浮き流し
2025-03-20 11:42:21
3312文字
Public イチ松
 

ウソから始まる…(イチ松)

エイプリールフールに松本がウソをつく。そこから始まる、というところまでの話。
⚠️ビターエンド

後々短編まとめ(まとめというほど数はない)本になる予定のもの

「おい大変だ!」
 そんな言葉とともに大小様々な情報の公開が行われている。
「今日抜き打ちテストだって!」
「あのカギ壊れてた準備室、とうとう使えなくなったらしいぞ」
「自販機にジュース入るらしいよ!」
 そして慌てたり疑ったりする声と、嘘だよ!という満足気な反応があちらこちらから聞こえてくる。

 今日はウソをついてもいい日、エイプリールフールだ。

 ー・ー・ー・ー

 朝練中、体育館の扉から新鮮な空気を吸って人心地ついていた時に松本がやってくる。
 一言二言話した後、松本はキョロキョロと周りを見回して言う。
「イチノが好きだ」
 オレは突然の宣言に驚き戸惑う。
「え、オレもだけどなんの話」
 松本に嫌われてるとは思ってないが状況が読めない。
「実は今の今まで仲間としても好きじゃありませんでした」だと中々にショックだし、カツアゲ前の「オレ達友達だよな」だとしても怖い。なにか無理難題でも押し付けられるのだろうか。
 松本の出方を窺っていると、松本は真っ直ぐオレを見つめたまま軽く告げる。
「じゃあ付き合うか」
「えっ?」
 練習戻ろうか、と聞き間違えたかと思う軽さだ。
「それってどう……
 オレが真意を問う前にマネージャーの号令が飛ぶ。
「練習終了!」
「「ハイッ!!」」
 部員は勢いよく返事をし駆け足で散る。それはオレ達も例外ではなく、松本も話途中で片付けに向かおうとする。
「ちょっ、松本!」
 オレは慌てて松本を呼び止める。
 松本は顔だけでオレを振り返ると、薄く微笑む。
「ほら行くぞ」
 そして駆け出してしまう。

 残されたオレも体育館の片付けは1年に任せ、タオルとドリンクを取って松本を追う。更衣室に着いても教室へ向かっても頭の中は大混乱だ。
 好きってどういうことだ。
 オレは松本に片思い中だから、恋愛方面にしか考えられない。ただそれを差し引いても、わざわざ宣言するということは友人としての話ではない気がする。
 他に思いつくのはウソという可能性だ。エイプリールフールではあるが、これは考えにくい。なぜなら松本はこのイベントに対し、いい印象を持っていないからだ。ウソをついていい日ってなんだそもそもウソはよくないだろ、ということらしい。去年も一昨年もそう憤っていた松本が、今年に限って乗るなんてこと考えにくい。
 ということは、これは本当に本当の話なんだろうか。オレの考える通りなら、ものすごく嬉しい。


「お前らいつも一緒だな。付き合ってんのか~?」
 昼ご飯を食べていた時にそう揶揄われる。
 クラスは違うけどよく隣りにいるからよく言われる軽口だ。いつもなら、そうだよ羨ましい? と冗談を言える。ただ、本当に付き合うおうと言われてしまったためどう返そうか。少し悩んで曖昧に答える。
「そうかもね」
 一方、松本は毅然とした態度をとる。
「そうなら悪いことがあるのか」
 松本の面白味のない返事に、からかってきた相手の興が削がれる。
「冗談の通じないヤツだな。別に悪くはねーよ」
 勝手に気分を害されるのも面白くないため、冗談っぽく矛先をずらす。
「妬けちゃった?」
 茶化す様に肯定され、絡んできた相手は雑に手を振る。
「あ〜そうそう、いつもラブラブだと思ってたよ」
 松本は退散する相手を見ようともせず、オレに向かってはにかむ。
「仲良いもんな」
 そんな松本に違和感を覚える。いつもの松本なら、男同士で付き合うってなんだよと否定するところだ。その上、ラブラブという比喩に対し肯定するような笑顔。
 オレの胸の内にかすかな希望が生まれる。
 もしかして、ウソじゃないのか。

 午後の授業はずっと身が入らず、ふわふわとした気持ちで過ぎて行った。ウソが本当になるなんて、あるわけないと思ってた。だけど、本当になることがあるんだな。

 ー・ー・ー・ー

 夕方寮部屋に戻れば、松本が自分のベッドに腰掛けている。どうやら読書中のようだ。
「松本、隣いい?」
「? どうぞ」
 松本は座っていた場所を少し移動し、ベッドの中央を開けてくれる。オレは飛び出そうな心臓を抑え、拳2個分だけ離れた場所に座る。近さに驚いた松本は少し身を引くものの、場所をずれることはしない。
 それを許容と捉え、せっかく付き合ってるんだからと、勇気を出して言ってみる。
「ねえ、手……握ってもいい?」
「いいぞ」
 松本は自分の手を物を受け取るような形で快く差し出してくれる。
その手を両手で包み込むように触れる。色白で筋張った、だけど触れてみると暖かい松本の手。形を確かめるように触っていると、松本がくすぐったそうに笑う。
「なんか手つきがいやらしいぞ」
「いいだろ、付き合ってるんだし」
 しかし、どきどきしながら口にした言葉に冷や水を浴びせられる
「ん?知らなかったのか?エイプリールフールは午前までだぞ」
 頭に、殴られたような衝撃が走る。
「えっ……付き合うって言ったの、嘘だったの……?」
 オレはあんまりにも驚いた顔をしてたのか、松本が申し訳無さそうに視線を泳がせる。
「すまん。嘘というか、友達同士の冗談のつもりだった。イチノは深津と最高とか好きとか言い合ってるだろ。だから、そのぐらいオレもいいかなと思って……

確かに深津とはよくそういった冗談を言い合っている。例えば昨日お菓子を食べてる深津から1つ貰おうとした時も、
『特別ピョン』
『わー深津最高、大好き』
『両思いピョン』
といったやりとりをしていた。だけどそれは深津やノリの近い友人との冗談だ。松本はそもそも冗談を言うタイプではない。だからこそ本当だと思ってしまったショックは大きい。
目を見開いたまま言葉の出ないオレに配慮しつつ、松本は弁解を続ける。
……少し、羨ましいと思ってた。ただオレがそんなキャラじゃないのは分かってるから、もし白けてもウソだと言える日を選んだんだ」

散乱する ?
言葉をなんとか繋げて食い下がる。
「でも……、付き合ってるってからかいに否定しなかった」
「それはよく言われるのがうっとおしいから別の言い方の方がいいのかと」
「ラブラブって……言われて、はにかんでた」
「イチノが嫌そうにしなかったから、オレもそういう冗談言っていいのかと期待した」
 思い返してみれば、告白というには軽かった。いつもと違うけどはっきりとは肯定していなかった。突き付けられる無情な現実に、谷底へ突き落とされる。
 オレは項垂れたまま悲壮な思いをぶつける。
「ヒドい。オレすごい嬉しかったんだけど」
「すまん。イチノには友達として好かれてる自覚はあったし、男同士で付き合うとか分かりやすい冗談だろ。まさか本気にされるとは思わなかった」
……オレ、本当にお前のこと好きだったんだよ。だから同じ気持ちだって知って、嬉しかったのに」
「ごめん……
 軽い冗談が大ごとになり、松本は萎縮する。だけど今のオレに気が回せるほど精神的余裕はない。両手で顔を覆いため息をつく。
「はぁ……1人で舞い上がって、バカみたい……
 嘆くオレに、松本は心を決める。
……責任取らせてくれ。オレと恋人として付き合ってくれないか」
 松本の申し出に突き放した物言いをする。
「本気?オレはお前とキスしたいしセックスしたいと思ってるんだよ」
 罪悪感からの責務やぬか喜びはごめんだ。望むことを明け透けに言えば松本が少し怯む。
「イチノをそういう目で見たことないからすぐにイチノと同じ気持ちは返せないと思う。けど、少なくとも友達として好ましいと思ってる。それじゃダメか?」
「同情で付き合ってほしいわけじゃないんだけど」
「これはオレの意志だ。イチノが悲しむのは見たくないし、オレができるなら願いは叶えてやりたいと思ってる」
「そう……言質取ったよ?でも嫌なら言って。あんまり期待はしないから」
「ああ嫌なら嫌と言う。だから、イチノはやりたいことを言ってほしい」

 エイプリールフールのその日、オレと松本は本当に付き合うことになった。