こゆ
2025-03-20 00:28:11
2147文字
Public
 

ベッドの破壊音くらいじゃ騒音問題にはなりません

ベッドが壊れたペンシャチの話

ペンシャチふたり部屋の備品についてかなりの捏造です








ベッドの破壊音くらいじゃ騒音問題にはなりません



「きれーに割れてンね」
冷蔵庫から持ってきたプリンにスプーンを刺しながらのんびり言えば、隣で同じ様にプリンをスプーンで掬っていたペンギンが「そーだなァ」と答えた。
一層狭くなった部屋の床に無事だった薄い年季の入ったマットだけを避難させて、その上にあぐらをかいたおれたちの前にはベッドがある。
正確には『ベッドだったもの』だ。
時刻は現在深夜一時。事件が起きたのはつい一時間く
らい前。
最近ギシギシ言うような気はしてたんだよな。
大の男二人でのいかがわしく激しい運動とやらについに耐え切れなくなったベッドが、断末魔の悲鳴よろしく大きな音をたてて折れた瞬間。上でコトに励んでいた俺たちは下半身素っ裸のまんまで、大きく跳ねたマットレスの上から無様に転げ落ちた。
ペンギンの完勃ちチンコがコントかよってくらい綺麗におれのケツから抜けて、転んだペンギンはベッドの枠に頭を打つわ投げ出された俺は壁にぶつかるわで散々。起きた事態を把握するまで結構かかった。
枕元に投げ出されていたローションのボトルがごろごろと床に転がり、ピンク色だった頭ん中が冷えていって。
あ、ベッドが折れたんだな。
頭で理解できた瞬間、ペンギンと顔を見合わせて爆笑した。
もうマジで、ここ最近こんな笑ったことねぇよってくらい腹抱えて笑った。
こもっていた部屋の熱気を吹き飛ばすくらい、深夜にげらげらと。
やべ、そろそろ止まらねぇと誰かしらに怒鳴り込まれる。
そう思って、ペンギンを見た。素っ裸のペンギンはおれの意を汲んで少しだけ声のトーンを落とした。

「まァよく頑張った方だと思う。こいつ、二年前に備え付けの二段ベッドをおれらが壊した時からの付き合いだもんな」
「そういやそんなに経つのかこいつと出会って、二年も成人男性のいかがわしい運動に付き合わされてりゃ、そりゃあ寿命だ寿命。カワイソ」

とりあえずその後何だかもうヤる気分じゃなくなった
のでいそいそと服を着て、その後じゃあこのベッドどうすんのとか今日の寝床はとか、言い訳とか、いろいろ考えるのが嫌になったから腹ごしらえでもの流れになった。
誰もいない食堂から朝食用に仕込んでいたプリンをふたつ拝借して、こうして長い付き合いのベッドを看取っている。明日の朝飯当番なおれはこの時間から酒盛りするわけにもいかない。
覗き込めば、マットを乗せる部分に渡っている木の部分が何本かばっきり折れている。治して使えば使えないこともなさそうだけど、それは明日のおれの仕事だ。

「修理するにしても新しいの作るにしても材料がなァ、次の島までの予定とか考えねーと」
「とりあえずキャプテンへの言い訳考えながら寝るか。今日はもうこのマットだけで寝るしかねーな」

そう言って、ペンギンはプリンのついでに取ってきた真新しいシーツをパンパンっと叩いた。

「頑丈なのにしろよ、って前回キャプテンに言われてすげー居た堪れなかったよな」
「ヤってる時に折れないようなやつな?って顔に書いてあったもんな、ローさんもまだ今より若かったし。
言葉濁されたけど……今回は流石に直接何が悪かったのかを丁寧に聞かれそう。おれの心もチンコも折れそうだわ」

あははっと、笑ったおれの手元に一口残っていたプリンをばくり、と横から掻っ攫われる。

「うわ、最悪。最後のひとくち!」
「こっちの台詞だ。チンコで思い出したけどシャチと違っておれまだ射精してねーんだけど」

ペンギンがどこか険しい顔してんのはそのせいか。まぁ確かに変な形で中断してしまったのも事実だし、ベッドは折れてるし、財務担当はペンギンだし、なんだかんだと報告とか金策とかでキャプテンのお小言を受けるのもペンギンなので散々なのは概ねペンギンだ。
むすっとしたような、がっかりしたようなその顔が何
だか急にかわいく見えて来て、プリンを食われたことも許してしまいたくなる。とっくに空になった陶器の器のプリンの残骸をペンギンの手から引き抜くと、自分の手に残っていた器に重ねて机に乗せた。

「いっそ布団ならどっか折れる心配ないけど」
「⋯⋯いちいち畳むのはダルいしなァ」

ほんっと、ペンギンはキチンとしてそうにしてて、そういうとこ面倒くさがり。
おれは横目にペンギンの項垂れた顔を拝みながらさっき着たばかりのTシャツをもう一度脱いだ。床に直置きのマットは、少し硬くて埃っぽい気がした。
まぁ、確かにずっとこのままじゃ駄目だろうけどさ。
今日一日はこの上で寝るしかないことくらいペンギンもわかってるだろうし。
転がったローションボトルを手にして、ひっくり返し
ながら言う。ぷちゅっと間抜けな音がした。

「ま、さっさとヤって寝て明日考えよ」
「おれ、シャチのそういうとこ男前だなって惚れ惚れするなァ」

そりゃどーも、と笑ったおれに巻き付く逞しい腕。
海に出て何年経ったかなんて定期的に指を折らないとわからなくなってきたが、この関係にはまだまだ寿命は来ないらしい。
重ねたおれの腕も立派になって、ベッドの強度に対する期待値はその歳を重ねるごとに増すことになるだろう。







【了】