suna
2017-05-02 21:54:33
3270文字
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死神と花

ダイの大冒険のキルバーンの夢小説です。名前変換ボタンから変換できるのでお好きな名前でお読みください。キャラ崩壊注意。何でも許せる方向け。多分ネタバレとかはない(はず)

ナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシナナシ ふと、任務を終え帰路に着こうとしたキルバーンの耳に小さな悲鳴が届いた。人間でひしめき合う雑踏の中のノイズのようなもの――普段なら気にも留めなかっただろうそれが、不思議と彼の興味を惹いた。ふらりと足を向けてみると、顔を抑えて地面にへたり込む少女に罵声を浴びせている男――身なりからして商人だろう――の姿があった。
 ――それから、ほんの一瞬。
 通行人がぎょっとして足を止める。少女の姿は既に無く、その場に残されていたのは頭と胴が離れた商人の死体だけだった。
 
* * *

…………?」
 少女が気が付くと目の前のうらぶれた街並みが豪奢な一室に変わっていた。それはあまりに一瞬の出来事で、少女は何度か目を瞬かせると夢でも見ているのかと首を傾げた。と、そんな少女の顔を覗き込む仮面の男――キルバーン――と目が合い、彼女はびくりと身を震わせた。
「これはヒドい……売り物ならもっとそれらしくしておくものだ……
 少女が身に着けているのは衣服とも呼べぬようなぼろぼろの布切れで、伸びっぱなしのくしゃくしゃの髪や顔や体のいたるところにある痣や擦り傷が何とも痛々しい。
「うんうん、こんなんじゃ誰も買ってくれないよ。キルバーンのおかげで助かって良かったね~! ホイミ!」
 ピロロが軽やかに呪文を唱えるとふわりと温かな光が少女を包みこんだ。傷がすうっと消えていく自分の身体と目の前の小さな魔物と謎の仮面の男――この人も魔物なのだろうか? と彼女は考えた――を見比べながら少女がぽろりと言葉をこぼす。
「助かった……? 貴方が私を買ってくれたのですか?」
「まあ、そんなところだね。ボクのことは……キルバーンと呼んでくれたまえ」
「ボクはピロロ、キルバーンの使い魔さ! よろしくね! キミの名前は?」
 こともなげに言うキルバーンとにっこりと笑うピロロを前に、少女はうつろな目で答える。
「私はナナシ……どうせ明日をも知れぬ身だったのです。相手が人間でも魔物でも変わりなどありません。生贄でも何でもどうぞお好きなようにして下さい……
 そう言って顔を伏せる少女――ナナシを見て顔を見合わせるキルバーンとピロロ。
「そんなこと言うなら食べちゃおうかなあ? キルバーンはステーキとシチュー、どっちがいい?」
「こらこらピロロ、そんなことを言うものではないよ。怖がらせてしまうだけじゃないか。――ナナシ、ボクはキミに危害を加えるつもりは無い。魔物の言うことなど信用できないかもしれないけどね? これは本当さ」
「ジョーダン、ジョーダン! キルバーンはキミを見初めたんだよ! 一目惚れってやつ? このこのー隅に置けないねー!」
「一目惚れ……か。どうだろう? ボクは恋などしたことがないのでね。ただの気まぐれだと思ってくれればいい」
「気まぐれ……
「そう、まあ気が変わったら――こうかもしれないけれど……おいおいそんな怖い顔をしないでくれたまえ。冗談だよ」
 チョンと首を刎ねる真似をしてみせたキルバーンにナナシの顔が強張る。と、肩をすくめてみせるキルバーン。
……ともかく、まずはその恰好をどうにかしようか。ピロロ、ナナシに湯浴みの用意を」
「はいはーい! 任せて!」
 

* * *

 湯上りに用意されていたのはレースがふんだんにあしらわれた真っ白なドレスだった。ピロロに手伝ってもらいながら――湯浴みの最中もピロロが丁寧に彼女を磨き上げてくれた――ナナシがドレスを着て部屋に戻ると、鏡台の前で待つキルバーンが目に入った。勧められるまま鏡台の前に座る。
(一体私はこれからどうなるんだろう……)
 自分の髪を楽しそうに――笑みを模した仮面をつけているからそう見えるだけかもしれないが――梳るキルバーンの姿を鏡越しに見ながらナナシはそう思った。
 そんな彼女の考えを見透かすかのように、
「怯えないでくれたまえ。ボクはキミが笑うところが早く見たくてこうしてるってのにさ……ウフフッ――さて仕上げだ」
 キルバーンは笑いながらナナシの髪に白いバラをあしらった髪留めを挿すと、彼女の長い髪をひとすじ持ち上げて軽く口づける真似をした。
「どうかな?」
……あんまり嬉しくなさそうだね」
 不満げに声を上げるピロロの言葉通り、美しく磨き立てられたナナシの表情は曇っていた。
「もっとリラックスしていいんだよ」
「そうは言われましても……
……まあすぐに慣れろとは言わないさ。何せ時間はたっぷりあるからね。――そうだ、お腹はすいていないかい? 食事の用意をしてあるんだ。口に合うかどうかは分からないが、食べてくれると嬉しいよ」
「あっ……はい……
  キルバーンはぎこちなく頷くナナシの手を取るとテーブルへと案内した。テーブルの上には彼女が見たこともないような豪勢な食事が並んでいる。
「さあ、お食べ。ボクは先に頂いたのでね――気にせずゆっくり味わうといい」
「はい……ありがとうございます。では、いただきます……」 
「ボクもボクもー! 一緒に食べよう!」
 はしゃぐピロロと頬杖をついてこちらを見つめるキルバーンを前に、ナナシはおずおずとふかふかのパンに手を伸ばした。
 あむ、とパンに口をつけるナナシをキルバーンは静かに見つめている。
…………おいしい……です」
「それは良かった」
 笑顔の仮面をつけたキルバーンの表情はナナシには分からなかったが、ふわりと微笑まれた気がして、ふっとナナシの表情が緩んだ。
「やっと笑ってくれたね」
 そう言われて、きゅっと顔を引き締めるナナシ。一瞬だけの儚い笑顔にピロロが手にしたスプーンを振り上げる。
「ちぇっ、もっと笑ってくれてもいいのに」
「ククッ……ピロロ、ナナシはまだ緊張しているのさ」 
「そうかあ……もっと気楽にしていいんだからね。ほら、このスープ美味しいからナナシもどうぞ!」
 と、スープを掬ったスプーンを差し出されて、ナナシは少し躊躇ってからスプーンに口をつけた。ピロロの言う通り、それは確かに美味しくてまた顔が緩みそうになる。
「これを食べたら今日は眠るといい。キミの身の上話なんかも聞きたいけれど、それは全部明日にしよう。何しろ疲れているだろうからね」
「は、はい。ありがとうございます……
 今まで経験したことのないような扱いに困惑しながらも、一度食べ始めると身体は素直に空腹を思い出して、それに急かされるようにナナシは夢中で食事を平らげた。
 
* * *

……それで、いったいどうするつもり?」
 すやすやと寝息を立ててベッドで眠るナナシを見ながら、ピロロがキルバーンに問いかける。
「どうするつもり、とは?」
ナナシのことだよ。――何でこんな娘を気に入っちゃったんだろうね。変なの」
「フフッ、もう分かっているんだろう……?」
「うーん……何となく、だけどね」
 キルバーンが指をぱちりと鳴らすと、その手の中に一輪の白いバラが現れた。それを仰々しく掲げながら彼は謳う。
「彼女を花に例えるなら、まだつぼみのようなものだが……花が一番美しいのはいつだか分かるかい? 可憐なつぼみ? 満開に花開いた時? ――いいや、違うね」
 キルバーンは花の部分を掌で包みこむとぐっと力を込めた。白いバラは儚く潰れて、はらはらと落ちていく花びらが眠るナナシに降り注ぐ。
――花は散り際こそが美しい」
……だけど散らすには、まず咲いてもらわなきゃいけないってワケか」
――そういうこと。ウフフフッ」
……そうだねえ、ボクは楽しみだよ……ナナシがどんな風に咲いて、そしてどんな散り様を見せてくれるのか……! キャハハハッ」
 顔を見合わせて笑う二人の声は、ナナシの耳に届くことはないまま静かな部屋に吸い込まれていった。