ユウキ
2025-03-17 16:19:13
3246文字
Public ストグラ二次創作
 

魂からの叫び

#ヘラシギカメラロール

桃園寺視点観測者による、店長(?)と桃園寺(?)のお話。

※店長の解像度はそんなに高くないと思われます。何でも許される方向け。
※店長ファンの皆様、怒らないでください。すみません。先に謝っておきます。

魂からの叫び



 物陰に潜み、息を殺した。
 スマホを構えこっそりとレンズを向ける。
 ターゲットに気付かれないよう密やかに成功させねばならない。


 ヘラシギはある重大なミッションに挑んでいた。
 何故だか分からないが、彼の魂が、強く、強く求めているのだ。「彼の写真が欲しい」と。
 彼の標的は、派手な桃色の髪の男、桃園寺紀土。
 いや、正確には違う。あの真面目だか不真面目だか分からない几帳面な男が、ひたすらに隠し続けていた真の姿。

 ―――天鳥迦具夜。

 二人で秘密の話をしたあの時の、彼の艶やかな黒髪がどうしても忘れられなくて。何故だか良く分からないけれど、魂が叫びだしそうなほど、彼の姿を求めている。
 もう一度この目に焼きつけたい。写真に残したい。
 強い衝動に駆られ、ヘラシギはずっとチャンスを伺っていた。
 あの桃色の髪はカツラだ。ということは、生活していればどこかで外すチャンスはあるはず。
 ヘラシギはありとあらゆる場面を想定して、桃園寺がカツラを脱ぐ場面に偶然出くわそうと努力した。
 だが一年以上の長い間、誰にもそれがカツラだとバレなかっただけのことはある。
 日常生活の中で、桃園寺は一切の隙を見せなかった。
 ならばもう風呂を盗撮するか、寝込みを襲うしかない。
 さすがに社宅の風呂にカメラを仕掛けるのは気が引けた。そんな犯罪を犯すのはさすがに違うだろう。そんな店長はヤバすぎる。
 となれば、もう寝込みを襲うしかない。
 正確には、彼が寝入った隙にちょっとチラ見させてもらう。
 そんな、難易度の高いミッションを己に課し、ヘラシギは桃園寺がカツラを脱いで眠るチャンスをひたすらに待った。
 
        ※ ※ ※
 
 桃園寺はいつも社宅のソファーの隙間で眠っている。
 何故ちゃんとベッドなりソファーなりで寝ないのか、ヘラシギには理解できない。きっと彼にも何か事情があるのだろう。いつか話してくれたらいいな、と思いつつ、隙間に潜り込む彼を物陰からこっそりと見守る。
 今日は店も忙しかったし、桃園寺も疲れているはずだ。
 魂が叫んでいる。今日がチャンスだと。
 ヘラシギが物陰に隠れしばらくすると、桃園寺がいつものようにソファーの隙間に転がるのが見えた。息を殺しチャンスを待つ。しばらくして、静かな寝息が聞こえてきた。
 充分すぎる時間を待って、ヘラシギは物音を立てないように、眠る桃園寺の側へ寄る。熟睡しているのなら、少しくらいカツラに触れてもバレはしないはず。スマホのレンズを向け、そろりそろりと手を伸ばした。
 その瞬間。
―――!?」
 突然、視界がぐるんと回る。背中に走る強い痛み。
 何が起きたのか分からないうちに、天井が見えた。
 首に冷たい感触の物がグッと押し付けられ、ヘラシギは息を呑む。
「チッ」
 大きな舌打ちが聞こえ、そこで初めて引き倒されたのだとヘラシギは気付いた。 
……はぁ。何のつもりすか、店長」
 呆れたような不機嫌な声が頭上から聞こえる。
 冷ややかな視線を向けて来た桃園寺が、首に押し付けていた物をやれやれと離した。
 その手にあった物がソムリエナイフだと気付き、背中を冷や汗がつぅと伝っていく。
……ご、ごめんな、紀土? ちょっとした事情があって……
「正座」
「あっ……はい……
 有無を言わせぬその物言いに、ヘラシギは思わずその場で正座するしかなかった。

    ※ ※ ※
 
「人の寝込みを襲おうなんて、店長には百万年早い」
 呆れた声色に言い返す言葉もない。
 ヘラシギはぷるぷると子犬のように震えながら、正座で縮こまっていた。
 まさか、あんなに熟睡していたはずなのに、こうなるだなんて思ってもいなかった。
……よ、良く気付いたね、紀土」
「まぁ、寝込みの襲撃は慣れたもんなんでね」
 溜息を吐く桃園寺の口調は、いつもより少し荒い。
 眠気で語気が荒いというよりは、素が出ているのが近いのかもしれなかった。
 こんな素の彼を見れるのだったら、説教をくらうのも悪くはないな、とも少し思ってしまう。
 思わず口元を緩めると、桃園寺が呆れたように息を吐いた。
「で? 寝首掻いてどうするつもりやったんや?」
 圧のある声でそう言われ、ヘラシギは何故か背筋をピンと正した。敬意を払わないといけないような、計り知れない迫力を感じずにはいられない。
 これが本来の紀土の、いや天鳥迦具夜の迫力か。そう思うとなんだかソワソワする。
 ヘラシギはもう、誤魔化すのを止めた。
「何を言ってるのか分かんないかもしれないけど、『迦具夜』の姿が見たいなって、無性に思ってしまって……
「はぁ??」
 呆れたように片眉をひょいと上げる桃園寺。
「無理を言ってるのは分かってる。分かってるよ? でもなんか、どうしても見たくなっちゃって。へへ」
 自分でもおかしいよな、とは思うのだが、それでも魂が叫ぶのだから仕方ない。ヘラシギは正直に言って、真っ直ぐ桃園寺を見つめた。
「はぁ」
 桃園寺は顎に手を当て、コテンと小首を傾げる。
 普段の彼があまりしない仕草だな、とヘラシギは何となく思った。
 こちらを観察するような、鋭い視線が突き刺さる。
……ごめんな、ほんと夜中に起こしちゃって。こっそり見ようだなんて悪かった。でも、どうしても衝動が抑えられなくて。なんか魂が疼いちゃって……
―――ええよ?」
「え?」
 ファサ、と空気が揺れる。
 派手なピンクのカツラが床に落ち、艶やかな黒髪が広がった。
「!?!?!?!?」
 突然のことに、声を上げることもできない。
「これでええ?」
 長い黒髪をかき上げ、『迦具夜』が微笑んだ。
「わ、わ、わぁ……、わぁ………
 同じ顔、同じ声のはずなのに、まるで別人のようにガラッと変わった姿。
 烏の濡れ羽のような漆黒の長い髪。
 魂が「これだよ、これ!!」と煩く騒ぎだす。
「しゃ、しゃしん! 写真、撮ってもいいですか!?」
 何故か気持ちの悪い物言いになってしまうが、気にしている場合ではない。
 思わずスマホと向けようとすると、その手を迦具夜がパッと掴んだ。
「それは、欲張りすぎやんな?」
 正座して見上げるその目を覗き込むようにして、迦具夜が頬に触れてくる。
 長い髪が、サラッとヘラシギの顔に掛かった。
「写真はNGなんだ。すまんな」
 そう言って、パチリと片目を瞑る迦具夜。
 ふわりと香る白檀の香り。
「わぁ……、髪カーテン……、迦具夜すごい……、ぐふっ」
 口から魂が出るような感覚がして、ヘラシギはスマホを握りしめたまま、昇天するようにパタリと倒れた。
―――まったく。また厄介なことになりやがって、コイツ」
 遠のく意識の中、呆れたように呟く声が、ヘラシギの耳に微かに届いたのだった。
 
       ※ ※ ※
 
 後日、いつの間にか偶然撮影してしまったらしい写真をカメラロールに見つけ、ヘラシギはまたも口から魂を出すことになる。
 それは、長い黒髪から覗く、あまりにも鋭い迦具夜の目元の写真だったとかなんとか。 

                          おわり








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あとがき的なヤツ

すいません、カメラロール、と聞いたらこれしか出てこなかった。
ヘラシギというより魂のお話になってます。

桃園寺視点から見る店長、
半分くらい魂はみ出てる私利私欲スペシャルの印象があまりにも強いので……
魂でかけてあわあわする店長が好きでした。

平和なまま進んだ世界線だったら、もっと二人の絡みが見れたのにな。
まままらないものですね。
店長には天界で、迦具夜さんがそっちに逝くのを全力で阻止していただきたいです。