suna
2016-04-16 22:01:38
1746文字
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使われなかった策略

参謀エンリルとダムキナ様の捏造過去話。※過去捏造、キャラ崩壊注意。薄いですがカップリング要素も含みますのでご注意ください。

 ――メソタニアは今日も平和だ――いや、平和ボケしている、といった方が正しいか。 
 そんなことを思いながら、参謀エンリルは「ふぅ」と一つ溜息を吐いた。
 でなければ、城からそう離れていないとはいえ、吹き抜けた丘の上で、一国の王女が護衛も連れずにペットと戯れているなどという光景が許されるはずもない。
「ダムキナ様、また供も付けずにこの様な所へ……貴女はこれからのメソタニアを背負って立つ身。少しは自覚を持っていただきませんと……
 エンリルがダムキナに近づこうとすると、先ほどまでダムキナとじゃれあっていたマトが低い唸り声をあげてエンリルを睨み付けた。
「おっと、これはこれは……嫌われてしまっているようですね」
 苦笑するエンリル。ダムキナはマトをたしなめながら、立ち上がってエンリルへと視線を向けた。
「マトもいることですし、私も自分の身くらいは守れるつもりです。それに、父上の跡を継いでメソタニアを治めていくのは弟のマルドク。私ではありません」
 きっぱりと言い放つダムキナ、しかしエンリルもすぐに引き下がるわけにはいかなかった。
……恐れながらマルドク様には王としての器が感じられませぬ。聡明なダムキナ様こそ、この国を良き方向へと導いてゆけると、私は思います」
 ――彼女を王とし、その王配となってメソタニアを裏から操る。
 それがエンリルの考えている策だった。
 エンリルは心の内を微塵も見せぬよう偽りの微笑みを顔に張り付けて、にっこりと笑って見せた。
「話はさておき、今日は貴女に贈り物を献上したく参りました」
 そう言ってゆったりとした袖の中から取り出したのは、一輪の花を模した髪飾りだった。
「ダムキナ様に似合うと思いまして……あまりお気に召されませんでしたか?」
 髪飾りを取り出した瞬間、ダムキナの手がかすかに護身用のナイフに伸びたのをエンリルは見逃さなかった。
 袖の中には自分の護身用のナイフも入っている。ナイフを抜くとでも勘違いされたのか。ダムキナが宥めたとはいえ、マトはまだ威嚇するかのようにエンリルを睨みつけている。そんなに物騒な気を醸し出していただろうかと、エンリルは少し反省した。
……いいえ、ありがとう。綺麗だわ……
 ナイフには手をかけず、髪飾りを手に取りまじまじと眺めるダムキナを見て、エンリルは内心ほくそ笑んだ。
 と、不意に髪飾りを握りしめたダムキナの眉が悲しげに顰められた。
「でもね、エンリル。私は飾られるために育てられ、最後には手折られる花より、野に咲く小さな花――最後まで自分の力で咲いて散っていく……そんな花の方が好きなの。そして、私もそうありたいと願っている。でも、貴方が欲しいのは飾るための綺麗な花……違うかしら?」 
……いえそんな」
 言葉を濁したが、エンリルには分かっていた。彼女は傀儡として扱うには、少々賢すぎる。仮に王位を継いだとしても、ダムキナはお飾りの女王でいることを良しとしないだろう。
 だが、そこまでは、エンリルの想定の範囲内だった。彼女を動かすために、何も正攻法を使う必要はないのだから。
……貴方のくれた髪飾り、せっかくだから着けてみたわ。どうかしら?」
 ただ、一つだけ誤算があった――いや、たった今、誤算が生じてしまった。
 女ならば喜ぶだろう――それだけの理由で選んだはずの贈り物を身に着けた彼女を、エンリルは美しいと思ってしまった。心のうちに決して浮かんではいけない感情が湧き上がりつつあるのを感じて、エンリルは思わず顔を背けた。
……エンリル?」
 ダムキナに顔を覗き込まれて、エンリルは大きく咳払いをした。
「コホン! そ、その、よくお似合いですよ。私が思っていた以上に、貴女には花が似合うようです」
「そう、ありがとう。せっかくだからマルドクにも見せてくるわ。行きましょう、マト」
 去っていくダムキナの背中を見つめながら、エンリルはこの策を諦めることにした。
 動揺は隠し通せただろうか。――まさか、この私が利用するはずの相手に心を奪われそうになるなんて。
「ならば……王子を利用するしかないですね……
 エンリルの小さな呟きは誰に聞こえることもなく、風に流れていった。