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望月 鏡翠
2025-03-19 12:28:16
910文字
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日課
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#1664 「沈の箱」「当期」「これ見よがし」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
これは災いを呼ぶものだと一目で理解した。座敷の奥から恭しく差し出されてきた禍々しい箱を前に、私は背中に冷たい汗をかくのを感じていた。
それは細かい装飾が施された美しい箱だった。艶やかな漆の黒。金の蒔絵で美しい庭の風景を描きだしている。光の当たり具合で色合いを変えて見せるのは、貝の真珠質を埋め込んだ螺鈿の色なのだろう。
「これは?」
古物に対して理解のない私は、それが美しい箱であるということ意外わからない。どういう謂れのあるどういった存在なのかは、持ち主に尋ねなければならなかった。
基本的な物品の知識を身につけることを当期の業務上の目標にしようと店主に言われていたこと思い出し、別の意味で胃が痛くなった。しかしその現実的で俗っぽい感覚が未知の存在に対する脅威を少しだけ和らげてくれた。
「これは、沈の箱です」
言われてもわからなかったので調べてみる。
これ見よがしに呆れた顔をされたが、新人ですと冒頭で挨拶をしているし、研修中と腕章もついている。そんな嫌そうな顔をされる筋合いはなかった。
どうやらそれはお香の道具とお香をセットでしまって置ける箱、ということらしい。蓋が開かれるとき緊張したが、蓋が開くだけでは悪影響はないと持ち主はいった。
この手の呪物の類の性質を持ち主が正しく把握していることは稀だ。そうであるなら、相談など持ち込まれるはずがないのだから。
だから悪影響はないと言われても嫌なものは嫌だったが、開けなければ仕事が進まないのも事実である。
中には小さな刃物が入っていたが、使われた形跡はない。血がべっとりとついているだとか、髪の毛がみっちり詰められているということもなかった。というか、未使用だ。
中の道具も綺麗に飾られていて、実用性があるようには見えなかったし、艶やかな表面には指紋ひとつついていない。
香木の良い匂いが染み付いていた。中の道具からは禍々しさは感じない。ということは問題があるのは、外側の箱の方だろうか。
所感を記入していく。
調査期間は一週間。その間に、この箱に憑いているものなのかを解き明かし、然るべき実働班に連絡をするのが私の仕事だった。
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