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かにやけんせつ
2025-03-20 03:19:23
2696文字
Public
魔法少女特務機関 Main Story
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魔法少女特務機関 Fragment.007
#2023/7/13
#Aoi_Cyan
「お疲れ様、今日はここまでにしよっか。どう、本番でもうまくやれそう?」
「はい、いい感じにやれそうです」
窓の外からの光が茜色に染まる中、空は詩杏の答えを聞いてよかったと微笑む。つい先程までビルとビルの間を飛び回る練習をしていたところ、最初こそジャンプする高さが足りなかったり足を踏み外したりして空に助けてもらったりしていたものの、今では一番上、ビルの屋上を模したところまででも確実に飛び乗れるくらいになっていた。飲み込みが早いね、と空に褒められつつ、詩杏はペットボトルにわずかに残ったスポーツドリンクを飲み干す。
「明日以降、武器の扱いの練習もしてもらうけど、それは流石にビルの中だと危ないからね。実際に外に出ることになるから、今日のところはしっかり身体を休めておくんだよ?」
空は詩杏を見て、青い目を細めて微笑む。この後は帰るかそれとも機関で過ごすか自由ということであったが、詩杏は帰ることにした。どこで過ごすかは気まぐれだが、今日は帰る気分なのである。
「それじゃ、またね。帰り道気をつけてねー」
「はーい。お疲れ様です」
詩杏は休憩室に戻ると、そこにいた面々に挨拶してからロッカーの荷物を持って機関を出る。夕方の彩坂駅は帰宅ラッシュ、大量の乗客を捌くための電車がまた何本も駅を離れていくのが高架に見えるのであった。
いつもの駅で地下鉄を降りると、スマホのモバイル定期券をタッチして改札を出る。地上に出る頃にはすっかり陽は沈んで、空も向こうの方のわずかな橙色を除けばすっかり紺色、そして黒に染まっていた。近くの自販機そばのゴミ箱に空のペットボトルを放り込み、代わりに買った缶ジュースを飲みながら歩く。
「あ。
……
そういえば機関のアプリ入れてもらったんだっけ」
ふと鳴ったスマホの通知に目を落とすと、そこにはSNSのサードパーティクライアントに偽装された特務機関のアプリがあった。シンプルな羽根のロゴのアイコンをタップすると、灯からのメッセージの通知が表示される。
『お疲れ様、詩杏さん!もうそろそろおうち着いた?』
灯はアイコンを美味しそうなオムライスの写真に設定しているようで、メッセージの横にそのアイコンが表示されている。同じチャットグループ内に翠もいるようで、グループ名は「Save our Irodorizaka!!」となっていた。どうやら勝手にグループに入れられていたらしい。
「あとちょっとで着く頃
……
と。
……
返信早っ」
『そっか、気をつけてね!歩きスマホとかあんまりよくないからね』
『続きは帰ってからでいいから』
野良らしき猫の写真をアイコンにした翠も会話に入ってきたところで、ちょうど詩杏は自宅に帰り着く。門扉を開けて小さな庭を通り抜けると、門番をしていたテテが玄関を開けてくれる。家の中にいた別のテテに通学用のリュックを預けると、靴を脱いで洗面所で手を洗ってからリビングへ向かう。
「
……
今日も一人か」
今日はまだ自分以外帰ってきていないことを確認すると、冷蔵庫の隣に置かれた冷凍庫から冷凍弁当を取り出す。一人ならいっそ友達のところにでも、と一瞬考えたが、特務機関の話を目の前でするわけにもいかないしと自宅で食事を済ませることにした。
「おじさんもおばさんも、今日も遅いみたいかな」
そろそろ普通のフルタイムの仕事なら終わって帰ってくる頃合いだが、二人とも少なくとも今日は残業か、あるいはそもそも仕事の時間が遅いらしい。詩杏は終業時刻や休日どころか二人が何の仕事をしているかも知らないのだが、裏を返せばそれだけ二人に対する詩杏からの関心が薄いということでもあった。そんなことを考えているうちに冷凍弁当は温め終わっており、火傷に気をつけてリビングのテーブルに置くと蓋のフィルムを剥がして、割り箸を割って弁当に手をつける。鶏の照り焼きを頬張りながらもう片方の手でスマホを操作し、改めて特務機関のアプリを開く。
「ご飯食べてる、とか送っとくか
……
もぐ」
『いいなー、こっちはまだなんだよね。何食べてるの?』
「写真
……
はやめておこう。照り焼きチキンだよ
……
と」
食べかけを送るのもな、と思い、付け合わせのブロッコリーを口に運びつつ文章だけで返信する。するとしばらくして、今度は向こうから写真が送られてきた。そこには灯に捕まえられている美雲と、その横の呆れた顔をした翠が山盛りのパスタやサラダを囲んでいる姿があった。
『ママつかまえた✌️』
「
……
本当にいつもあんな感じなんだ
……
」
そう返事してから、スマホの画面を消して詩杏はまた箸を進める。気づけば残りはあとひとくち、それを口に運んで食べ終えると詩杏はひとつあくびをした。
入浴を終え、寝支度を整え、ふかふかの布団にくるまる。夏という季節には暑苦しいように見えても、詩杏は冷房をしっかり効かせた寒いくらいの部屋で布団にくるまるのが気持ち良くて好きなのであった。枕元まで充電ケーブルを引っ張ってきてスマホに繋げると、特に意味もなくぼうっと自分の部屋を眺める。
折りたたみテーブルの上に散らかした、友達に勧められるままに買った化粧品。勉強机の上のみならず床まで、買ってきた本や提出期限の過ぎた課題のプリントで散らかっている。そういえば先日買ってきた服もショッパーから出してない、と思いつつも、一度布団にくるまってしまうと出たくなくなって後回しにしてしまうのであった。
「
……
あれ。みっちゃんだ」
そうしているとふと、スマホの通知が鳴る。見ればそれは、友達からのチャットSNSの通知だった。
『しあんちゃん、見てこれ!Little Magusの新作ワンピ可愛くない!?』
「
……
んー」
返事しようとして、部屋の片隅に転がっているショッパーに目をやる。あれの中身も同じブランドの初夏の新作なのだが
……
はて、何ヶ月放置していたっけ?
とはいえこの声のかけ方なら次に来る言葉は「発売したら見に行こ、前お揃いで買ったやつ着て!」とかだろう。早いうちにシワを伸ばしておこう、と面倒くさいと思いながら布団を這い出た瞬間、通知がまた鳴る。
『前に買ったやつでおそろいコーデして買いに行こうよ、ちょうど発売日日曜日だし!』
「
……
やっぱり」
そう小さく呟きつつ、いいよ、と詩杏はフリック入力で返事を打ち込む。そして前に買ったワンピースを取り出したショッパーをゴミの山に放り投げると、アイロンをかけるために渋々自室を出ていくのであった。
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