキラとの伝達係を担っていた。
〈N.E.P.S.〉と〈H.A.N.D.〉に協力要請されたが、発生した場所や所有者の社会的上層階級の関係もあり、プロキシとして他にも二つの組織と手を結んでいた。
〈ヴィクトリア家政〉と〈白祇重工〉に協力を頼み、アキラは悠真たちと他の組織のパイプ役になっていた。
発生している共生ホロウは大小合わせて全部で五つ。縮小し消滅させるには、内部で活性化しているエーテリアスを討伐しホロウを鎮静させる必要がある。教会の調査員と共に、五つのホロウ全てのエーテル濃度やエーテリアスの個体種別を調査した結果、一つのホロウには二種類のエーテリアスしか存在しないことが判明した。
アキラの仕事はホロウ内のガイドの他に、エーテリアスの弱点を討つ能力のあるエージェントに協力を仰ぐことだ。
ホロウの成長速度は未だ不明で、教会からさらに詳細な調査結果が出た場所から一つずつ鎮静させていくしかない。幸いにも発見が早かったため、未だにゼンレス限界に到達するホロウはなく分裂する気配はなかった。
「ライカンさんからの鎮静完了の報告と、こっちはクレタからの現場状況の報告書だ。どうやら工場の稼働を全て止め閉鎖してるみたいだね。それにより、企業の収益に損が出ると依頼主からの苦言も書いてあるけど、これは君たちの上に報告した方がいいかい?」
工場内のセキュリティ関係にも損傷や不具合が多大に起きており、復旧に時間が掛かると報告も受けている。
「いいんじゃない? 被害者の声に耳を傾けるのも、上の仕事の一つだって僕は思うし」
トランク型のローテーブルに書類を置き、悠真がソファーの背もたれに身を預ける。アキラと悠真の会う頻度が増えるということは、それだけ互いに仕事をこなしているということだ。
身体の事情を知っているだけに、アキラは悠真を心配してしまう。彼の横顔を見つめていると、不意に視線が向けられた。
「アキラくん、どうかした?」
「え、あ
……
、何か飲み物でも持ってこようか。ほら、話していると喉が渇くだろ。あと、甘いものもあった気が
……
」
ソファーから立ち上がり、僅かに跳ねた鼓動をとりあえず落ち着かせようと平穏を装う。
「んー、それもいいけど」
悠真が引き止めるように、アキラの腕を掴む。
「どうしたんだい?」
「僕としては、そろそろアキラくんを補充したいんだよね」
腰に両腕が回され、そのまま軽く力が込められた。シャツ越しに伝わる悠真の体温に、落ち着かせようとしていた鼓動が僅かに一つ跳ねた。悟られないようにと、小さく息をつき、くしゃりと軽くかき混ぜるように、悠真の髪を片手で軽く撫でる。アキラの視界には悠真の旋毛があり、今度は両手で先程よりくしゃりと頭を撫でてみた。
ぐりぐりと額を押しつけてくる相手に、アキラの口元が少しずつ緩む。
「どうしたんだい? 今日は、やけに甘えモードじゃないか」
「仕事中とはいえ、アキラくんの部屋でずっと過ごせてるんだよ。あんたを補充しておくチャンスでしょ。ただ何も考えず、時間のことも気にせずに、あの時みたいにあんたとずっといれたらいいなぁって」
「あの時って?」
「ポート・エルピスで二人で過ごした時って、アキラくんとは結構あそこで会ってるけどね」
それこそ悠真が気に入っている場所なので、二人で会うときは自然と足が向く場所になっていた。
(もしかして)
特別嫌なことがあったわけでもないけれど、何気に日常から抜け出したくなる衝動に駆られ、ポート・エルピスまで車を走らせたときがある。
その時に悠真を見かけたのだ。悠真の過去に関連することで知り合った子供達と話している彼は、穏やかな表情を浮かべていた。
予定があると子供達が去ったあと、流れる時間の中を寄り添うように二人で緩やかな時間を過ごしていた。
あの時、悠真の傍は居心地がよく、アキラにとって安心できる場所だと初めて意識した。心の中が優しい温かさで満たされていく感覚を持ったことを思い出す。
「これが一段落したら、一緒にポート・エルピスに行こうか。リンにも、今回の依頼がひと段落したら絶対に休みを取って欲しいってお願いされているんだ」
「アキラくんはガイドの他にも、僕たちのパイプ役やまとめ役してくれてるからね。リンちゃんが心配するのも無理ないか」
するりと腰から両腕が解かれる。悠真の隣に座り直すと、悠真の指がアキラの指に緩く絡められた。繋がれた指先から熱が伝わり、アキラもほんの少しだけ力を込める。
「まあ、そうなるんだろうな。こないだからfairyと妙に仲良く、僕の行動を見るくらいには二人とも気にかけてくれているし」
心配するあまり、数週間の間は妹とフェアリーに見守られていたことを話す。
「じゃあ、アキラくんは、二人が行動を見ていたことに気づいていたんだ」
「すぐではないけどね。きっかけは、そうだな」
それは本当に些細なことだった。
いつものように、ウーフのところでクジを引き、日頃サポート支援をして頑張ってくれている妹を労うために、ルミナスクエアでマフィンとスコーンを買った次の日のことだ。六番街のカフェでも販売しているそれは、たまにリンもカフェで購入しているものだった。
マフィンを温めコーヒーを淹れる。兄妹の何気ない日常でもあったけれど、リンとのやり取りにアキラは違和感を覚えた。
「買うの大変だったのに、ありがとうってね」
「それがきっかけで? でも、その会話って普通のやり取りじゃない?」
「それだけなら、僕も何も思わなかったよ」
行き先を伝え、尚且つ商品をみれば連鎖的に店は分かるかもしれない。けれどその時の状況はこちらが話さない限り、相手が把握できる筈がなかった。
「最初は行き先言ってたかなって思ったけど、その時はHIAセンターの話ししかしてなかったって思い出したんだ」
そもそも六分街のカフェだと並ぶことはない。
「それに、あそこのカフェの店長は僕が頼んだら取り置きしてくれるんだ」
六分街の憩いの場所となっているカフェは、地元の繋がりがそれなりにある。アキラはそこの常連なので、多少の融通も利くようになっていた。
「なるほど。だから、おかしいって思ったってわけか」
買う為に、わざわざ並ぶ必要はない。
「そう。買ったのはルミナスクエアの方だ。あそこはいま期間だけ限定のお菓子があって、それも目当ての人も多かったからね」
地元で買えばよかったが、店外に出るには中途半端に並んでしまっている。それならば、このまま待っていた方がいいだろうと並ぶ選択したのだ。
「まあ、一緒に欲しい豆を買おうと思ったんだけど売り切れていたから、それはこっちで手に入ったんだけど」
「リンちゃん、きっと意識してなかったんだろうな」
「多分、目の前のマフィンに気を取られてたんじゃないかな。リンのお気に入りなんだ」
じゃあ、気が緩んでもしょうがないと、悠真が小さく笑む。
「でもさ、どうしてそこまでしてアキラくんの行動を把握しようと思ったわけ? 何かキッカケでもあったの?」
「フェアリーが、僕の身体の異常を感知したんだ。それで心配になったみたいなんだけど」
「え?! ちょっと、それは僕もすっごく心配しちゃうんだけどっ。こっちの事情でかなりプロキシ殿を呼び出してるけど、本当に辛かったら言ってねっ」
「無理ならちゃんと言うよ。迷惑は掛けたくないからね」
「んー
……
その言葉信じてあげたいんだけど、ちょっと無理そうかな」
「悠真?」
繋いでいない反対の手の親指が、アキラの目の縁を軽く撫でる。反射的にぴくりと肩が揺れてしまう。
「
……
えっと、何?」
「体調大丈夫って言ってたけどさ、アキラくん寝不足だよね。うまく隠してるから見逃しそうになったけど」
でも、ここまで近づくと分かる、と。悠真が顔を寄せてくる。琥珀色の瞳がアキラの視線を縫い止め、見つめ合う形になってしまい上手く躱すことが出来なかった。
縫い付けられた視線は外れず、じっとアキラの答えを待つ。
「
……
何度も言うけど、無理はしていないから安心してくれ」
「本当に?」
「ああ。それに、君たちのガイドも完璧にこなしているだろ。案内に支障は出ていない。それは悠真も分かってる筈だ」
体調が悪ければミスを生みやすくなってしまう。アキラやリンの支援が疎かになれば、取り返しのつかない結果に繋がってしまう可能性もゼロではない。
「プロキシの腕は信頼してるよ。でも、心配くらいさせて欲しいな」
自分よりも他人を優先。仕事で奔走しているのはお互い様なのに常にエージェントへ気を配り、たまにアフターケアも手厚くしてくれる。それがアキラの気質だと理解していても、たまにもどかしくなると、悠真が小さく息をついた。
「こっちの体調は気遣うのに、自分は目の下に隈を作ってる。あんたは、いつだって自分のことをあと回しにするから。あの飴だってそうだ」
悠真の視線が外される。
「蒼角ちゃんに羨ましがられたよ。プロキシからいっつもお菓子貰ってるーってね。まあ、蒼角ちゃんは元気いっぱいだから必要ないんじゃって返しておいたけど」
疲れているからこれを、と。
そう言って渡したのはアキラからだ。あの時、悠真は少しだけ驚きつつも、嬉しそうに受け取ってくれていた。
「もっと自分のこと気遣って欲しいって、僕が言っても説得力ないけどさ」
自嘲気味な笑みを口元に滲ませながらも、悠真が話し続ける。
「僕はあんたの言葉で、ちゃんと聞きたい。疲れたならこっちを頼ってよ」
「僕としては、頼ってるつもりだけど」
「んー、まあ、それはそうなんだけど。もっとって、欲張っちゃうんだよねぇ」
僅かな沈黙の後、悠真がアキラから身を離す。
「あーあ、そろそろタイムリミットみたい。アキラくんも補充できたから、そろそろ戻るとしますか」
悠真がテーブルの上の書類を手に取る。仕事モードへ切り替えた悠真が、少しだけ目を細めた。先程までの緩んだ空気が静かになりを潜めていく。プロテクターを身に着けた悠真の背中を見つめていると、こちらの視線に気づいたのか相手がくるりと振り返った。
「そうだ、忘れ物」
「えっ、と。何をだい? 書類なら全部渡した
……
」
「僕さ、これからまたすっごく疲れるくらい働くんだよね。有給休暇、真っ当にちゃんともぎ取ってるのにさぁ、働かせすぎじゃない?」
わざとらしく肩を落とす。
「まあ、確かに、あまり無理するのはよくないな」
「でも、ちゃーんと仕事はするよ。その方が、次の休暇が絶対に取りやすくなるし。ただ、これから書類との戦いがあるんだよねぇ」
身体を休めるためにも気分転換が必要なのではと、柳からデスクワークを仰せつかっているらしく、今度は頭脳戦に挑まないといけないらしい。
「だから、とっても癒される甘いものを、アキラくんから貰いたいなぁって思って」
ああ、そういうことか、と。彼の分かりやすい催促に、アキラはデスクの上に置いていた小瓶から小さな包みを取り出した。
「次にアキラくんの部屋で過ごす時は仕事の話じゃなくて、デートプランにしたいよ、ほんと。今回の件が終わったら、あんたとポート・エルピスで過ごしたい」
アキラが渡した包みをポケットにしまいながら、どこか曖昧さを含んだ約束を悠真が取り付ける。柔らかな笑みを見せる相手に、アキラは約束事を少しだけ明確にしてみる。
「そうだな。その時は、僕が君に釣りでも教えようか。意外な穴場もあるから、今度紹介するよ」
「いやいや。僕、すっごく非力だから。まあ、でも、あんたと一緒に過ごしたら、どんなことでも楽しめそうだけど。
……
って、ほんとにやばいっ。じゃあ、また連絡するね」
悠真が慌ただしく階段を降りる。すぐに足音は小さくなり、やがて静寂が訪れる。
忙しい日々のなかで交わされる、ほんの小さな繋がりが嬉しい。
素直に、そう伝えられればいいのに。
行き場のない想いを吐き出すように、アキラは息をそっと落とした。
(
……
ずるいな、僕は)
数ヶ月前、ハートのディスプレイがポツポツと街中に目立ち始めた時期に、ルミナスクエアで見かけた些細なワンフレーズに目が留まった。
《二人で過ごすひとときに、優しい甘さを》
いつもなら通り過ぎるショップの前にあるワゴンには、赤やピンクのリボンでラッピングされた袋が並べられていて。
その中にぎゅっと詰め込まれていたのは、あの時期によく出回る味の飴をだった。
彼の心が少しでも穏やかであるようにと、悠真が癒やされて欲しい気持ちを込め手渡した甘さの意味が、自分の中で変化していったのはいつだっただろうか。
自覚したのは、妹とフェアリーがアキラの体調を心配したのがきっかけだった。あのときのことを思い出すと、我ながら鈍すぎると苦笑するしかない。
悠真の飄々とした態度や会話の中に散りばめられている、彼の本音や本心。向けられている感情を受け入れているのは、その熱がある種の糧になることをアキラ自身が知っているからだ。
誰かを大切に想うことは、その相手のために生きるという選択肢が増えるかもしれない、ということ。
生と死は皆、平等に訪れる。
死を迎える瞬間の、覚悟と拭いきれない怖さや諦め。相反する感情を持ちながら、自分の生の終着を見据えて永遠を夢見ない彼に、穏やかに過ごせる時間を与えたかった。
彼に穏やかな時間が訪れるとすれば、少しでもその時間が長ければいいと願う。
そして、不安に苛まれそうになったとき、手を握り返す距離に居ることができるならば、アキラは自ら手を伸ばして握りしめるだろう。
それでも、自分の中に生まれた感情の熱までは渡さないようにと、アキラは静かに目を閉じ、音のない告白を唇に溶けさせた。
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