11155.
2022-04-09 12:41:06
4244文字
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あの日の私へ

うちの子、結さんのお話。後半介結あり。過去の自分に伝えたかった言葉ってありますか?

あの日の私へ
 
 目の前が暗くなる、比喩じゃなくて本当に起こることなんだと知った日。
 
 目の前の出来事が全て現実だと受け入れられなかった。そんな彼女に話しかけている人物がいる。
……だから、そうだって言ってるんだ。わかっただろう」
 長い前髪をかきあげながら、面倒くさそうな声で話す彼。しかし目線すら合わない。
……嘘、だよね?……だって付き合ってた、よね……
 震える口をどうにか開けて言葉をかける。彼とその横にいる知らない女性が視界に入るが目線が定まらない。彼女は呆然と眺める中、頭に浮かぶ言葉を否定することしか出来なかった。
「チッ、聞こえてねえのかよ。お前は違うんだ」
 眉を歪ませて話す姿は知っている彼ではなかった。そして、彼女を指差した後、彼に話しかける女性。
「ねえ、あの女誰? 勘違いの迷惑女?」
「そんな感じだ」
 あ!やっぱり!と何が面白いのか愉しそうに笑う女性。その笑いが彼女には理解できなかった。彼は変わらずその女性を抱き寄せて、今まで見た事のない顔で告げる。
「もうお前は要らないよ。結」
 彼に会えると朝から喜んでいた結のある日は、その一言で人生最悪の日へと変わった。
 
「結どうかした? 帰ってきたと思ったら部屋に戻ったきり出てこないし、夕飯の時間もそのまま部屋に居るつもりなの?」
 ドアを数回ノックした後、結の母親が声をかける。
………なんでも、ない………要らない……
 布団に包まる結は更に小さくなった声で返事をする。
「本当に夕飯は要らないのね? 好きなケーキもあるわよ?」
……うん、いらない……先に食べてて、気が向いたら……いく……今は食べられないから」
 彼女の声を何とか聞き取った母はどうしたものかと一つため息をついた。
「そう……わかった。冷蔵庫には結の分を入れて置くから食べられそうなら、食べなさい。ケーキでも良いから」
……うん」
 しんと静まり返るドアを振り返りながら母はリビングへと戻っていく。
 そんなドアの向こうの部屋には、一人、じっとしている結がいた。涙を目に溜めてグッと奥歯を噛み締めている。どうやって家に帰ってきたのかすら記憶がないが、この時間まで部屋にいたのだと母親の声で知った。
……すきだって……言ってた、のに。私は……だから……
 泣くまいとまたグッと眉に力を入れる。溢れる寸前のその瞳には意味がないほどだ。
……なんで、私が、泣かなきゃいけない、の? 悪い、のは、ぜんぶあっち、なのに……
 辛かったこのぐるぐるとした気持ちを吐き出したい、でも何だが泣いてはいけないような気がして、怒りなのか悲しみなのか、はたまた呆れなのか自分でもわからなくなっていた。ただ堪えることしか出来なかった。
 
 ……ニャー……カリカリと音がする。部屋に入りたいと催促する時の音だと結は顔を上げた。今は一人で……と思っていたが、ドアの向こうからはニャーニャーと引っ掻く音が止まない。
 はぁと息を吐くと、のそのそと布団から出てドアを少し開ける。
「ニャー」
 すました顔で見上げる真っ白な猫はチリンと首輪の鈴を鳴らすと、部屋にトトトッと入っていく。
「シロ……今日はちょっと一人で、居たいんだけど……
 ドアの前に立つ結は我が物顔のシロに思わず声をかける。耳はピクピク動いているが、そのまま布団までいくとシロはゴロンと横になりじっと結の顔を見てきた。
「あー、はいはい……猫にお願いしたことが、間違いでした」
 ガチャとドアを閉めると、撫でろと言わんばかりのシロのお腹を撫でた。気持ち良さそうに目を細めるシロはゴロゴロと喉を鳴らす。
「シロは良いなぁ。今日は楽しかった……?」
 ゴロゴロと音を響かせるシロを見ているとなんだが、言葉がこぼれた。
「私はね、酷かったの……昨日まで好きだって言ってた人に、嘘だって……好きじゃなかったんだって…………
 シロをわしゃわしゃと撫でる手は止まらない。
「あの人が、好きだからって髪を染めたり、可愛い服着たりしてたのに……全部嘘だって……一緒に笑ってくれたのに……ご飯も美味しいって……
 視界が歪む。撫でているはずのシロがもう、ただの白い塊にしか見えなくなっていた。
「はじめてだったのに、な………でも、私は、要らないんだって……
 頬を伝うのを誤魔化すように、ぼふっとシロのお腹に顔を埋める。ニャッ!と鳴くが、またシロはゴロゴロと変わらず、静かな部屋に音を響かせる。
「シロ、どうしたら良かったんだ、ろうね……喜んで、くれてたと思ったのに……最初は怖くて……でも優しくしてくれて、好きの言葉が嬉しくて……浮気なんて、私したことも無いのに、なんで……皆するのかな……私が……いけないの、かな…………
 シロのお腹にぐりぐりと顔を押し付ける。それに合わせてゴロゴロと鳴る音は変化する。
……ムカつく……しんどい……なんで、私じゃ駄目なの? なんで、笑われなきゃ、いけないの?……わたし、悪いこと、なんもしてない、よね?」
 だんだんと声が震えていく。漏れる声が大きくなっていく。
「なんで、アイツは偉そうなの?……ごめん、くらい思えよ……違うって言うんなら手出すなよ、バカ……! 私は玩具じゃ、ないんだから! 迷惑女ってなんなのよ……ならすきって言うな! 押しかけたこともないわ……
 声をシロのお腹で籠らせながら、叫ぶ結。シロはむしろ嬉しそうにしていた。
 叫び終わったのか、しんとする部屋で結の動きが止まる。そして顔をシロのお腹から離すと、ぎゅっと両手でシロをだき抱えた。シロのおでこにふわふわの毛並みを感じるほど自分の口元を寄せて。
……でもすきだったんだもん……くる、しいよ……ムカつくよ……
 それから声を殺しながら静かに泣いた。腕の中のシロは温かくて、柔らかくて胸だけはゴロゴロと音が鳴っていた。
 
 
 
 
 桜の花びらが舞う空を眺めていると聞き慣れた声がした。
「結さん!」
 嬉しそうな声はカラーコーンを被っている彼からだった。周りの人がチラチラと見ながら距離を取っているのがわかる。
「こんにちは、丸介くん」
「はい! こんにちはっス!」
 じゃあ、行きましょうと彼が差し出す手を取り、結はその手にぎゅっと力を込めて握る。
「今日はどこに連れていってくれるの?」
「オススメの桜があるんスよ! こっちっス!」
 案内されるまま歩いていくと大きな桜の木があった。周りはその桜を隠すかのように木々に囲まれている。場所が少し奥まったところだからなのか、咲く時期にしては遅い頃だからなのか、周りには人が見当たらなかった。
「え!凄いね!! 満開だし、こんなに近くてゆっくり見られるなんて驚いた~」
 えへへと得意気に笑う丸介。
「俺もたまたまなんですけど、表の桜並木の方で人が多いなと思ってちょっと奥まで行ってみたんスよ。休めそうなところないかなとそしたらここ見つけて!」
 空いている手を使いながら身振り手振りで話してくれる丸介にふふと笑う。
「教えてくれてありがとう。嬉しい」
「結さんに一番に見せたかったんスよ🌸 それが出来て俺が嬉しいっス!!」
 そんな丸介の言葉に結は思わず胸が苦しくなった。こんなに自分のことを思ってくれる彼の姿に目頭が熱くなる。
「結さん?」
 思わず目元を隠すように手を顔の前まで持ってくる結。
「え、いや、ちょっと髪の毛が目に入っちゃって……
「大丈夫っスか!? 見せてください!!」
 ばっと丸介に顔を上に向かされ、まじまじと瞳を見られる結。心音が騒がしいが、カラーコーン越しでよかったと少し安堵する。
「目が少し赤いっスけど傷は無さそうっス! 良かったっス!!」
 こんな些細なことまで心配してくれる。それだけでどれだけ嬉しいか、結は眉を下げ少し泣きそうになる中、堪えて微笑む。
「ね、だから少しだけだって」
「少しでも結さんが傷つくのは嫌なんス! だから心配はさせてください」
 丸介は結の両手を手に取り、カラーコーンを傾けた。結はその手に力が入ると、開いた口から言葉が溢れた。
「もう……丸介くんの、せいなんだからね」
「え? なん、ん?」
 丸介が言い終わる前に結の瞳から大きな涙が零れ出したのだ。
「泣いてる!? 俺のせいって、え、ごめんなさいっス!??!」
「知らない……
 突然泣きだし素っ気ない態度の結に慌てる丸介。でも、そんな結は泣きながらも嬉しそうに笑っていた。
 そして彼女はそんな丸介とのやり取りで思っていた。こんなに笑っていいんだって、今は嬉し涙が増えたんだってあの日の自分に伝えたかったと。
 
 私は今も泣いています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あとがき
 
 久しぶりに書きたくて、過去のお題候補から二つ持ってきました。メインは暗い過去の恋愛経験と後半に今の介結話。SAN値低めの結さんは幸薄タイプなんで、恋愛経験あるがどれも悲しい終わりをしているうちの子です。大体浮気されて終わってますね。ざっくりはそう思ってたんですが深くは考えてなくて、書く予定もなかったんですけど、診断結果があまりにも結さんだったのでちょっと書き出してみました☺️
 でも過去話だけじゃ、中の人が辛い……ってなったので、今の介結を噛み締めてました……てえてえです……。外なんでやっぱりカラーコーンは外せなくて、今回はなんかいつもより描写してしまいましたが、こんなに結さんを思ってくれる丸介くんの隣なら幸せになってるんだろうなと思っています。まあ、むしろ結さんが丸介くんを幸せにするつもりだけどな(中の人より)
 
 
 
 
 ▼お題_診断結果①
 結は、『もうお前は要らないよ』と言われてしまったことが苦しかったようです。
 周りの人は慰める方法を探しています。泣くことで、負担は少しだけ軽くなるでしょう。
 #shindanmaker
 https://shindanmaker.com/680039

 結さんお前ってやつは優しいから……
 
 
 ▼お題_診断結果②
 せっかく結が涙をこらえていたのに、丸介が優しいから泣いちゃった。
 #お題ガチャ https://odaibako.net/gacha/1536?share=tw

 可愛い