「はああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
何度目かの溜息の音が馬鹿みたいにでかい。もはや溜息の範疇を越えている。
「なんで生き返らせちゃったんですかあ!!!!」
この愚痴もすでに何度も繰り返されている。大声で。彼が意識を取り戻した瞬間からずっと。
「せっかく悪役のままかっこよく死ねたのにいいいいいいい。もおおおおおおおお、あなた達はなんにもわかってない!!!! ブレイドもブレイドですよあんなお気楽男に共に生きようとか言われても僕も困る!!!! 苦労してやっと殺したんだからそのままほっといてくださいよおおおおおおお」
「匁、もう少し静かになさい」
「鬼の力でぽんぽん殴らないでください痛いです!!!」
傍らを歩く刀鬼が、鞘姫の目配せを受けて匁の後頭部をはたく。音量はいくらか下がったが、まだ匁はぶつぶつと文句を言い続けている。
門の手前でそれを見ていたキザミは思わず吹き出していた。抱える思いは複雑だったが、渋谷の主従は付き合いが長いだけあって良いコンビネーションだ。
鞘姫がキザミに気づいて目礼し、匁がやっと口を閉じた。刀鬼が脚を止め、匁を前に押し出す。
フードを深く被って俯く匁に、以前を思い出してふと懐かしさを覚えた。懐かしいと云う程、時間は経っていないのだが。
「
……よう。元気か」
我ながら間が抜けていると思いながら、他にかける言葉が浮かばない。
鞘姫と刀鬼は少し離れたところで仲良く明後日の方向を見ている。空を指して天気の話でもしているのだろうか。気を使わせてしまった。
「元気な訳ないでしょう。御存知の通り、死にましたからね!」
匁はいつもの調子でまくしたて、少しだけ笑った。意外にも柔らかい笑みだった。こんな顔も出来るのか。
「あなたも新宿で死にかけたんだ。お互い様です」
「だな」
「聞きましたよ。あなただけは僕に桜花を使うことを良しとしなかったと」
「
……うん」
キザミは深く息を吸って、長々と吐いた。相変わらず繊細な部分にずばずばと切り込んで来る。その鋭さは彼の剣筋にも似ている。
「犠牲が多すぎた。それに、おまえは戻って来たくないかも
……と思って」
「なぜです?」
匁は飄々と聞き返す。だが心がどこにあるのかはわからない。匁はそういう性質の男だ。
「百目が言ってたんだ。おまえが渋谷を出た時に」
風水師の言葉を心の中でなぞる。何度も思い出してはその意味を考えていた。
「人も鬼も滅ぼしてこの世界に唯一人残るとしたら、それは永遠の孤独を望むのと同じことでおじゃる
……てさ」
「だから、僕を殺してくれたんですか」
「
……いや。そういう訳ではない。と、思う
……けど」
上手く言葉に出来ず、キザミは言い淀む。ただずっと噛みしめるように考えて続けて来た。結局は最後の最後までわからなかったが。
「まあ、戻りたかったと言えば嘘になる。戻ったところでこれですからね」
匁は両手首に嵌められた枷を持ち上げてみせた。匁は咎人として渋谷クラスタに預けられ、ブレイドが処遇を決めるまでは蟄居の身だ。
今、王たるブレイドは眠っている。多くの盟刀の力を借りた代償に、体力気力のすべてを使い果たしたらしい。
「それでさ
……あの
……おまえがもし」
「その時はもう一度僕を殺してください」
キザミの言葉を遮りながら匁の声は変わらず柔らかい。真意を捉えかねてキザミは思わずフードの下を覗き込んだ。口元は微笑んでいたが匁の眼から感情は読めない。
「僕にはもう流水死命の声が聞こえない。壊れた僕をあなたが殺して、僕の中には虚ろがある。その虚ろに何が充ちるのかは僕自身にもわからない。だから」
「わかった。ほんとは全然わかっちゃいないけど。わかったよ。その時は俺がやる」
匁の手を掴もうとして枷を思い出し、替わりに両腕で匁の肩を抱いた。わからなくても少しは一緒に背負いたかった。自分の小さな背中ではこの難儀な男を背負いきれないとしても。
耳元で匁がそっとため息を吐く気配がした。
桜花も馬鹿は治せないんですね。
そう呟いて匁はキザミから身を離した。
「安請け合いすると大怪我しますよ。それで死にかけたんだからいい加減に覚えてくださいよ」
「俺はこれでいいんだよ! おまえの親分だぞ。任せとけって」
「リーダーじゃなかったんですか」
「あ、俺、将軍になったんだった」
虚勢でも思い切り胸を張る。それが新宿のキザミの生き方だ。
痴話喧嘩もそろそろ頃合いかと鞘姫と刀鬼がこちらに歩み寄って来る。
「流水死命は新宿で預かる。おまえの盟刀だ。取りに来いよ」
匁の返事を待たず、キザミは振り返らずに渋谷の門を後にした。
———
メモ。
タイトルは演劇のキザミの「この空(青空???大空???)の始まりから終わりまで〜♪」から。
キザミvs匁戦でキザミの照明カラーが青なのも相まってすごく好きな詞です。匁の照明カラーは紫。リリックビデオはよう。
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