sousakuyamamusume
2025-03-17 19:35:13
2542文字
Public 一次創作
 

彼岸警邏隊4

スギナの娘の名前:ミツキ

「ミツキ……!?ミツキ、ミツキ!!」
 唐突に職場でスギナが叫んだのは、確か……
「どうしたの、自分の娘の名前なんて叫んで。」
 そうだそうだ、こいつの娘の名前だ。『ミツキ』。元々霊感があったが故にそばに居たスギナも霊感に目覚めるきっかけとなった存在。で、スギナが『天使みたいなかわいさだろ?』とか言ってた子。
「ミツキが呼んでるんです。助けてって、だから俺、いかなきゃで」
「コール。」
「言われなくても。」
 ツルギに呼ばれる前に出発準備はしてましたよ、と。多分止めても飛び出すんだから止めるよりいっそ護衛としてついてったほうが早いってもんだ。
「ミツキ、ミツキ!くそっ、俺の力じゃ声は届かないか……!」
「スギナ。可能な限りでいいから本名は呼ばないように。」
「だったらなんて呼べば!」
「エンジェル、でいいんじゃねぇか?」
 こうして、作戦コード『天使奪還』が始まった。

……巻きこんでごめん、旦那。」
「お前が悪いわけじゃねぇんだ。余計なこと考えてないで集中しろ。」
 目を閉じる。ミツキの声に集中する。可能な限り、同じものを見られるように。
『う、海?ううん。この街に海はないはず。じゃあここ、どこ?やだ、こわいよ、助けて、パパ』
――ッ」
 聞こえている。なのに、すぐ助けに行って抱きしめてやることすらできない。自分自身が不甲斐ない。
「スギナ、天使様はどこにいる?」
……海、だそうだ。」
「海ィ?この街に」
「海はない。み……エンジェルも、それはわかってる。」
 本名は呼ばない。既にテリトリー内である可能性もある。ここで俺が本名を呼んでミツキが帰ってこられなくなったら、俺は自分自身を許せない。
『あなた、だれ?わたしを、よんでたの?』
……対象、何者かと接触。こいつが、呼んだのか?」
 俺の、ミツキを
……潮の匂いだ、テリトリーに入ったな。」
……ああ。」
 沢山の泣き声が、聞こえる。ここから出してと、泣いている。

「ご、ごめんなさい。知らない人にはついてっちゃだめって、パパもママも言ってるの。」
 こわい。
 いっぱいの人が『おいで、おいで』って言ってる。ついてっちゃだめなのに、身体が勝手にうごきそうで、なのに足は全然動かなくて。いやだ、こわいよ、たすけて
「だめ、だめ……いや!こないで!」
 たすけて、パパ……
――伏せろ!」
「だ、誰!?」
 おっきな声がして、ばさっとおおいかぶさられて……
「パパ、パパ!」
……怪我はないか?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ついてっちゃだめって、いわれたのに」
「大丈夫、大丈夫だ。パパがついてるからな。」
 パパ、たすけにきてくれたんだ……

「さて、天使様を保護できたところで、こっからどうするか。」
 後先考えずにこいつが『保護』に突っ走ったせいで敵陣ど真ん中だ。っつっても、猶予はなかったから多少準備した程度じゃたいして変わらなかったろうが。
……首謀者がいる。」
「やりあうってのか!?」
「俺の『天使』だけじゃない。多くの子どもがここに呼ばれて取り残されている。聞こえる。助けを呼んでいる。」
 スギナがリボルバーを抜いた。そして
――海から来るぞ、旦那。」
「おいおいおいおい……。」
 浦島太郎にしちゃ亀がでけぇな、なんて考えた。象か?ってぐらいデカい。で、その上に誰かいやがるな……
「ひっ……
「大丈夫。パパもこのおじさんも強いからな。」
「誰がおじさんだ、誰が。」
 しかしまぁ、なんというか。
 覚悟決めたこいつに喧嘩売った奴には同情さえしたくなる。
「旦那。」
「なんだい、パパさん。」
「しばらく天使を預かっててくれ。俺よりあんたの『護り』の方が安心できる。……このおじさんが話し相手になってくれるみたいだから、ちょっとの間まっててな。」
「おーけー。」
 あれよあれよという間に、スギナの奴は亀の上によじ登っていた。

「邪魔するのですか。」
「閉じ込めた子ども達を返してもらおうか。」
「遊んでいるだけですよ。それに、ここから出たところですぐ死ぬ子もいるのに。」
「それは、お前が閉じ込めたままにしていい理由にならない。」
 ……パパと、おねえさん?がけんかしてる。
「ほんとのお名前言っちゃいけないってのはわかるか?」
「うん。パパが言ってた。『わるいやつは名前を聞いてくるから、絶対に答えちゃ駄目だ』って。」
「よく守れたな。」
 おじさんが撫でてくれた。ちょっと痛い。
「パパ、大丈夫かな。」
「大丈夫だ。お前のパパさんは強い。喧嘩が強いってわけじゃないけど、ここぞってときは絶対勝つやつだ。」
 そうなの?
 というか、そうだ。
「なんでここがわかったの?」
「あいつはお前のことになると人一倍すごいんだ。」
 パン!と、音がした。かけっこのときに聞く音、かな?じゃあ。
「パパ、かけっこするの?」
「どうだろうな。」

「略取・誘拐罪、逮捕・監禁罪、公務執行妨害だ。」
 せめてミツキに見えないように背を向けつつ、誘拐の主犯に捕縛弾を放つ。霊力が使えないようにする特殊性の弾だ、この結界もじきに崩壊するだろう。
「なっ……!」
「取り調べは後日じっくり行わせてもらう。それから……ッ!」
 足元がぐらりと揺らいだ。慌てて飛び降りると、巨大な亀がパチンと弾けた。
「たすかっ、た?」「おそとだ、おそとだ!!」「ありがと、おじさん」「ばいばい、おねえちゃん」
 ……ああ、そっか。この亀がこの子達を入れる檻だったんだ。
「こんなことして、ただで済むとは思わないことね。貴方は身勝手な真似するから、永遠に生きられるはずだったあの子たちは死んだ。お前は地獄に堕ちるだろう!」
「わかってるさ。俺が、娘と同じ所に逝けやしないことぐらい。」
 それでも俺は助けるんだ、『ここから出して』と泣く子のために。……例え、その後でその子達が死んでしまうとしても。
「よ、お疲れ。身柄の引き渡しは俺がやっとくぜ。」
……ありがとう、旦那。」
 泣きつかれて寝てしまったミツキを抱き上げながら、願う。
 せめてこの子と妻だけは、守り抜けますように。