貴方のいる光景が
「ずっと貴方を捜していました」
振り返るその姿にさえ目が離せない。そう私が
……と次の言葉を重ねるよりも目線と共に口が顔が身体が動かせなくなっていた。
ある日の休日、ひと息つきたい時に足を運ぶ、バラが咲きほこるその場所へと肇はいた。肇が肩に掛けている手提げのカバンにはいつでも描けるようにとスケッチブックと鉛筆、そして水彩画セットが入っている。肩にかけ直し、涼しくなったこの季節にみられる花を眺めながら肇はバラのアーチを潜る。
「蕾から開き始めるこの時がまた綺麗だよな」
コーラルピンクやレモンイエロー、上品なクリーム色、濃い赤と様々な彩りを見せるバラに頬をゆるめる。葉の複雑な緑に囲まれる中にあるからこそ栄える鮮やかな色に肇は描きたい衝動に駆られカバンに手を伸ばす。しかしその手を止め、顔を上げる肇。
「ここのも良いけど先にある花を見てからモチーフを決めようか」
手をおろしもう少し開けた場所に行こうとバラの生垣の向こうを目指す。行く先々の小ぶりなものや凛と咲く一輪を見渡しながら今年の秋バラを目を細め楽しむ。
「確か、この先にエデンの名前がついたあの花があるはず
……」
顔を覗かせるとどうやら先客がいたようだ。人影に気づくと肇は少し申し訳なくなりながら先にいた方がゆっくりみられるように足を忍ばせる。鑑賞の邪魔になるのは良くないからと少し距離を空けて。そして目に入ったバラたちに心が沸き立つ。
「
……ああ、やっぱりこのグラデーションは良い」
蕾の時には分からなかった白いバラが今は中心からピンクに染まっている。白とピンクの色の重なりをどうやって描こうかと肇は顎に手を添えながら悩み始めた。
ふと、先客の方に目線を移す。先程からじっとその場にいるようで身動きしない様子に少し気になってしまった。失礼にならないように肇は目線だけ動かすと、そこには一人女性がバラを眺めている。
「あ
……」
肇は小さく声が漏れた。彼女が佇むその光景に。
いつもと変わらなかったはずのその場所が何故か心惹かれる。バラが綺麗とは異なる想いがあるばかりで何故声が漏れるのかはわからない。しかし、彼女がいるその空気が綺麗なのだと気づくのはそれほど時間はかからなかった。それは肇が声をかけた時にはもう心から思った言葉が自然と出てきていたからだ。
波打つ長い髪を抑え、きらりと光る大きな瞳の彼女を脳裏に焼き付けるようにじっと見下ろす。
「
……あの、すみません。どこかでお会いしましたか?」
動かない肇に彼女は眉を寄せながら声をかける。驚きと困惑しているその彼女の表情を見つめるだけで、まるで肇は彼女からの問いかけに気づいていないのか返事が返ってこない。急に声をかけてきた男性にどうしたものかと彼女は首を傾げる。捜していたのであれば何処かで出会った人なのかと思い声をかけたものの、どうしても思い出せなかったからだ。明るい髪色のショートヘアーに長い睫毛、凛とした印象の彼ならば忘れることは無さそうなのにと思いながら、はっと声をかける別の理由が頭に浮かぶ。まだ反応がない内にと動かない肇へ言葉を続ける。
「そういえば友人との用事があるので移動しようとしたんです。急ぎでなければまた別の機会にでも」
にっこり微笑むとその場を離れるため一歩を踏み出す。すると先程まで止まっていた肇が離れようとしていた彼女の腕をさっと掴む。
「えっ、何ですか
……?」
驚き、声が震える彼女に肇はあ、そのと躊躇いながらも目線を合わせる。彼女より頭一つ背が高かった肇は少しでも距離が近くなるように。
「すみません、その、貴方が次にここに来るのはいつですか?」
突然腕を捕まれ驚くばかりの彼女には肇の行動も問いかけの意図も全くわからなかった。ただ怖いと思ったのと同時に瞳を揺らしながら懇願するような表情にその場を離れようとした自分に少しの罪悪感を覚えた。震える声を抑えながら返事をする。
「
……来週の、今日と同じ曜日と時間帯に」
「いらっしゃるんですか?」
「は、はい
……」
来るかどうかは悩んでるけどと余計なことは飲み込んでおく。肇はほっと安堵したのか、目を細め嬉しそうに表情と腕を掴む力が緩む。すると肇は今の状況に気づき目を見開く。今更ながら彼女の困惑している原因が自分なのだと。
「
……あ、いえ!! すみません!! 突然呼び止めてしまって
……!」
ぱっと手を離すと肇は熱くなる頬を抑えながら何度も頭を下げる。
「ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。あの突然の事で本当に驚かせてしまって
……」
「え、えぇ
……驚きましたが、あの、そこまで謝らなくても大丈夫ですよ
……?」
「いや、予定もあるのに
……せめて、あの私、ながせ、那俄性と言います。確かここに、名刺が
……あ、あった、この字です」
胸ポケットからさっと名刺を差し出す肇に色々と追いつけていない彼女は、はぁと言いながら名刺を受け取る。
「ながせ、はじめ? さん?」
緑と青を基調としたデザインで挿絵に花が描かれている。爽やかなその名刺に名前の「那俄性 肇」と連絡先が書いてあった。
「はい、あの実は画を描いてまして。簡単ですが今出せる名前がわかるものがこれぐらいしかなくて
……」
はにかんだように唇を歪める。
「もしご迷惑でなければ
……来週、この場所で会っていただけませんか?」
静かに笑う肇の表情を彼女は見つめ、名刺に視線を落とす。隅に描かれる花をそっと指でなぞる。
「綺麗な花ですね。これを描いたのは那俄性さんですか?」
「えっ、はい
……そうです」
彼女はふっと笑いながら顔を上げる。肇と目線を合わせながら。
「いいですよ。来週この場所で会いましょう」
目を瞬く肇。一瞬何を言われたのかわからなかったが、会う約束の話をしてくれたのだと驚きに顔を歪ませながら嬉しそうに笑う。
「はい
……!」
「じゃあ、急ぎますので。御機嫌よう」
名刺を両手で持つ彼女はそのまま歩き出す。彼女の姿を目で追っていると、急に立ち止まり少し顔を向けながら声を掛ける。
「あまがせ、天ヶ瀬です。次の時はお名前で確認しましょう」
そのままツカツカと靴音を響かせながら歩く天ヶ瀬。肇は声を震わせながら、天ヶ瀬に届くように声を張り上げる。
「ありがとうございます! 天ヶ瀬さん!」
肇は彼女が見えなくなるまで見つめていた。目を閉じると彼女を思い浮かべられるくらいに。
男女が白いテーブルの席に向かい合うように座っていた。爽やかな青色の紅茶を一口、口に含むと向かいにいる男性が声をかけてきた。
「今更ながら目の前に貴方がいることが不思議でならないよ」
こくりと紅茶を飲み込んだ女性はふふと笑う。
「あら、どうして?」
「自分で言うのもあれだけど、初対面が酷すぎたじゃないか」
「まあ女性からしたら怖いと思うでしょうね。那俄性さん」
うっと眉をひそめる彼、那俄性肇は相手の言葉にすみませんと謝る。クスクスと笑う彼女に微笑み、そして少しバツの悪い顔をすると肇は口を開く。
「はあ、もし良ければいつものように名前で呼んでくれませんか? 苗字だとそわそわしてしまうんだ」
「そうね。肇。あなたも天ヶ瀬じゃなくて名前で呼んでね」
「そうさせてもらうよ。つむぎさん」
「ふふ、でもあの後、画のモデルになって欲しいと言われた時も驚いたんだから。会って二回目でその話だから真剣そのものだとは思ったけどナンパじゃないか気が気じゃなかったわよ」
飲んでいた紅茶をこぼしそうになり、肇はひとまず机にカップを置く。口元が濡れていないか確認しながら項垂れる。
「人と話すのが苦手だとはいえ、周りがどう受け取るのかを考えずに突っ走りすぎました
……反省してます
……」
「反省してるなら大丈夫。それに
……」
言葉を続ける天ヶ瀬つむぎに肇は顔を上げる。
彼女はレモンを一つ手にして、紅茶に果実の汁を数的垂らしている。すると青色から鮮やかな紫色の紅茶に変わっていき、その変化に愉しそうに口元を緩ませた。
ああ、綺麗だと思う肇へ顔を向けた彼女はより一層輝く笑顔を携える。
「きっと大丈夫だって、今なら言える」
あとがき
お久しぶりです。投稿欄見たら一ヶ月ぶりなんですね
……そんなに経ってたのか(震え声) かきたい想いはあっても作成までの気力が足りてないそんな感じですが、またちょっとずつでも作成できたらと思います。
さて、今回はほぼ初のうちの子CPをテーマに作成してます。CoC探索者でなく、完全に創作ですね。ただ元ネタがないと設定出来ないとの問題があったので診断メーカーには沢山お世話になりました。そんな診断メーカー、花に例えるといったもので下の名前から男女を作成し、今の肇つむになってます。書き始めたら肇の大人しいイメージから激しい性格になっていって正直困惑してる中の人。まあでもつむぎの愛は大きくなる予定なのでお互いが重い想いを持ってるなら良いんじゃないかな?と思ってます。
設定はこれから深めていきますが、尊い気持ちを表現したい時にはこのうちの子CPでかいていくと思います。うちよそCPの想いは変わらないのでぶつけ過ぎないようにこの二人を作ったような感じですが、楽しんで作成できたらなと。
▼呟き元
▼呟き元_短編テーマ
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