2025-03-17 23:29:08
4204文字
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はじめてからずっとお前だけ

「初体験いつ?」と訊かれて18ちゃいのプライドで嘘をつく🐍さんと、本当のことをすぐさまバラしちゃう☀️くんのスカラモブ巻き込み事故ラブコメ風味ペペロンチーノです。ペペロンチーノ食べたい。

 砂漠の夜は冷える。しかし魔法によって天候、気温、湿度が管理されたスカラビア寮内は薄着で過ごすには少し肌寒いものの、快適な気温が保たれている。それでも暖を取りたいのか、手にしたコップに視線を落としてここでも酒が飲めたらな、と零したのはすでに飲酒が許される年齢になった四年生の寮生だ。
 当然ながら、未成年も在籍する学び舎であるナイトレイブンカレッジの敷地内に酒類の持ち込みは禁止されている。だからこそスカラビア寮談話室で頻繁に開催される宴も、酒絡みのトラブルとは無縁の健全で楽しいものになるのだとジャミルは考えている。が、今、そのボーダーをシラフで飛び越えようとする者がいた。
「ぶっちゃけ初体験いつよ? みんな」
 その蛮勇を冒した者もまた、四年生である。
 ナイトレイブンカレッジの四年生はインターンに出ており学内にいることはほとんどないが、ときおり所用で学園に来る生徒もいる。そしてついでとばかりに、己が在籍する寮に顔を出すことがある。今日も、問題児の巣窟と一部で囁かれるナイトレイブンカレッジの中でも比較的……表向きは穏やかな気質の者が多いスカラビア寮の四年生の数名が、後輩たちの顔を見に寮を訪れていた。
 寮にやって来た四年生をもてなす宴は、今年度に入ってすでに数度催されている。昨年度までは宴というほどの規模ではなかった。宴の発起人は言わずもがな、現寮長のカリム・アルアジームである。
 宴がお開きになってから小一時間ほど経ち、時刻は二十三時を回り、宴の会場だった談話室に残った者たちはだらだらとおしゃべりをして過ごしている。ジャミルも片付けを終え、四年生を中心とした輪に混じっていた。
 そんな折、「ここでも酒が飲めたらなぁ」と呟いた四年生はどうやら酒好きであるらしい。
 別の四年生が肩をすくめ、
「寮とはいえ、さすがに学園に酒は持ち込めないからなぁ」
「実は持ってきていたり?」
 茶化すように問う三年生に渋い顔をする。
「しないよ。今問題を起こしてみろ、入学してからこっち、『大人しく真面目に』頑張ってきたのがパアだぞ」
 それなー、と笑い合う四年生たちを見て、スカラビア寮の寮生らしいな、とジャミルは内心独りごちた。
「そういえばアジーム……寮長はどうした?」
 四年生の一人が談話室を見回し、目立つパールグレーの髪と金の装飾が見当たらないことに気づいたようだ。彼はさきほどトイレに立っていたから知らないか、とジャミルは得心して答える。
「カリムは就寝しました」
「早いな!?」
「まあ、寝る子は育つって言うからなぁ」
「去年も遅い時間になるとすぐ寝てたよな。アジームは変わらないな」
 からからと笑う四年生たちだが、その中にカリムでなく、アジーム家長男と会うためにこの宴に参加した者はゼロではないだろうとジャミルは推測する。
 残念だったな。嘲笑いたくなるのを堪え、さりげなく話題を逸らす。
「先輩方は、明日はお早いので?」
「そうなんだよ。朝イチの便でインターン先に向かわなきゃ」
「でも学園に戻ってきて、こうしてお前たちと話してると懐かしくてなぁ。もう少し話していたいな」
 学園生活を懐かしむように微笑む、たった二つだけ年上の男たちを見ながら、ジャミルは二年後の自分はどうしているだろうかとつかの間思いを馳せた。そうぼんやりした隙に、話題は意外な方向へと転がり出す。
「夜も更けたし、ここからは大人の話をしようぜ」
「おっ、いいな」
 大人の話? 酒の好みとかだろうか。宴の準備に奔走し、片付けも終えたジャミルはほんの少し、眠かった。だからニヤリと笑った四年生が卑猥なハンドサインとともに発した言葉に、声を詰まらせた。
「ぶっちゃけ初体験いつよ? みんな」
「んんっ」
「えっ」
「ぼ、僕はまだです」
「俺も……
 周囲の下級生たちもそれぞれ戸惑ったような反応をしたので、ジャミルの挙動がおかしいことに気づいた者はいない。
「先輩たち、それ聞いちゃいます〜?」などと三年生が話題を流そうとするが、酒も入っていないというのに変なスイッチの入った四年生は「今ここにいる奴らだけの秘密な!」とそういう話題で盛り上がる気満々だ。
「ちなみにオレは、二年のサマーホリデーで帰省したときだ! 忘れられない夏になったぜ……
「おお〜」
 言い出しっぺが律儀に明かしてくれた。これで他の者も話さずにはいられない空気になる。
「お、おれは入学前……スクール卒業後の夏に」
 勇敢にも、一年生がおずおずと手を挙げる。マジで、早くね? いやいや、と場が盛り上がる。
「一般論だけど、十六の夏って多いって言うよな」
「それな。ミドルスクール卒業後の夏に卒業って多いらしいな」
「そうなんですか」
 つい相槌を打ったジャミルに、四年生の視線が向く。
「バイパーはどうなんだ?」
「俺は……
 ジャミルは高速で熟慮した。本当のことは言えない。あれは他言無用と約束したし、何より特殊すぎる状況だった。二回目以降のことだって、誰にも知られたくない。かと言って、未経験だと嘘をつくのはジャミルのプライドが許さなかった。では、どうするか? 決まっている。
「俺も、十六の夏ですね」
 今知ったばかりの、無難な回答を。普段通りの表情と声音でさらりと嘘をつくと、周囲は色めき立つ。
「おっ、やっぱそこか〜」
「相手は? 熱砂の国の子?」
「まあ、ミドルスクールのときに、ちょっと」
 わざとぼかして答えれば、それ以上の追求はしてこない。熟慮の精神に恥じない寮生たちである。
「そうなんですか」
「副寮長、大人っぽいもんなぁ」
 後輩たちから羨望の眼差しを向けられ、満更でもない気分になっていたジャミルは、談話室に入ってきた主人の気配に気づくのが一瞬遅れた。
「おっ、お前らまだ寝てなかったのか! 何話してたんだ?」
「カリム、どうしたんだ」
「ちょっと腹がすいてさぁ。キッチンに行こうとしたら声が聞こえたから」
「まったく、夜食は少しだけだぞ」
「わかってるって。で、何話してたんだ?」
 ガーネットレッドの瞳をキラキラ輝かせながら問うカリムに、周囲の寮生たちは教えていいものかと言い淀む。それを気にしないのはやはり、火付け役の四年生だった。
「バイパーは大人だなって話してたんだよ。十六で童貞捨てたらしいぞ」
「ちょ、先輩」
 止めようとするが、時すでに遅し。ジャミルがカリムの様子を伺うと、カリムは訝しげに眉根を寄せていた。頼むぞ、話を合わせてくれ。そんな気持ちでカリムの目を見るが、伝わるはずもなく。
「え? あのときジャミルは十三歳だっただろ? オレの十三の誕生日だったから憶えてるぜ」
「カリム」
「ん? なんだアジーム知ってるのか」
「幼なじみなんだし、知っててもおかしくないか」
「ミドルスクールのかわい子ちゃんなんだろ? 同級生? それとも年上?」
「ええと」
 カリムがじっとジャミルを見ている。まっすぐな視線が痛くて言い淀んでいると、カリムが口を開く。
「なあジャミル」
 まるで、明日の朝メシなんだ? とでも訊くような気軽さで。
「あの時オレとセックスしたのはノーカンなのか?」
「ゲホッゴホッ」
「え? 今なんて」
 とっさに空咳をするが、もちろん何の意味もなく。その場にいた全員の視線がジャミルに集中する。ジャミルはカリムの肩をガシリと掴み、回れ右をさせる。
「カリム、お前寝ぼけてるな。部屋に戻るぞ。――おやすみなさい」
 にこりと微笑み、談話室をあとにする。残された寮生たちがぽかんとした顔を見合わせ、熟慮し――聞かなかったことにしよう、と結論づけ互いに頷きあうまで、そう時間はかからなかった。

 寮長室になだれ込み、ジャミルは再びカリムの両肩を掴んだ。真正面から睨まれたカリムは眉を八の字にする。
「カーリーム?」
「なんだよー、そんなに怒るなって」
「誰にも言わない、そういう約束だったよな」
 カリムが言ったことはすべて真実だ。カリムの十三歳の誕生日、魔法のかかった媚薬を盛られたカリムは発情期の獣の雌ように発情し、性交によって体内に精液を取り込まなければ発狂して命が危ぶまれる状態に陥った。それを助けたのがジャミルである。その後はそういった行為に及ぶことはなかった二人だが、ナイトレイブンカレッジへの入学を機に再び恋人まがいの行為に興じるようになった。
 十三の夏の初体験について、二人が他人に明かすことはなかった。それが突然、カリムがバラしてしまった。そのことがジャミルには信じられなかった。裏切りだ、と。つい数ヶ月前にカリムを裏切った自分のことは棚に上げて、ジャミルは頭に血が上るのを感じた。
 カリムは「うーん」と唸ったあと、顔の前で両手の平を合わせた。
「すまん! ジャミルが他の奴とセックスしたって聞いたらなんかモヤッとしてさ」
 ジャミルはその言葉を聞き、咀嚼するうちに頭が冷えていくのを感じた。今こいつは何と言った? 顔は変わらず熱い。砂漠の夜の寒さなんてどこ吹く風だ。永遠にも思える沈黙の後、ジャミルはぽつりと呟いた。
……してない」
「え?」
「お前以外とは、したことない。……さっきのは嘘だよ」
 カリムは目を丸くし、ぱちくりと瞬きをした。それから花が咲くように笑った。
……そっかぁ!」
「嬉しそうだな」
「んー、何でだろうな? なんか、ホッとしたっていうか。いや、ジャミルならきっとモテるだろうから、そういう相手がいてもおかしくないとは思うんだぜ? でもなんかなぁ」
 うーん? と腕を組んで首を傾げるカリムに、ジャミルは深いため息をついた。
……まったく、鈍感もここまでくると怒りよりも呆れが勝るな」
「んん? どういうことだジャミ、んぅ」
 唇が合わさったのは一瞬。けれど、何度体を重ねても一度もしたことのなかったその触れ合いに、さすがのカリムも理解したようで頬を染めた。その反応を見て満足気に笑ったジャミルは、ぺろりと舌なめずりをする。
「鈍感なお前にもわかるように、丁寧に教えてやるよ」
 カリムは困ったように笑って、それからチャコールグレーの瞳を挑むように覗き込んだ。
「お手柔らかに頼むぜ」
 今宵の砂漠の夜は、熱くなる。