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西尾六朗
2025-03-16 22:49:52
1305文字
Public
Beyond The 10 Stars
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Étoile(3/16無配ペーパー再録)
「その煙草、重い? んだよね?」
というマスターの問いかけに、巌窟王は応の意味で瞑目した。
「よもや健康を害すると、苦言を呈する心算ではあるまいな?」
「サーヴァントにそれはしないって。でも、うーん。なんかなあ」
マスターは眉を寄せて唸っている。その様子はまるで機嫌の悪い猫のようだ。皺が出来た眉間を押してやりたい気分に駆られるが、両手が塞がっている
――
右手は紙巻、左手は鋼鉄。が、故に、柔肌に触れることは躊躇われた。代わりに天に向けて煙を吐く。
「喫むなと言うのであれば、容易だ。右手を掲げ命じるがいい」
「そうじゃなくて!
……
それ、星でしょ」
エトワールって読むんでしょ。と、マスターは下唇を突き出した。
「キミはよく、わたしのことを星って呼ぶじゃん。だからその煙草が重いってことは、わたし自身も重いって言われてるみたいな
……
あ、ひょっとしてそういう意味で吸ってる?」
喋っている途中で何かを自覚したらしい。瞳を大きく見開き、マスターは前のめりに詰め寄ってきた。
「あ、愛情的なものが重い? いやでもキミも大概だと思うけど! お互い様って
……
何笑ってんの」
「否、良くも器用に百面相をするものだと思っただけだ。だが」
「だが?」
「確かにおまえの情愛は、重篤を引き起こす毒であると、常々思っていた」
ふう、と巌窟王は再び煙を吐く。白煙の向こうで霞むマスターはまだ下唇を突き出したままだ。言いたいことはあるにはあるが、ここはいったん話を聞こう。そんな表情だった。
その仏頂面もじっとりした視線も、
(愛い)
と、何の躊躇いもなく思ってしまう程度には惚れている。自らの重症さを感じつつ、巌窟王は続けた。
「恩讐の炎、其れのみであれ。そうと架したオレを、俺を、私を、腑抜けた只の男に変貌せしめた。いとも容易く、だ。
おまえの情愛は我が身を蝕む毒に他ならず、同時に耐え難き魅力を含む甘露でもある。中毒性も含め、成程。この紫煙は実におまえとよく似ているな」
そこまで言うと、マスターの百面相はまたしても変化した。泣き出しそうな、嬉しそうな、だけれど腹も立てているような、絶妙な表情だ。
「
……
それをわたしに贈るかなあ。どんな顔で吸えっていうのさ」
せめての具合で口にした呟き。愛しさと立腹が同居したその声音も、ああ。
(それすら毒なのだと、唇を寄せずには居られぬと、述べれば歓喜するのだろうが)
そうすればいよいよ手の付けられない醜態を晒すことになる。巌窟王は言葉を飲み込み、目を細めるに留めた。
「不要であるならば捨て置け。おまえの自由を私は縛らぬ。肺への負担を知ってなお銜えるならば、私が火を灯そう」
「悪い大人だ!」
「変わらず、混沌にして悪なれば」
くっく、と喉で笑って見せる。マスターはふん、と鼻息を漏らし、橙の軌跡を描き大股に近づいてきた。歯がぶつかり合う唐突な口付け。肺と口内の残煙が、マスターの口の中に忍び込む。すぐに離れ、マスターはうえっ苦っ、と悪態をついた。
それからすぐに、目を丸くした巌窟王にいっと歯茎を見せる。
「このとおり、キミの副流煙で十分です!」
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