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haru_haru0704
2025-03-17 19:24:35
5317文字
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おかえりなさい
忌炎×哥舒臨 全年齢
精神に異常をきたした哥舒臨さんと忌炎の話
つい3日前のことだ。
哥舒臨将軍・・・いや、哥舒臨"前"将軍が、数年ぶりに破陣基地へと帰ってきた。
忌炎は初め、彼のことを溯洄雨の幻覚だと思った。しかし、すぐに違うと気づいた。
なぜなら、雨など一滴も降っていなかったからだ。むしろ空は雲一つなく晴れ渡っていた。
「か、哥舒臨・・・将軍」
忌炎がそう呼ぶと、彼はきょとんとした様子で首を傾げた。
「ん?誰だお前・・・いやそれより、ここはどこだ。ずいぶんと辺鄙な場所だな」
哥舒臨はすぐさま今州城内へと連行された。
そして各種検査を受け、そのまま湾刀の戦いに関する審問に移る──はずだった。しかし審問は行われず、彼の身柄は再び夜帰軍に預けられた。
その理由は、『彼は精神に異常をきたしており、今の状態では正常な証言が得られるかどうか不明』というものであった。
***
【1日目】
原因は不明だが、哥舒臨さんの周波数は大きく歪んでいる。おそらくそれが理由で、精神に異常が出ているのだと思う。
本日(⚪︎月⚪︎日)を1日目とし、彼の状態を毎日記録していくことにした。
記録することで、何か少しでも症状改善の手がかりを掴めたらいいのだが・・・
それはさておき、今日の哥舒臨さんは部屋の中で1日中ぼうっと座っていた。
「哥舒臨さん」
「・・・・・・」
「哥舒臨さん?聞こえていますか?」
「・・・・・・」
忌炎は何度も哥舒臨の名を呼んだが、返事が返ってくることはなかった。
彼は空虚な表情で、じっと一点を見つめている。
「哥舒臨さん・・・」
忌炎はその日、何度も哥舒臨を呼んだ。しかし、彼が反応を示すことは一度もなかった。
【2日目】
哥舒臨さんの精神状態は、日によって大きく変動するらしい。
今日の哥舒臨さんはひどく懐疑的で、そして何かに怯えている様子だった。
俺が話しかけたことで、かなりのストレスを与えてしまったに違いない。
「哥舒臨さん、調子はどうですか?」
声をかけると、哥舒臨はぎらりとした目つきで忌炎を見た。
少し興奮しているようだが、動きはゆっくりとしていて何だかぎこちない。
「お前、お前がやったんだろうが」
「はい?やったって何の話・・・」
「俺を見るのはやめろ!見るな!わかってるんだぞ、わかってる、お前らが俺をつけ回してるのは!」
哥舒臨は目をきょろきょろとさせながら立ち上がり、近くに置いてあったデバイスを掴んだ。
そして、力いっぱい床に叩きつける。
がしゃん!と大きな音を立て、デバイスは壊れてしまった。
「哥舒臨さん、落ち着いて・・・何もしませんから」
「うるさい!じゃあ今すぐ盗聴をやめろ!俺の考えを盗み見するな!」
「わ・・・わかりました、やめます。すぐにここから出ていきますから、落ち着いて」
忌炎はそろそろと後ずさり、哥舒臨の部屋から退出した。
【3日目】
今日の哥舒臨さんは子供のようだった。
以前から、たまに子供じみたことをする人ではあったが・・・それとは全く違う。まさに子供そのものだった。
しかし、本人は特につらくはなさそうだったのがせめてもの救いだ。
「お兄ちゃん、だれ?」
「あ、ええと・・・俺は夜帰軍の将軍、忌炎です」
忌炎がそう名乗ると、ぱぁっ・・・!と哥舒臨の表情が明るくなる。
彼はキラキラした目で忌炎を見つめると、その腕に縋りついた。
「しょうぐん!?かっこいい!」
「・・・ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
忌炎はやや躊躇いながら、哥舒臨の頭を撫でた。
いかに子供らしく振舞っているとはいえ、見た目は忌炎とほぼ同じ体格の成人男性である。さすがにちょっと撫でづらい。
「えへへ・・・しょうぐん、やさしいね」
哥舒臨はふやけた笑みを浮かべ、嬉しそうにしている。
あまりにも哥舒臨らしくない表情に、忌炎は居心地の悪さを感じた。
【4日目】
今日の哥舒臨さんは、元気がなく落ち込んでいた。
しかし、今までで一番まともに会話ができたかもしれない。
俺のことも覚えてくれていたようだ。
「哥舒臨さん、今日は・・・どこか具合が悪いですか?」
哥舒臨はベッドの上で毛布にくるまり、ぐったりとしていた。
一瞬寝ているのかとも思ったが、彼の瞼はしっかりと開かれている。
「・・・ああ・・・忌炎・・・」
「大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫だ、ただ少し・・・体が重くて、起きられないだけで」
そう訴える哥舒臨に対し、忌炎は一通りの診察を行った。
しかし、身体的に異常はなかった。発熱や喉の炎症はなく、呼吸音も正常だ。
「風邪などの感染症ではないようです」
「ああ、そうだろう。俺は何もないのに横になっているだけだ・・・」
「心因性の体の重みがある・・・ということですね」
忌炎がそう言うと、哥舒臨は自嘲するように笑った。
「そんな大したものじゃない。俺はただ、状況に甘えて・・・自堕落に過ごしているだけに過ぎない」
「哥舒臨さん・・・」
「それに比べてお前はすごいな、忌炎。医者としての知識も腕もあるのに、将軍としての務めも果たせるなんて」
そう言われ、忌炎は思わず謙遜しそうになった。
しかし、今の哥舒臨にマイナスな言葉を聞かせるのはあまり良くなさそうな気がして、踏みとどまる。
「・・・そう、ですね。俺はすごいです。でも、哥舒臨さんもすごいですよ。厳しい戦況の中、ずっと頑張っていたじゃないですか」
「だが、結局は失敗した」
「それでも、俺はあなたを尊敬しています」
「・・・・・・」
【5日目】
今日の哥舒臨さんは、自分から血と雨と腐敗臭の混じった臭いがすると言っていた。
一応嗅いでみたが、当然そんな臭いはしなかった。
「哥舒臨さん、調子はどうですか」
「忌炎・・・悪いな、ひどい臭いがするだろう」
「臭い、ですか?特に何も感じませんが・・・」
哥舒臨は自分の両手を開き、それをじっと見つめた。
「嘘だ。俺の手が臭うだろう。血と雨と、それから腐敗臭・・・戦場の臭いだ」
忌炎は彼の手を取り、鼻先に近づけた。
嗅いでみるが、当然何の臭いもしない。むしろほのかに石鹸の香りがする。
「石鹸の香りしかしません」
「お前、よく平然と嘘がつけるな。今日の飯を持ってきた兵も、この部屋の前を通り過ぎた兵も、臭い臭いとつぶやいていた」
「・・・・・・」
明らかな妄想に、忌炎は閉口した。
いくら臭わないと否定したところで、哥舒臨は聞く耳を持たないだろう。
今日はあまり刺激するようなことは言わず、そっとしておいた方がいいかもしれない。
【6日目】
哥舒臨さんが急にダイエットをし始めた。
おそらく、これも精神異常の一種なのだろう。
ともかく、あまり激しい症状ではなくて安心した。
「哥舒臨さん、今日の朝ごはんを食べていないと聞いたのですが」
「ああ・・・ちょっと、ダイエットしようと思ってな。今朝の飯はシチューだったから、食べるのをやめた」
「ええと・・・もっと低カロリーのものが食べたいということですか?」
「そうだ」
哥舒臨の身体は今でも引き締まっており、特に太った様子は見られない。
だがしかし、最近は部屋に篭り気味なのも確かだ。多少カロリーを控えるのは、良いことかもしれない。
「じゃあ、一緒に作りに行きませんか?あなたが食べたいと思うものを作りましょう」
忌炎の提案により、2人は並んで厨房に立つことになった。
哥舒臨は「これは白いからカロリーが高そうだ」などとよく分からない理論で食材を選んでいたが、それ以外は特に大きな問題もなく、無事に食事を作って食べることができた。
【7日目】
今日の哥舒臨さんは、何かに取り憑かれたかのように奇妙な動作を繰り返していた。
本人も無駄な行動と分かっていたようだが、どうしてもやめられなかったらしい。
哥舒臨は本をパラパラと捲り、適当なページをパッと開いた。
そしてページ数を確認し、溜息を吐きながら本を閉じ、またパラパラと捲っては開いて・・・を繰り返している。
「哥舒臨さん、どうしたんですか?」
「・・・128ページ目を一発で開かないと」
「開かないと?」
「何か・・・とてつもなく悪いことが起こる気がする、いや起こる。絶対に起こる」
「悪いこと・・・なるほど」
「・・・笑わないのか。そんなことをしても無駄だと」
どうやら彼自身も、その行動について疑問を持っているようだった。
無駄だと伝えるべきか、無駄ではないと伝えるべきか。
少し迷ってから、忌炎は答えを口にした。
「無駄ではないと思います。大丈夫、今日は俺も時間がありますし・・・成功させてスッキリしましょう」
そう伝えると、哥舒臨はほっとした様子を見せた。
静かな部屋に、ページを捲る音が響く。
・・・・・・。
彼が目的のページを開くまでに、そう時間はかからなかった。おそらく、5分くらいだろうか。
「やりましたね、哥舒臨さん!」
「ああ・・・よかった。これで大丈夫・・・大丈夫なはずだ」
【8日目】 ※代理記入者:カカロ
今州城内に出向いている忌炎の代わりに、哥舒臨の様子を記す。
昼頃までは特段おかしな様子もなかったのだが、夕方頃に興奮し始めた。
マシンガンのように切れ間なく喋り続け、気づいたら3時間が経過していた。
しきりに忌炎が不在であることを気にしていたように思う。
それと、哥舒臨が見張り台をひとつ壊してしまった。止められず、すまない。
「こんな基地があるからこそ残像はここ目掛けて進軍してくるんだ。この基地が無ければ残像は目的地がなくなって俺たちも戦わなくてよくなる、きっとそうだお前もそう思わないかカカロ」
「いや、その理屈は変だ」
哥舒臨はほとんど息継ぎなく喋っている。彼の話の内容は支離滅裂とまではいかずとも、かなり思考が飛躍していると言えるだろう。
カカロは相槌を打ったが、哥舒臨は聞いているのかいないのか。おそらくは、ほとんど聞いていないのだろうとカカロは思った。
「ところで忌炎はどこに行った、一応今はあいつが将軍だからあいつの許可をもらおうかと思っているんだが今はここにいないのか?」
「忌炎は今州城内にいる」
「そうかならしばらくは帰ってこないな、じゃあ今すぐやってしまおうお前もそれで異論はないな、さすが俺は仕事ができる男だ思い立ったらすぐにやるのがいい、そうだろう」
「は?おい、何をするつもりだ?」
哥舒臨はガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がると、猛烈な勢いで走り出した。
カカロは慌ててその後を追う。
忌炎から、『哥舒臨さんはあまり活発に動くことはない』と聞いていたのに。滅茶苦茶に活発だ。
「ははは!まずは手始めにそこの見張り台から壊してやる!」
「何だと!おい壊すな!」
共鳴能力と筋力をフルに活用して暴れ回る哥舒臨はなかなか手強く、鎮圧には数十分を要した。
結果として、見張り台ひとつが大破した。
【9日目】
俺がいない間に、哥舒臨さんが暴れてしまったらしい。
カカロには迷惑をかけたな。
それはさておき、今日の哥舒臨さんはまたもやひどく怯えていた。
しかし、以前の症状とは少し異なっていたように思う。
以前は自分に向けられる悪意に怯えていたようだったが、今日は俺の姿が見えなくなることに対して怯えていた。
「忌炎!忌炎・・・ッ」
「はい、どうしました?」
「行くな、どこにも・・・!お前がいなくなると、俺、俺は、ッ」
哥舒臨は息を荒らげ、忌炎の服を強く握りしめた。
あまりにも強く握っているものだから、指に血が流れず白くなっている。
「昨日は不在にしてすみませんでした・・・今日は、いえ今後もずっと、極力ここにいますから」
「極力・・・ああ、駄目だ、今日はずっとここにいろ・・・!お前の姿が見えないと不安で、心臓が破裂して死んでしまいそうで苦しいんだ!」
「わかりました。今日はずっとここにいます」
その約束通り、忌炎はずっと哥舒臨の部屋にいた。
トイレや風呂の時でさえ哥舒臨は忌炎に着いてきたがり、それを何とか宥めるのが大変だった。
【10日目】
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【100日目】
とうとうこの記録も100日目。
哥舒臨さんが戻ってきた当初と比べると、かなり症状は和らいできていると思う。
時間はかかっているものの、彼の周波数の歪みは少しずつ修復されていっているのだ。
このままいけば、いつか完全に治癒する日が来るのかもしれない。
・・・それはさておき、今日の哥舒臨さんは1日中ご機嫌な様子だった。
適当な兵士を捕まえて楽しそうに剣の稽古をし、いかにも美味そうな顔で2人前の昼食を平らげ、鼻歌を歌いながら厨房に行って、何かをしていたようだ。
「忌炎、今日の晩飯はどうだ?」
「美味しいです。この今州シチューが、特に」
「そうだろう。俺が丹精込めて作ったからな」
哥舒臨はニッと笑った。
彼が将軍だった頃と同じ笑い方だ。
忌炎はなんだかうれしくて、なつかしくて・・・つい涙をこぼしてしまった。
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